第16話 新領域
「問題はそこじゃないわい! 見よ、これまでの法則ならば新エリアは南西に現れて然るべき。東に出現、これは世界を揺るがす新発見じゃぞい!」
(いやちょっと待って。この世界って平面なの?)
(はぁ?)
ジジイは「なにを今更」という感じでフリーズしている。なんてことだ、ここは地球平面説の世界か。
「なにを感動しとるか知らんが、とにかく今度の新領域はこれまでとは違うんじゃ。見よ、この禍々しい姿を!」
新領域に最も近いJASIN研究所から超望遠カメラで捉えたという映像。そこには天を突く立派な建造物が映っている。
「潜入した者によれば、そこには多数のネズミ型モンスター闊歩しているという」
(ほうほう)
「老いも若きもネズミに扮し、ネズミ型モンスターを抱え、もしくはそれを模したぬいぐるみを小脇に抱え、ネズミを取り囲んで熱狂するのだそうじゃ」
(ふむふむ)
「そればかりか、夜な夜な怪しい行列を成しては踊り狂い、領域内を練り歩き――領域を訪れた者は、皆ネズミに心を奪われ、ネズミに傾倒して戻って来る」
(宗教法人かな?)
「恐るべき魔の領域、その名も魔異浜!」
(おいやめろ!)
(なんじゃ。恐るべき特異点はまだあるぞい、高額なポップコーンやチュロスが飛ぶように売れたりじゃな)
(だからやめろっつってんだろ!)
耳を塞いでも、外のクローンと中の本体が同じことを言ってくる。くそっ、音声と違って思考は遮断できん。
いや知ってるよ。いくら入場料を上げても押し寄せる来訪者。誰も混雑をものともせず、長い待ち時間もお構いなしで、皆ニッコニコの笑顔で帰っていく夢の国。しかも脅威のリピート率を誇る中毒性。よく存じ上げておりますとも。俺もかつて無理やり連れて行かれて、帰りにはカチューシャ付けてウッキウキで土産を抱えてたもんな。夢の国ちょーこえー。
しかし魔異浜の本当の恐ろしさはそこじゃないんだ。チョサッケンとかショーヒョーケンとか、巨大資本相手に洒落にならん。
(ちゅーことで、魔異浜はナシ)
「なんじゃなんじゃ! それじゃあなんのためにエレキネズミを育てたのかわからんぞい!」
(そのために育てたんかよ!)
(ギャウ?(ドロドロママ、ゆめのくにってたのしいのか?))
えっ。
(チュピ!(ポップコーンっておいしそう! ぼくたべたい!))
(ホヘ(あたしおしろにはいってみたい))
(シャキイイン(拙者はヒュージサンダーマウンテン))
(ゴロ……(チュロス……たべたい……))
お子様モンスターが反応したのを皮切りに、大人(?)モンスターまで興味を持ち始めた。おいロックイワ、お前は岩を食うんじゃないんかよ。
(シュビビ! シュビビ!(魔異浜! 魔異浜!))
(ビチビチ! ビチビチ!(魔異浜! 魔異浜!))
ヤバい。俺の中であらゆるモンスターが魔異浜のシュプレヒコールを上げている。これは行くしかない流れ……?
(決まりじゃな!)
(ビビビビ!)(ゴモモモ!)(ゴラーッ!)
俺の気持ちが魔異浜に傾くのを察知して、ジジイやモンスターたちが快哉を叫んでいる。正直、地雷原に足を踏み入れるのは気が進まないが、様子を見てダメそうなら即撤退ということで。
てか、トレントやウニはどうやったって外に出せねぇだろ。植物系は全滅、魚も無理だ。
(シュビ?!)(ビチ?!)(ビビ?!)(ゴモ?!)(ゴラーッ!)
渡航前に絶望するモンスターたちをよそに、俺とジジイは潜入作戦を進めた。




