帝国の影
門に着いてサーチで周りを確認する。近くに人の気配はないので、帝国軍は遠距離からの魔法攻撃で門を壊すつもりらしい。
遠くから飛んで来る火球をテレスさんを始め、ここの人達が水や火の魔法をぶつけて、撃ち落としたり威力相殺して何とか対応しているが、追いついていないので防壁が所々崩れかけている。来る時に見た防壁はこのせいだったのか。
「アナサマの人達は魔法が使えるんだ」
「ウィル、感心してないで何とかしないと」
「おっと、そうだった。マジックシールド!」
対魔法用のシールドを張ったので、火球は弾かれ沼地に落ちたりシールドに当たりそのまま消滅する。
「おお!」
「テレスさん、防壁の上には何処から上がるんです?」
「貴方でしたか……助かります、あそこの階段から上に行けます」
「分かりました。サユリカ、フレア行こう」
「「はい」」
防壁の上から見ると、遠くに帝国軍が陣を張っているのが見える。
「シールドの内側からは魔法攻撃が出来るから存分にやってくれ」
「解りました」
「了解」
「アイシクルディフュージョン!」
フレアが放った氷魔法が帝国軍の上空で形成され、氷の塊がはじけ、幾つもの鋭い剣の様になって降り注ぐ。
しかしそれは帝国軍に届く事はなかった。
「あら?」
「それなりに魔法を使う奴がいるみたいだね」
「魔法障壁を張れる人がいるのですね」
「フレアが囮の魔法を撃って弾かれたら、俺が障壁を壊す魔法を出すから、サユリカは直ぐに仕掛けてくれ」
「任せて」「解りました」
「いくわよ。アイシクルディフュージョン!」
「ディスオーダーメソッド!」
「エクスプロージョン!」
フレアが撃った魔法は予定通り弾かれた。一拍おいて俺の魔法方式を意味の無い物にする魔法が障壁を覆い尽くし、そこにサユリカのエクスプロージョンが炸裂した。
「決まりましたね」
「追い討ちと行こうか。ライトニングウェーブ!」
「じゃ、私もっと。ライトニングウェーブ!」
「私もです。ライトニングウェーブ!」
地を這うようにバリバリバリと音をたてながら、放電による光と共に帝国軍に襲いかかる、それも時間差で3発。
「どうなったかな?」
「音沙汰が有りませんね」
「炭になったのでは?」
「なら良いか」
☆☆☆☆☆
「へ、陛下、たった今アナサマからの情報が入りました」
「おお、そうか。今回は首尾よく事は進んだであろう」
「そ、それが……全滅したとの知らせがあったとの事です」
「全滅だと!前回の失敗を踏まえて優秀な魔道師を揃えた筈だ。1万もの兵士を連れて行けば必ず落とせると、息巻いておったザケロ将軍は何をしていたのだ」
「も、申し訳ございません。見に行った者に依りますと全てが炭になっていたそうでございます」
「全てが炭に……」
「陛下、アナサマには手を出さない方が宜しいのでは?」
「ギレル、貴公もあそこの重要性は知っておろう」
「それは承知しておりますが……」
「くぬぅ、もっと策を練らねばならぬ様だな。会議を行う、皆を召集せよ」
「はっ」
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帝国軍を撃退した後、再び長の建物に招かれた。今度はフレアとサユリカも一緒だ。
「食事はとても美味しかったです」
「それは何よりです、あなた達がいてくれて良かったです。お約束通りお話しの続きを致しましょう、ですが他言無用と言う事でお願い致します」
「解りました」
「先ずは帝国の件ですが……私達はスキルとは別の能力が有るのです」
「別の能力ですか」
「はい、その力はスキルと同じ様な物も有りますが違う物も多く有ります。アナサマは特殊な場所ですので知られる事はなかったのですが……」
「帝国は何らかの形で気づいてしまったんですね」
「そうです。自国で生まれた者の中にいたのでしょう。それで、ここの者を連れて行こうとしたのです。特に子供達を」
「戦争に利用するつもりか?それにしても攻撃して来るなんて……帝国はゾアスタ教では無いから殺してもかまわない、と言う事か」
「酷い話ね」
「ウィルさんはもう1つ聞きたい事が有るのでしょう?」
「……はい、大変失礼な言い方になってしまうと思いますが……気を悪くしないで下さい」
「構いません」
「俺が小さい頃、ここの話は色んな所から聞いていました。それは子供の俺にとって、とても恐ろしい事でした。でも、ここの人達は俺達と変わらない。なぜですか?」
「……異形の姿で生まれれば皆、この地に来ることになり己の宿命を呪い、普通の姿に憧れる。いいでしょう貴方には私の本当の姿をみせましょう」
テレスさんは立ち上がり着ている服を脱いだ。上半身は鍛え上げられて均整がとれ、非の打ち所が無い健康美と言って良い。
しかし次の瞬間全てが終わる。
うっ、…………腕が4本……2本生えて……き……た。
「特殊な能力を持っている私達は長い年月をかけ、肉体を変化させる事が出来るようになったのです」
「そ、それで……」
「もちろん出来ない事も有りますが」
「そんな大切な秘密を教えてくれたんですね」
「病気に対して差別の無いウィルさんには、私達の心情を理解して欲しかった」
「い、いや、それは買いかぶりすぎです。治せると判っているからでして」
「ふふ、それだけではないと思いますが」
それから俺は、一刻の猶予の無い人達から1人また1人と治して行った。
「ウィル、良いですか?」
「何ですかアリスさ、ま、いや、アリス」
「ぷっ、何それ」
「仕方ないだろフレア、いきなり呼び捨てになんて出来ないよ」
「そろそろここに来た理由を話して下さい」
「そうでした。実は……」
ーー
「お父様が……」
「お姉様、父上を止めなくては」
「ウィル、お父様の所へ」
「はい、と言いたいのですが、居場所は判らないですし、いつ街を襲ってくるかも判りません」
「そうですか……しかしその街へ連れていって下さい」
「解りました」
ーー
「戻られるのですね」
「はい、帝国もあれだけの力を見せられたんです。暫くは攻めて来ないと思いますし、直ぐに戻ってこれるように造りたい物があるので、場所を提供して貰えますか?」
「造りたい物?解りました、用意しましょう」
「これは、魔法陣?」
「そうです。これで行き来が瞬時に出来ますよ」
「……ザラストの弟子ですか。うむむ」
「皆、魔法陣に入って」
「「はい」」
一旦帰って師匠に報告だ。
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