仇
バゴラと会うところは王都の貴族が通う高級な食事処コッキュールと言うお店だった。
昼時なのに店内に客はいない。支配人らしき男に要件を言うと俺達を奥の席に案内する。この前来た使いが俺の顔を見ると、偉そうに座っているバゴラを紹介した。
「こちらが主のバゴラ様で御座います」
「デュオと申します」
「ふん、若いな」
「さ、こちらにどうぞ。本日はもう御一方お見えになります」
フェイクライフのアーサーは俺が座ると後ろに立った。仮面をつけているので誰も2200年前に、あの魔王を倒した勇者とは判らない。もっとも顔は古い肖像画だけしか残ってないので、知ってる人は居ないと思うけど。それにしても、もう1人って誰だろう?
店の前が騒がしくなった。直ぐに護衛を連れて一目で貴族と判る男が入って来た。
ガレキーニ!まさかこんな所に来るとは。心臓がバクバク言い出した。予想外だ。どうする?直接の面識は無いし認識阻害の魔道具があるので大丈夫な筈だが。
「いらっしゃいませ、ガレキーニ様」
「うむ、待たせたな」
「いえ、私どもも今来たところで御座います」
使いの者に促されガレキーニに挨拶をすます。
「そなたの後ろにいる者は、何故そのような仮面をしておる?」
「この者は幼い時に魔物に襲われ、顔に酷い傷を負いまして、人前にはとても見せられません。失礼をお許し下さい」
「構わん、見せよ」
「はい」
どうする?ここでガレキーニを始末するか……流石にここでは不味い、店の皆の顔も知られているので活動がしにくくなる。それにガレキーニを殺すことが目的の全て出はない。ここは自重する。
フェイクライフの容姿形を変えると、本来の能力が使えなくなるが、最悪この程度なら俺だけで乗りきれる。
「アーサー、仮面を筈しなさい」
「はい」
アーサーが仮面を少しずつずらして行く。変色して爛れたような皮膚が見え、目蓋の無い目がギロリと皆を見る。現れた鼻の凹凸は無く2つの穴が見える。
「うっ、分かったもう良い」
アーサーが仮面をつけ直すと、料理が運ばれてきた。
食事をしながら王都で起こっている世間話をした後、バゴラが話を切り出して来た。
「お前の店で扱っている香辛料と海産物を私の店に卸して欲しい」
どうしようか?もちろん、そう言う話は断るつもりだったが貴族のガレキーニがいるので強気に言うと面倒だ。
何かいい口実を考えないと……。俺は子供の頃に読んだ或る物語を思い出した。王族ではあるが、母が身分の低い者だった為に数奇な運命をたどった若者の話だ。
「申しわけありません。あの店は主の命で出しているので、私の一存でお答えする事が出来ません」
「なにっ!」
「主とは誰だ?」
「ハミルトン王国の王の血をひいておられる御方で御座います。訳あって王位継承権を特例をもって放棄が叶い、気儘にお暮らしになっておられます。皆様の事はお話し致しますが、ご希望に沿えないかもしれません」
「そ、そうか」
ーー
「ガレキーニ様、いかが致しましょう?」
「私の差し向けた刺客があっさり殺られたのだ。ただ者ではないのは間違いない。資金が減るのは癪にさわるが、暫くは様子を見るとしよう。バゴラ!至急、代わりになる物を考えよ」
「は、はい」
ーー
「ガレキーニが来たのですか?」
「はい、焦りました」
「奴らも堪えているのよ」
「ですね」
「で何ですって?」
「品物をバゴラ商会に卸せってさ」
「なんて返事したの?」
「それはだ……」
「あはは、よくもまぁ、そんな話をしたわね」
「切羽詰まって思い出したのが、"復讐の岩窟王"の物語なんだ、しょうがないだろ」
「信じたのかしら?」
「一国の王の血筋だと言われれば、嘘でも本当でも簡単には手が出せないだろう」
「そうですね、暫くは何事も無いでしょう」
「次はどうするの?」
「エドオリオの街にも店を作る。そして裏の稼業を1つずつ潰して行く」
バゴラのフェイクライフを造って1つ判った事がある。フェイクライフで、ある人物を造ると、元の人物の知識を持っていると言う事だ。
それでガレキーニのフェイクライフにを造って、繋がっている者全てが判明した。暗殺組織もその1つで、各地に多く存在する。手始めに、ここから攻める。宮中の情報は欲しいのでベンジャミンは引き続き中で頑張ってもらう。
「ガレキーニの奴、慌てるだろうね」
「情報がどっかから漏れているとしか考えられないから、部下を信用出来なくなって疑心暗鬼になるわよきっと」
勇者アーサーの力を借りて犯罪組織、暗殺組織を順調に潰して行く。これで奴らの機動力も落ちるだろう。
店の方も上手く行っている。あれから店に嫌がらせや襲撃は無い。今日は店も休みの日なので各々別行動だ。
俺はサユリカを連れて、久しぶりにギルドに顔を出そうと街に出た。
「ウィル君」
「えっ?」
振り返るとそこにウエリントン子爵がいた。ウエリントン子爵の顔を見た俺は、何故かホッとした。
だけど物事はそんなに簡単にはいかなかった。
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