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明石優魔のノート

 このノートの、この末尾を目にしているという事は、ボクはもうこの世を去っているのだろう。それが『恋桜の首吊り死体』であるならば、紛れもなくボク自身の意思に他ならない。

 ボクの死の動機は一つ。『ボクは未来に対して、一切の希望を持てないと理解した』からだ。

 この家もそう、幼稚園、小学生、中学生と生きて来たボクは、そのすべてのコミュニティから悉く『異分子』と認識される性質を保持していた。何か病的な素養があるのかは知らないが、ともかく『普通の人間ではない』事は間違いない。

 弾かれて辛かった? 人生はこれからだ?

 否。逆である。『幼少期からずっと、異分子として認識され続けた』ボクは、このまま成長を重ねても、矯正ができるとは思えない。一応ボクも修正を試みたが、どうも自然体で普通になれる人と異なり、ボクは『普通』になろうとすると、どうしても演技臭くなるようだ。


 それにボクは……いかに普通や常識が信用ならず、無責任で、良識が無いかを体感してきた。個性を生かすとか、一人一人を尊重するとかは、全く持って嘘である。もしその通りであるならば、ボクは『異分子』ではなく、個性として受け入れられるべきではないだろうか?

 他にもボクには、ありふれた言葉や常識的な感覚が……時々ちゃんちゃらおかしく思える場面が、多々存在する。丁度良いので『個性』と言う単語を使って例を挙げよう。


 例えば『自分らしさを探す』『個性を出す』などと抜かす輩がいる。これは異分子であるボク……ここでは『極めて個性的』と言い換えられるボクに言わせれば、全く話にならない。ボク目線では……自分らしさを何とか探そうとしたり、無理やり個性を抽出しようとしているように見える。そこまでしなければ『自分の個性』を外の世界に示せない時点で、その人物の個性は全く大した事が無いと断言できる。

 真に『個性的』であるならば……無理に探さずとも、強引に変わり玉を投げようとせずとも、自然と『個性』が外に出る。いや、本人がどれだけ隠そうとしても『個性』が出てしまう。何をしようと、どう足搔こうと、出てしまうのだ。その人物本人の臭気が。


『個性を磨く』『自分らしさを探す』『自己啓発して自分自身を発見する』――これらの行動に没頭できる人間の個性は、一人残らず『凡庸から少しはみ出す』程度の個性で止まる。個性の強度としては絶対に一流にならないのだ。

 それに……ボクとしては、ボクの個性を人に押し付けられるなら、是非そうしたい物だ。どこへ行っても異端だと弾かれ、ボクとしては自然体でいるのに、勝手に異常扱いして弾かれる気持ちにもなってほしい。自分らしさをや個性的を『素敵だ』と称賛し、必死に探し求めながら……いざ本物の『異分子』を見つけると拒絶反応を起こす。君たち普通の人間と言う奴は、全く持って度し難い!


 ゴホン。だからボクは、堂々と道を外れる事にした。まさしく異常者として、魔術や呪いの世界に足を踏み入れる事にした。

 幸か不幸か、ボクには呪術の才能が有った。周りが思うほど万能じゃないが、あの学園内であれば、ボクの権能はかなりの物と自負している。

 しかし……それも精々、高校卒業までが限界だろう。

 そもそも「学校」と言う環境が、呪術の行使に向いている。教室ごとに違うハウスルール。迫る高校進学へのストレス。思春期特有の多感な時期……恐らく中学生と高校生が、最も呪いが蔓延しやすい環境だろう。――つまり、ボクの最盛期はどう頑張っても、高校が打ち止めだ。


 その後の未来は容易に想像がつく。ただ異分子として弾かれ、特に異常性も見当たらないのだから……本人の努力不足とレッテルを張って、誰もがボクを嬲るだろう。それを嘆いて喚いても、ますます無様と嘲るのだろう。

 ボクは憎い。度し難い。君たち『普通』そのものに対して、生理的嫌悪感さえ催す。そこに弾かれるのも苦痛なら、君たち『普通』に擬態して生きる事も吐き気がする。だからボクは、ここで死ぬことにした。


 しかし……ここで『ただ』自殺してしまっては、君たちに都合よく解釈されるだけだろう。ありもしない同情心を偽造して、勝手に憐れんで自慰に耽るのだろう。

 そうはいかない。ボクは君たちに染まらない。ボクは自らの命を賭けて、最後に特級の呪いをこの世界に刻む努力をしよう。失敗すれば早死にだが、成功すればボクは伝説になる。滅びが見えている、長く苦しい人生を脱却し――ボクが好む神と呪いの世界に、足を踏み入れる事が許される。勿論、かなりの割合が賭けだが、決して分は悪くない。この呪いの正体を知ったところで、おそらくその頃には、解呪も間に合わないだろう。


 告白で仕込みは終えた。今までボクが行使してきた呪術の名残も、多少は後押しするだろう。後は……不吉な気配の残っているうちに、失恋や破局のエピソードが起こる事を、運命のイタズラに身を任せるほかない。まぁその頃にはボクは、肉体を失っているのだろうけれど。

 あまり素直に言うと、解毒剤を作られるかもしれないが……ボクの目的を端的に示しておこう。

 ボクが恋桜で死ぬ理由。それは――『ボク自身が、呪いになる事』だ。


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