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ブルーブラッド  作者: 人間性限界mohikan
一章『流されるもの』
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十四話、ゴミ漁りの流儀

地味に難産だった都市脱出編が終わったので結構すらすら書けているのでこれからも頑張りたいところです。


アスマと合流して数日が経過した。

現在集団の車列は彼らが補給の為の拠点として使っているという『トウカイ』の一都市に向っており、自分はそれに便乗している形だ。


最早、あの都市に回収すべき資源は無く、残りの人員の帰還も期待出来ないという事で、アスマと語り合った次の日には一行は移動を開始した。

プーミの様な『視える』人材が多いのか、車列は昼夜を問わずに移動を続けており、あと一日程度で街に着くそうだ。


未帰還者12名、それがアスマが語った今回の遠征での損失であった。

自分たちが現れなければもっと早く帰路についていたという事であったので、回収されたのもまた幸運だったと言わざるを得なかった。


今回、あの既に『枯れた』という都市に彼らを含めてゴミ漁り(スカベンジャー)たちが集まっていた理由は他ならぬR達に原因が有ったのだという。


既に誰も扱えない様な機材や武器を持った見知らぬ集団がこれまたもはや誰も使えないであろう飛行物体で続々とやってきたと思えば、既に回収出来る物資の枯れた街で何かをやり始め、しばらくしたら音信不通になった。


そして更に強力な兵器として知られていた重強化外骨格 (マトリョーシカ)を有する全身装甲服で固めた重装備の軍隊がやってきてこれまた消息不明。


つまり彼らにとって宝の山と呼んでも過言ではない遺物が大量に手に入るチャンスが突然降って沸いてきたという状態だ、ゴミ漁り(スカベンジャー)という職業柄であれば行かない方がおかしいという物だろう。


ゴミ漁り(スカベンジャー)にとっては他人の悲劇は飯の種なのだ。


そうして集まった結果として屍者も発生もしくは外部から流入し、フェイズ3が生まれる程にまで大量発生を起こしたという事なのだろう。


しかし、自分達はその災厄から生き残った。

今回の話はそれでおしまいだ。


アスマは12人の部下を失ったのだろうが、こちらは合計で一個大隊以上の兵士と技術者を失ったのだ。

今頃ホームではこれに対する責任問題で紛糾している頃だろう。

大きな変革が起きるに違いない、自分がそこに関われないのが残念だ。


生き残ってしまったからには再び人類の為に戦いたい。

その願いが強くなる。

しかし、それはもう叶わない。


今の自分はただ、流れに流されているだけなのだ。

そして今も流れに乗って彼らの手伝いをして時間を過ごしている。

ともかく、街に着かねばこれ以上の進展が無いのでどうにもならない。


一つ、良い変化が有ったとすればニシが自分の事を『おっさん』から名前で呼ぶ様になった事だろうか。

仲間を見捨てた事は恐らく忘れてはいないだろうが、それに加えても使えると判断して親密になろうとしてくれているようだ。

協力者とするには良い傾向だ。



「R!てめぇ、俺の銃の弾倉に限界まで弾込めたろ!ふざけやがって!」



そんな協力者が本気で罵声を飛ばしてきているという事を除けばだが。



「ニシ、君の銃は20連マガジンの筈だと思ったんだが…」


重強化外骨格 (マトリョーシカ)も積まれた大型トレーラーの揺れる荷台の中に設置されたワークベンチで手伝いを兼ねてニシ達の銃を整備し、即応用の弾倉に弾を満タンまで積める。

遠征軍ならば通常業務と言っても良い作業にニシがキレている。

手伝ってやったのに後出しルールで怒るのは中々に理不尽ではないだろうかとRは半ば本気で感じていた。


「10発までにしろ!バネが駄目になっちまうじゃねぇか!」

「バネは消耗品だろう、交換すれば良いだけじゃないか」


バネとは弾倉の中にある薬室に弾を送り込む為にの物で、使ってる内に徐々に駄目になってくる。

弾を最大まで入れれば当然、バネは押しつぶされて反発力が落ちてくるのだ。

バネとしての機能を果たせなくなり、弾を薬室に押し出せなくなるとこれが装弾不良の原因となる。

だが、これは消耗品である以上は仕方のない事だ。

すぐのすぐに駄目になるものではないし、仮に駄目になったらならば交換すれば良いだけの話である。

Rの故郷では極当たり前の話だった。


「んなもん有ったらこんなせこい使い方してねぇよ!」

「なんだって?ニシ、君はこれが基本的な装備と言っていた記憶があるのだが、予備は無いのか…?」

「こいつに合うのはもう無いぞ」


『こいつ』という言葉にRは嫌な予感を覚える。

出来ればその事実と遭遇などしたくも無かった。

だが、聞かねばなるまい。

知らぬ事でこの先更なる絶望として遭遇する事になる前にだ。


「ニシ、まさかと思うが…共通規格って奴を知ってるかな?知ってるよね?」

「なんだそりゃ?銃の製造って基本手作業だろ?修理するなら職人に預けて部品から作って貰わねぇと駄目だ」

Holy Shit(なんてこったい)…」


共通規格化という概念まで死んでいるとなると同じ銃でもニコイチ、もとい共食い整備もまともに出来ないという事だ。

この世界の銃器は壊れたらそれで終わりと考えた方が良いという事になる。


文明の衰退をある程度は想定はしていたが、これはあんまりにもあんまりでは無いだろうか。

Rは貧弱とは思っていたが、本格的に困窮しているゴミ漁り(スカベンジャー)たちの…いや、この世界の技術水準と懐事情に改めて頭を抱えた。



―――


「よう!相変わらずニシに遊ばれてるみてぇだな!」

「ああ、酷いもんだよ。彼も、君らの技術水準も」



昼時となり、食事と休息の為に車両が止まるや否や、ドライバーをしていたアスマにRはからかわれた。

運転席と荷台は直結の扉が付けられており、そこから移動できるように改造が施されていた。


これは荷台に閉じ込められただとか運転席が破壊されてミュータントが侵入してきただとか、そういう時に脱出する為に付けた物だが、案外便利なのでこうして移動にも使っているのだそうだ。



「そう言うな。あいつがなつく大人は珍しいんだ、仲良してやってくれや」

「大人か。初めて会った時も大人を信用していない風な事を言っていたがそれでは集団生活も大変だろう」

「ああ、それなら心配ねぇな。俺以外は皆あいつと似たり寄ったりだ」

「……つまり皆捨て子の類だと?」

「おうよ」


よくよく見れば、彼らの運転するピックアップトラックや荷台の火砲を運用する者達は基本的に背丈が低い事にRは気が付いた。


皆が皆、子供であるとするならば、アスマは集団のリーダーであると同時に唯一の大人であるならば、確かにニシの大人嫌いが治る筈がない。


彼らがボロや外套で顔や体を隠しているので気付くのが遅れてしまった事にRは自分の観察能力が落ちてきている事を痛感した。


慣れない環境、食事、長時間の移動は着実に自身の体力と精神力、そして判断力を蝕んできているようだ。

良くない傾向だ、街に付いたら最初にすべき事は休息かも知れない。


「孤児、捨て子、奴隷の売れ残り、それに悪魔憑き。まあ、うちにいるのは大体そういう行き場のない子供だわな」

「アスマ、君に児童福祉や慈悲の心が有るとは知らなかったよ。大人を雇った方が作業効率は良いんじゃないのかな?」

「まあ、俺も親が早くにくたばって身一つでやってきた人間だ。そういう奴らを見るとつい拾ってきちまう。それに…」

「それに…?」

「いや、何でもねぇ。忘れてくれ。それより飯にしようぜ!飯に!」


アスマは最後に何かを言おうとし、しかしすぐにそれを取り消して荷台を開いて外へと飛び出した。

そして車両を動かして車両自体を壁とした円状の仮陣地を作り終えた少年達に食事の支度をする様に伝えた。


「……アスマ、ところで今日の献立は?」


Rは気が進まないが念の為に今日のメニューについてアスマに質問する。


「干した青豆の塩スープと泥パン、いつも通りだろ?蛇肉いるか?」

「いや、遠慮しておく」


今回の食事も酷い物になりそうだ。

Rは既にほぼ無味なれど不快感無く腹に溜まるの標準食が恋しくなってきていた。


そんなゲンナリとした気持ちになると共にアスマが最後に言おうとした言葉について考えようという意思もすっかり消えてしまった。


故に、そうして消耗して油断しきった自身にアスマがこれまで異なった視線を向けている事にもRは気づく事が出来なかった。


―――


それから車両に揺られて数時間、日は沈み始める中、街の近くまで来たという所で車列は停止した。


「朝までここで待つ。太陽が昇らんと扉が街の開かねぇからな。覚えとけよ、夜中は街の扉は絶対開かねぇ」


アスマはそう言うとトレーラーを停止させて増設したと思しき装甲版で窓や出入り口を封鎖した。


「こうすりゃ夜中も安全だ。鉄板をひっかく奴はいても中まで入り込もうって奴はあんまりいない。いたら電気と花火で追い払う」


他の車両も同じ様に窓を鉄板で作られたシャッターや扉戸を閉じて夜の籠りの準備を始めているようだった。


「やる事もねぇんだ。さっさと寝るに限るぜ」


作業を終えて操縦席から荷台に移ってきたアスマはさっさと鉄の床に毛布を敷くといつもの様にすぐに寝息を立て始めた。


「相変わらず早いね。僕も寝るとするか」


アスマの例に習い同じく寝ようとしていると、そこにニシが近づいてきた事に気づきRは顔を上げる


「R…その…」


何か後ろめたい事を隠しているような、どこか挙動のおかしい仕草をニシはしている。

本来の万全なRならばここで何かを察し、気づいていたかもしれない。

しかし、既に疲弊していたRにはそこから何かの意図を読み取る事は出来なかった。


「なんだいニシ?」

「いや、明日にするわ。(わり)いな…おやすみ」

「……?おやすみ」


ニシにしては歯切れの悪い態度にどこか引っかかりつつも、しかしそれ以上の事を感じなかったRはそのまま訪れた睡魔に任せて眠りについた。



―――


「さっきは肝が冷えたぞニシ、どういう了見だ?」


その日の深夜、一個の裸電球だけが荷台の中を照らす中、起床したアスマはニシに詰問を行っていた。

その声色は普段の陽気で優し気な物とは打って変わり、静かでどこか冷酷さを漂わせている。


言葉もRに分かる英語ではなく、トウカイで主流となっている様々が言語が混ざり合った現地語を使っており、それが聞かれては不味い物であるという事を言外に示していた。


「あれでバレてたらどうなってたと思う?計画が全部パーだぞ?分かってるのか?」

「だけどさ…アスマ、こいつは…Rは悪い奴じゃないよ。俺には出来ない…」

「ニシ、約束しただろう?今ここで言ってみせてくれ」


有無を言わさぬ口調でアスマはニシに問いかける。

ニシはしばし、躊躇するような素振りを見せてから呻くようにつぶやいた。


「……大人は誰も信じない、アスマ以外は」

「そうだ、じゃあこの後どうするかは分かるだろ?これは他の兄弟たちの為でもあるんだよニシ」


満足の行く答えを得たアスマは先程と打って変わって微笑むとニシの肩を優しく叩いた。

全てはこの男を拾った時点で決定していた事だ。

変更は許されない。

それがアスマの答えだった。


「……分かったよアスマ」

「良い子だ。俺は『首輪』を用意する。お前は『縄』をやってくれ。慎重にな?」


願いが聞き届けられない事を理解し、肩を落として作業を始めたニシの背中を見ながらアスマはこれまで見せた事の無い様な下卑た笑みを浮かべ、ニシに聞こえない小声でRに言葉を吐き捨てた。


「さぁ、お客さんをワンダーランドに連れて行ってやろうぜ。ええ?」


そこには、それまでRに見せていたどこか気持ちの良さすら感じる快活さは無く、修羅場を潜ってきた外道の顔が存在していた。

スカベンジャーは荒野で拾ったものを売るのがお仕事です。

それが物であろうと人であろうと、ご期待ください。

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