十一話、逃避行
12月中全く更新できなくて申し訳ありませんでした。
一応少し遅れましたが正月中に更新できました。
エタる気はないけど納期のデーモンには勝てなかったよ…
仲間が打ち上げたと思しき照明弾の光を目印に、Rとニシ達ゴミ漁りの一行は崩壊した都市の市街地を抜け出すべく駆ける。
それまでの行軍の様な陣形など組む余裕はなく、それぞれが互いを庇い合いながらも我先にと悪路と化した朽ちた道を突き進む。
道を塞ぐ車の群れを避けて比較的マシな歩道を進み、時折道路の合流する十字路やビル陰の路地から現れては立ち塞がる屍者の小集団に幾らかの銃弾を叩き込みながら、時折空に上がる照明弾を頼りに太陽が徐々に地に沈む素振りを見せ始めた廃墟を駆け抜ける。
背後から迫ってくるのは既に死に絶えた筈の人や獣やミュータントの形をした腐った肉塊たち、屍者が死体とは思えぬ速度で確実にR達を追跡してきている。
その中には筋肉がちぎれ、骨が折れた手足を無理矢理動かしている者もおり、それらが不器用に体を揺らして蠢き、時にはそのまま足をもつれさせて砕けたアスファルトの地面に盛大に胴体や頭を叩きつけている。
だが、その程度の事象は彼らを停滞させる好材料には一切なっていない。
足の遅い者、地面に足を取られて転倒した者を後続の屍者たちは文字通り押し倒し、踏み潰しながら濁流の如く迫ってきているからだ。
銃弾を撃ち込まれた屍者もその衝撃でよろめき、一時的に動きを鈍くするものの、すぐに体勢を立て直してふらふらと、しかし決して遅くはない速度で追跡を再開してきている。
当初は数がまばらであったこの集団は、時間を経る毎に減るどころか加速度的に密度を増やし続けている。
後方からだけでなく側面や前方からも徘徊している屍者の小集団が合流を続けて振り切れそうにない。
下手に立ち止まって応戦でもしようものならばその流れに飲み込まれかねない勢いだ。
「くそっ!」
そんな後方の集団にRは舌打ちしながら一瞥すると、腰に巻いた収納ボックスから小型の円筒状の物体を取り出し、つまみを弄って押し込み、後方へと投げ捨てた。
それと同時に円筒状の物体から眩い青い光が溢れ出し、地面に転がるそれがちょうど屍者の集団に飲み込まれた瞬間、一帯を青いプラズマの爆炎が焼き払った。
グレネードに転用したプラズマピストルの弾倉、虎の子として大切に温存する筈であった4個の内の1つをRは惜しみながらも後方からの追手を減らす為に使用した。
本来ならば汚染された地上人に装備を鹵獲される事を防ぐために爆破処理する為に用意された弾倉の自壊システムは、遠征軍兵士達にとっては緊急時にはグレネードとして用いられる強力な切り札として信頼されていた。
閃光が収まると同時にRは移動を継続しながら後方に視界を移す。
屍者の先行集団は爆発をもろに受けて大半が蒸発するか、さもなければ炭化して無力化されているのが見て取れる。
後方には依然、屍者の集団がこちらを追いかけてきているがすぐに追いつかれるという状況は回避され僅かながら余裕が生まれたのをRは確認した。
しかし、Rは険しい表情のまま隣を並走しながら空にフレアガンを発射するニシに叫んだ。
「ニシ!荷物を捨てて軽くするんだ!追いつかれるぞ!」
補充のきかない希少なプラズマグレネードを消費し、作られた一時的な余裕もこのままではすぐにも消え去るであろう。
戦闘音は確実に敵を呼び寄せ、集まってきた敵は再び肉の濁流を形成してこちらに迫ってくることは明白だ。
酷な話だが、もっと身軽になる必要がある。
「ふざけんな!ただでさえ収穫無しなんだぞ!これを捨てたら路頭に迷っちまうよ!」
「明日死ぬか、今日死ぬか好きな方を選べ!すぐに奴らは追いついてくるぞ!」
振り切れないのはニシ達が出発前に搔き集めた物資を未だに保持しているという事情もあった。
ゴミ漁りにとって獲得した物資は命の次に大事な物なのだろう、ここまで収穫が無ければ猶更だ。
彼らにも生活が有り、生き残れば今後も人生は続く以上は拾ったジャンク品を捨てる事は財産を捨てる事に等しい。
だが、生き残れなければ明日を悩む事すらも出来はしない。
故にRはニシに再度叫ぶ。
「助かる気の無い奴の面倒なんて見切れないと言っているんだ!早く選んでくれ!無理だというならばここからは別行動だ!」
仕切りたくなる気持ちを抑えてRはニシを問い詰める。
集団を一つの部隊として統率するならば下士官としての経験がある自分が最適ではある。
だが、言語の問題で彼らとは会話をまともにする事が出来ない。
言葉が通じない以上、何を命令しても誰も従ってなどくれないのだ。
加えて、仮に言葉が通じたとしても集団のリーダーをしているニシを差し置いて指示を出したとして彼らは恐らくは従ってなどくれないだろう。
部外者の助言よりも身内の選択を信頼するのが人間という生物であり、彼らは民間人であり、軍人の様に階級が高い者に無条件で従うようには訓練されていない。
野生動物の様に自身が自分よりも上であると認めた者にしか彼らは従わないのだ。
市民兵に対して高圧的に接する正規兵が多いのは、こういった事情もある。
脅して立場を分からせるという一番手っ取り早くて確実な手法であるからだ。
Rとしてはそれは取りたくなかった。
先々を考えれば信頼関係の形成こそが重要であり、だからこそニシに選択を任せる事を選んだ。
仮に高圧的な態度で服従させても土壇場で背中を撃ち抜かれてはたまった物ではない。
彼らが共存の道を拒絶するというならば、ここからは独力での生還を目指さねばならない。
情報を持ち帰るという己に定めた使命を果たす為に共倒れなどするつもりなどはRには一切無い。
「…ッ!畜生!分かったよ!従ってやる!」
言うないなや、ニシは仲間達に向けて何かを叫ぶ。
Rにはそれが何と言っているのか読み取るする事は出来ない。
だが、言葉は分からなくても行動でその意図を理解する事は出来た。
ゴミ漁りたちが一斉に背負った荷を捨て、通りに投げ捨てたのだ。
「これで良いかよ!てめぇのせいで一文無しだ!」
「文句ならば後で幾らでも聞いてやる!その為にも今は走れ!」
Rの言葉に応じる様にニシの集団は速度を上げて朽ちた歩道を駆けて行った。
―――――――――
「よし、ある程度距離は取れた。休憩としようぜ」
どれ程の距離を走っただろうか、一行は未だ原型を留めている歩道橋を上り、通路の中程に集まって息を殺して一息つこうとしていた。
歩道橋の下には都合よく、玉突き事故を起こして乗り捨てられたと思われる背の高い荷台を引いたトラックが置き捨てられている。
この位置に陣取ったのは、歩道橋の柵が健在である程度の遮蔽物となり隠れられる事、そして高台を取る事で視界を確保出来ることからだ。
片側から登ってこられても反対側から逃げられ、その気になればトラックの上に飛び降りて逃げられる高さである事も考慮に入れている。
荷を捨ててからの集団の行軍スピードの向上は目覚ましい物であった。
ミュータント化が進んでいる影響なのか、子供であるはずの彼らはマラソン選手もかくやという持久力と速度を維持してぐんぐんと屍者の集団を引き離す事に成功したのだ。
それでも時折行く手に出現する小規模な群れには各々が牽制で射撃を行い、被弾して動きを止めた隙にすり抜け、或いは道を変更して事なきを得る事が出来た。
進路を妨害する即死トラップたるアノマリーも獣人の少年が察知して警告してくれることで回避する事が出来た。
現状、脱出行は非常にうまくいっている。
恐ろしい位だ、日が沈みかけているという事を除けばだが。
「そろそろ日がヤバくなってきた、もう野宿はこりごりだ。ニシ、仲間は本当に来てくれるのか?」
周囲の町並みは徐々に郊外に移りつつあるのか高いビルや建物が減り、2階建ての商店や住居が増え始めており、街からの脱出は近いと言える。
だが、それと反比例するように太陽は急激に地平線に沈もうと一切の遠慮なく降下を続けていた。
この世界の明るい光の輝く昼は短く、夜は昏く、そして長い。
このまま街の外まで逃げたとして、仲間と合流出来ずにこのまま闇に沈んだ荒野に投げ出されれば明日の太陽を見る事無く全員、夜行性のミュータントに貪り食われて骨も残らないだろう。
そんな惨い最期は遂げたくない。
「心配すんな、アスマは途中で逃げ出したりはしねぇ。見捨てる時は最初から返事なんてしねぇ」
ニシは確信を持ったように力強くRの疑問を否定した。
それを見てRもまたそれ以上の問いを辞めて次の問題に話を進める事にした。
「分かった、では周辺警戒を頼む。それと他の皆にも武器と弾薬の確認をさせておいてくれ。こっちもそろそろ弾を込めないとヤバい」
「おうよ、先にやってくれ」
ニシの了解を得てRはライフルから弾倉を外し、収納ボックスに入れておいたもう片方の弾倉も取り出す。
取り出された60連マガジンの中身は既に残っておらず、銃に装着していた方の弾倉にも十数発が装填されているだけである。
他の者の武器が信用の置けない雑多な物であったが故に、小集団に遭遇する度に接近を防ぐべく発砲を繰り返し、手持ちの弾薬を使い切りつつあったのだ。
まだまだ予備の弾薬は残っているが、弾倉が二個しかないというのがここで響いていた。
「危なかったな…」
Rはその状況を見てそう短くつぶやくと黙々と5.56mm弾を弾倉に詰め込み始めた。
専用のローダーがあれば楽に終わる作業だが、手作業となると中々に時間が掛かり、なおかつ慎重にやらねば弾詰まりの下にもなる危険な作業だ。
丁寧に、しかし急ぎながらRは60連弾倉に弾を込めていく。
強化外骨格用に弾数をかさ増ししたこの大型弾倉はやはり、手動で弾を込めるにはしんどさを感じる物だ。
それは持ち運ぶ面でも同じことが言えた。
かつての人類が運用していたライフルの弾倉は基本的に30発だったという話からすると単純に二倍の重さになる。
強化外骨格を装着しているときならばまるで苦にならない誤差であったが、生身ではその僅かな重量増加が中々に堪える。
新兵訓練の時を思い出す辛さだ。
そう考えているとふとRの脳裏に新兵時代からの腐れ縁であった今は亡き悪友の顔がよぎった。
『折れるなよ』、その言葉が今の自分を動かしてくれている。
まだ、死ぬわけにはいかない。
「よし、終わりだ。ニシ、交代するよ」
装填の終わった弾倉の片方をしまい、もう片方を銃に装着してからコッキングレバーを引いて薬室に初弾を送り込む。
銃本体に不具合は無い、これで出来る事は全て終わった。
「おう、しかしあんたおっさんの癖に元気だな。カチンときたから置いて行ってやろうと思って全力で走ってやったのによ」
ニシは不敵な笑みを浮かべてRを挑発する。
段々と軽口をたたき合う会話が出来る間柄になりつつある事をRは理解し、笑いかけながら反論した。
「そりゃあ、鍛えてるからね。腐っても兵士だよ僕は」
「金持ちのボンボンの私兵ってんだから体力の無い見掛け倒しだと思ってたぜ。あんたとなら今日を生き残れそうだ」
終戦前の世界でも強化外骨格を装備した兵士というのはフレームの補助機能に守られた快適な装備で楽をしていると思われがちだったが、その実は過去の特選歩兵よりもよほどきつい兵種であった。
結局のところは、外骨格を運用するのに本人の運動神経と体力が要求される場面が多く、補助があるとしても装着者はスーツの中で走り、転がり、跳ねて戦っているとのである。
訓練や肉体の鍛錬が十分でない搭乗者は、むしろその外骨格の補助機能に振り回されて最悪、歩くという初歩的な行為を失敗して命を落とす事さえ有った。
それが、異文明との戦いの為に安全性を限界まで無視して戦闘に最適化された最低限の歩兵装備と言われた強化外骨格の実情である。
強化外骨格を纏い長期間の作戦行動を行う遠征軍の兵士になれたという時点でそれは優秀者の証と言っても過言ではなく、故に兵士は皆自身に誇りを持ており、抑圧的な性格のRにもその自負はある。
その兵士としての勘なのだろうか、何やら焦燥感にも似た感覚がずっと離れてくれない。
この静寂は敵を振り切ったのではなく、むしろ相手の準備時間ではないのかという確証の無い疑念が湧き上がってきているのだ。
だとすれば、早く移動して更に距離を稼いだ方が良い。
「ニシ、装備の確認と再装填が終わったらすぐに移動しよう。そろそろ日がち落ちそうだ」
直感に頼るのは理詰めで潰しきれなくなった後の最後の手段として考えているRは至極真っ当な意見をニシに出して移動をせかす。
「そんなせかすなよ、俺らだって流石にそこまで体力馬鹿じゃ…」
そんな時だった、二人の会話を遮る形で獣人の少年プーミが叫んだ。
「ヤバイ!来ル!何カ!」
短い英単語を使った片言で叫んでいる辺り、Rに対して叫んでいる事が理解できた。
彼なりの情報共有の為の計らいだろう。
宥めようとニシが彼らの言語で何やら語りかけているが、尚も彼は叫ぶことを辞めない。
「匂イ!悪臭!コッチ来ル!音大キイ!」
匂うとなれば相手は一つしかない、屍者だ。
しかし、既に慣れ切ったであろう彼に騒がせるほどの腐臭をまき散らす、それも大きい物体となると…。
そこでRは一つの嫌な結論に行きついた。
そしてすぐさまニシに叫ぶ。
「ニシ!すぐに移動だ!フェイズ3の合成体が来る!」
「は?フェイズ…?合成…?なんだそりゃ?」
「屍者の塊だ!数が増えると発生する上位種だ!」
一瞬、反応が送れたニシが状況を理解して怒鳴り散らす。
「訳分かんねぇ単語使ってんじゃねぇよ!要は死体玉の事じゃねぇか!畜生!」
素早く立ち上がり、彼らの言語で仲間達に檄を飛ばす。
それに弾かれる様に休息を取っていたニシの仲間達も立ち上がり、すぐさま移動の準備を開始する。
「アッ、ダメ。遅イ。既ニ遅イ」
そんな中でプーミはぽかんとした口調でそう言葉を口にした。
振り返ると赤い夕焼けの日の下にある廃車の墓場と化した大通りにそれはいた。
先程までいなかったはずのソレは、だというのにあたかも最初からそこにいたとでも言わんばかりに堂々と道の中央に陣取っている。
まるで出来の悪いミートボールの様な崩れた丸い肉塊、それが第一印象だった。
そんな滑稽な姿も全高が二階建ての建物と同等のなれば笑い飛ばす事も出来ない。
目を凝らせばそれがかつて人間だった物やミュータントだった物で構成されているのが分かる。
塊の端からは手や足だった物が無造作に刺さり、飛び出し、だが蠢いていた。
「フェイズ3リビングデッド…」
息をのむRはそう短くその存在の名称を口にした。
死んで間もなく動き出したまだ人間や動物らしさを残すフェイズ1、腐敗と変異が進み異形化するフェイズ2、そしてそれらが混ざり合い融合したフェイズ3。
屍者と呼ばれる存在の最終形態であり、Rにとっては新兵訓練時代に地上で出くわした因縁のある存在であった。
ただでさえ死なない屍者が寄り集まって構築された蠢く肉塊、それでいて統率する器官もコアと呼べる中枢部も存在しない完全に焼き払われるか文字通り消滅するまで土地を汚染しながら動き続ける死と疫病の国、大型ともなればARK5の戦力をもってしても手こずる危険な存在が目の前にいるとあってはRも最早他人の面倒を見るなどという余裕は無くなっていた。
一つ確実に言えることは、アレは今の装備と火力ではどうにもならない不条理を具現化した存在だという事だった。
アレの前では今の装備などほぼ丸腰と言っても過言ではない。
「ニシ!飛び降りるぞ!死ぬ気で走れ!」
言うが早いか、Rはニシの答えも聞かずに歩道橋の上からトラックに飛び降りた。
足から着地して衝撃を受け止め、更にトラックの荷台を走って助走をつけて次に地面へと飛ぶ。
地面への着地と同時に体をひねって回転させて衝撃を受け流し、その勢いに任せて起き上がり、そのままなりふり構わぬ全力疾走を開始する。
今までの落ち着いていたRのその豹変ぶりにニシは思わずRを罵った。
「おいてめぇ!待ちやがれ!俺らを置いて逃げるのか!」
「そうだ!逃げる!今すぐ逃げろ!」
一歩遅れてニシとプーミがトラックに飛び降りてRを追い、更に残りの仲間がワンテンポ遅れて彼らに追随しようとする。
だが、それでは死神の鎌から逃れるにはあまりにも遅すぎた。
後続の彼らがトラックへと降りた瞬間、まだ遠い位置にいた筈の肉塊は既に目前へと迫っていた。
車の残骸を押し潰し、道路を腐敗した汁と肉片で汚染し、すぐ近くまで迫った肉塊は、彼らの眼前で中央から避けて半分に割れ、そこから臓物や筋肉でつぎはぎされた腐食した触手が一気に解き放たれる。
逃げ遅れたニシの二人の仲間がそれらに絡めとられ、肉塊に飲み込まれた。
「リキ!ガズ!」
「振り返るな!もう助からない!」
背後から聞こえる仲間の絶叫に思わず叫び、振り返ろうとするニシをRは正面向いたまま制止する。
大型種の体内に飲み込まれれば強化外骨格の装甲を持ってしても耐えられない。
押し潰されて圧壊し、同じ肉となるまでゆっくりとすり潰される。
捕まった時点でもう助ける手立てはない。
「くそが!」
そう吐き捨て、ニシはペース配分を意識して速度が落ちてきたRに追いつき並走する。
「こっからどうすんだよ!?ええ!?」
「それを決めるのは君だ、ニシ。もう僕らには選択肢はない。君の仲間と合流するか、死ぬかだよ」
ニシの剣幕にRは必死に息を整えながら反論する。
「幸い、捕食中は速度が落ちる傾向が有る。あくまで僕の故郷の記録ではだけどね」
「あいつらが死んで良かったって言う気じゃねぇだろうな」
場慣れしているというだけあってニシの口調はすぐに冷静さを取り戻しつつある。
だが、その言葉の中には静かな怒りがにじんでいる事が見て取れた。
「そうは言わない、だが状況は活用すべきだ。それに、生き残れたのは運だ。全員死んでてもおかしくなかった」
Rはただ、思った通りの事をニシに述べた。
最後の最後に生死を分けるのは機転と運、助からない時はどうやっても助からないし、助かる筈がない時に助かる場合もある。
今回は他人よりも一瞬早く動いた事が生死を分けただけだけの話。
ただ、それだけの話であるとRはニシに答えたのだった。
「分かった、取りあえずこの件は後にする。だが許したわけじゃねぇからな」
半ば言い掛かりではあるが、ニシの言い分も分かる。
もっと早く行動を指示して入れば助かったかもしれないというやり場のない自責の念が今彼を駆け巡っているのだ。
「俺、先導スル。アスマ、近イ」
そんな二人の間にプーミが片言の英語を使いながら割って入った。
「俺タチ、ゴミアサリ。死ヌ、日常」
ボロの下でどんな表情を彼らがしているのかは分からない、だが少なくともそうした日常で生きてきた故に割り切りは出来る様だった。
少なくとも現状ではニシより彼の方が信用できるだろうとRは当たりを付ける。
「ああ、頼む。出し惜しみはしない。生き残る、その為に全部使う」
プーミに分かる様に出来る限り簡潔に、短い会話で意図を伝える。
「分カッタ、ココ、路地入ル」
そしてどうやらそれはプーミに通じたようだった。
再び利害と意見が一致した仲間達の悲鳴を背に生き残れる最後の可能性に向ってビルの隙間に空いた暗い路地へと潜り込んだのだった。
空は尚も陰り、暗黒の夜が間もなく訪れようとしていた。
ネクロモーフから弱点部位を消したようなエグい存在となっている屍者くんですが、世紀末世界の文明崩壊理由の何割かはこいつが原因だったりします。
なんせ、内ゲバして死体処理疎かにするとバリケードの内側で簡単に発生したりするので




