7話:奪取組
「——まずは『校旗衛奪戦』の大まかなルールからおさらいするぞ」
特別棟三階、『魔術実験室』。俺を含む代表者の六名はそこに集められた。
プリントを手にしたモニア教官が黒板を指す。黒板には衛奪戦のルールが簡潔に書かれている。
「勝利条件は至って単純。「他校よりも多く点数を稼ぎ、総合1位になる」こと。ただそれだけだ」
黒板から注目を外し、教官は教卓の中から一本の旗のようなものを取り出した。
校旗、というよりはビーチフラッグに使う小さな旗だ。中心にはうちの校章が描かれている。
「各校は各学年に1本ずつ、計3本の校旗を最初に所有。試合終了までに他校の旗を多く持っていれば持っているほど得点が——」
「それは前回話した内容だろうが。とっとと今日の本題に移れよ」
教官の話を遮ったのはザンク。サクラと同じC組のやつで、金髪オールバックの高身長の男だ。机の上で足を組んでいる様子は、まさしく「不良」という表現が当てはまる。
「……そうだな。
時間が惜しい、おさらいはここらにして今日の本題に入る」
ザンクに一瞬視線を送った教官は、「ふぅ」と息を付くと旗を教卓に置いて次の説明に移った。
「前回の集会では衛奪戦の勝利条件について話した。今日は細々としたルールについて話していくぞ」
そう話す教官は、再度教卓の中に手を突っ込んである物を取り出した。
「……腕章、ですか」
「ああ」
呟くお嬢様に教官がうなずく。
取り出したのは青色の腕章と赤色の腕章。腕章の中心には旗と同じように校章が刻まれている。
「お前たち代表者、つまり『奪取組』のメンバーは赤色の腕章を身につける。この腕章をつけている者のみ、他校の敷地内に進行できる」
説明をしながら、黒板に色付きのチョークで図を描き込んでいく。赤色の棒人間が校舎に進行していくような図だ。
続けて、青色のチョークで棒人間を描き込んだ教官は説明を続ける。
「奪取組以外の生徒はこの青色の腕章を身につける。青色の腕章をつけた者は他校に進行できない。これが奪取組とそれ以外の生徒、いわば『防衛組』の大きな違いだ」
青棒人間から校舎まで矢印を引いたかと思うと、その矢印に大きくバツをつけた。
「色分けされている、ということは何かしらの意味があるんですね?」
手を挙げて質問したのはルイン。中性的な顔立ちをしている白髪の生徒で、少しおめかしすれば女子にも見えてしまいそうだ。
ルインの質問に教官は答える。
「もちろん。
腕章を身につける理由は大きく4つある。——」
と、教官が続けて説明をする。
=====
一.奪取組は他校の敷地内に進行できるが、防衛組は他校の敷地内に進行できない。
二.奪取組は奪取組と防衛組の両方に魔術による攻撃を仕掛けることが可能、防衛組は奪取組にのみ魔術による攻撃を仕掛けることができる。(=防衛組同士の戦闘はできない)
三.腕章を身に着けている間は、腕章を身に着けていない者からの魔術による干渉を無効化する。
四.腕章を身に着けていない者は他校、自校問わず校内に入ることはできない。
=====
話の内容をまとめるとこんな感じか。
話を聞く限りこの腕章の効果がヤバい感じがするのは俺だけか?
「質問。
腕章を身に着けている間は魔術による干渉に制限が掛けられるみたいだけど、物理的な接触はどうなるの?」
説明が終わった後に最初に口を開いたのはディーネ。年上で立場的にも上な教官相手にも、変わらずタメ口で会話する。
ディーネの質問に教官が答えた。
「良い質問だ。と言いたいが、話を聞いていれば当然の疑問だな。
物理的な干渉、つまり刃物による攻撃や殴打など。これらの攻撃については普通に痛みを感じる。あくまでこの腕章が影響するのは、「魔術による干渉」だけだ」
さすがに物理的な干渉は無効化してくれないらしい。つまり、防衛組同士でもボクシングでの戦闘は可能なわけだ。
「……腕章を身に着けていないと各校の敷地に入れないとのことですが、これは腕章が何らかの要因で破損した場合はどうなるんですか?」
今度はサクラから質問が挙がってきた。
すると、やれやれと言った様子で教官が小さなため息をついた。
「質問が多いな……。まぁいい事ではあるが」
続けて、サクラの質問に対する回答が返ってきた。
「サウザンドの懸念でもあるが、腕章が何らかの原因で完全に切断されたり、校章の部分が破損するとその腕章は機能しなくなる」
腕章そのものが破れても駄目、校章部分がダメージを受けても駄目、か。かなりデリケートな道具だ。
おそらく、本人への攻撃目的ではなく、校章の無効化のために動く奴らも出てきそうだな……。そうなったらそれこそ競技ではなく、軽い戦争に発展しそうだが。
「まぁ衛奪戦では武器類の使用は禁じられているから、滅多な事では腕章が破損する事は無いと思うが、一応はな。注意はしておけ」
——腕章に関するルール以外にも、使用する魔術についても色々制限が掛けられてある旨の説明を受けた。
魔術で形成した武具は使用禁止、殺傷能力の高い魔術の使用禁止など。当然といえば当然のような、当たり障りのないルールばかりだ。
「さて、これでルール説明に関しては以上だ。質問は?」
教官の問いに手を挙げる者はいない。粗方の把握はみんな済んでいるだろう。
「よし。
ではエフォルティア、このプリントを受け取れ」
教官が一枚のプリントを差し出し、ルインはそれを受け取る。
こちら側から見ても分かる。教官が渡したのはプリントなどではなく、ただの白紙だ。
「……白紙?教官、これは」
ルインを含めたその場にいた全員の疑問に答えることなく、教官は実験室の引き戸を開ける。
「30分だけ時間をやる。その用紙に何を書くべきか全員で話し合え。
もし白紙のままだったり、適当なことを書いていた場合は全員叩きのめす」
それだけ言い残して、教官は教室を出ていってしまった。
残された俺たちの間に生まれるのは沈黙。
それもそうだ。あまりに突然かつ理解不能な難題を押し付けられたら、誰でも思考停止するだろう。
「……とりあえず」
沈黙を破らなければ事は進まない。真っ先に俺が口を開いた。
「とりあえず、話し合うか」




