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14話:合流

 ドゴオォォォォ・・・


 何かの轟音が、微かながらこちらにまで響いてきた。


「地震か?」


「・・・いや、遠くで何か戦ってる音だよ」


 さすがにエリーにも聞こえたらしく、遠くの音が故意で起こったものだと言う。


「もしかしたら、ユウマ君の学校の人達かもね」


「一体何と戦っているのやら」


 こんな大きな音が響き渡るほどとなると、よほど大物と戦っているらしい。


 とは言っても、それ以来音が響き渡ることもなく、俺達はダンジョンの中をドンドン進んでいった。


「さっきの音は上からだね。

 もしかしたら、誰かがメッセージを読んだかも」


「メッセージ?」


 何それ初耳。


「うん。『指定の場所で合流しよう』っていう内容なんだけど」


 なんだそれ。そんなのいつ書いたんだ。

 少なくとも、俺が起きている間はそんなのを書いている素振りは見せなかったぞ。


 じゃあ、俺が寝ている間に書いたのか。普通そうだよね。


「それより、疲れてない?そろそろ休憩を挟んでもいいと思うけど・・・」


「大丈夫だ。先を急ごう」


 あの大きな拠点を発ってから、大体四時間は経過しているだろうか。確かに、そろそろ疲れも見えてきたかもしれない。

 だけど、今は俺の事よりアスモの方が心配だ。もし独立して動いていたら、と考えるとほんとに笑えない。


「・・・ダメ、やっぱ少し休憩しよう!」


 なら聞くなや。


 というわけで、エリーの強制的な提案により、しばし休憩を取ることになった。


 ―。


「ユウマ君はさー。一体何を焦ってるの?」


 焚き火を焚きながら、エリーは俺に問いかけてくる。


「・・・言ったろ。俺はアスモが心配なんだよ」


「んー、でもそんな焦ることも無いと思うよ?」


「エリーは他人だからそんな悠長にしてられんだよ。

 俺にとっては、このせか」


 ゲフンゲフン。


「・・・独り立ちしてからずっと傍にいた、最早家族みたいなもんなんだよ」


「独り立ちかぁ。やっぱ親とかと喧嘩したりしたの?」


「別にそういう訳じゃないけど・・・。

 親元を離れざるを得なかったんだ」


「へぇ。・・・じゃあ私と一緒だ」


 エリーは俺の事情を聞いて、少し寂しげに笑っていた。

 一体、今の会話のどこに悲しむ要素があったのか。


 ・・・それとも、エリーも何かそういう事情があるのだろうか。


「じゃあ、ユウマ君はその〝家族〟をどうしても見つけたいんだね?」


「ああ」


 早くアスモと再開して、ギュッと抱きしめてぇなぁ。

 少しの間傍にいないだけで、アスモ養分が足りなくなってしまってきている。


 いつの間にか、俺もアイツの魅力に取り憑かれていたようだ。


「・・・じゃあ今すぐ出発しようか!もう充分休めたよね?」


「まぁまぁぐらいかな」


 ずっと歩き続けていた分、疲れも大分溜まってはいたが、この数分の間である程度は回復出来た。

 最初は休憩いらないと言ったが、エリーは俺の疲れを見抜いたのかもしれないな。


 焚き火はそのままにしておき、俺とエリーはダンジョンを再び進み始めることにした。



 ―――



 それから一時間もしない内に、再び大きな広間に出た。

 最初に拠点にしていた場所よりは広くないが、それでも充分大きいと言えるだろう。


「さて、じゃあここでしばらく待とうか」


「待つ?何を」


「君のお友達だよ♪」


 そう言ったエリーは、当たり前のように手際よく野営の準備を始める。


 さっき言っていた、メッセージの事か・・・。でも、誰かが読んだとも分からないのに、ここで時間を潰すのはあまり得策とは思えない。


「・・・随分不満げだね?」


「いや、本当に来るのか?」


 俺の考えが顔に出ていたらしく、エリーは俺の顔を見るや否や頬を膨らませる。


「・・・ユウマ君。

 最初に私がこのダンジョンに潜り込んだことについて、疑問を持ってたよね?」


「ああ。エリーは『気まぐれ』なんて言ってたけど・・・、本当はどうなんだよ?」


 エリーはしばらく考え込んだ後、口を開いた。


「・・・本当は、このダンジョンの最奥に眠るアイテムを回収しに来たんだ。そのために、先人達が遺したダンジョンの構図を徹底的に調べたんだけど・・・」


 やっぱり。気まぐれでこんな所に来るわけないよな。


「・・・このダンジョン、このエリアが中心となっているみたいなんだ。

 だから、ここで待っていたらそのうち全員に会えると思うよ」


「ここが中心?」


 それにしては、出入口となる洞穴は四つしかない。

 中心と呼ぶなら、最初に拠点としていたあのドームでは無いのか?


 それに、あの場では『ダンジョン全体の通路と繋がっている』って言っていたけど・・・。

 ・・・でも確かに、『行き止まりもある』可能性もあるのか。

 あれ?だったらあそこって割と危険だった・・・?


「ホントに、このダンジョンの内部構造は複雑でね〜。

 地図を記憶するのに1週間くらい掛かったよ」


「・・・え?ちょっと待て。

 記憶っていうことは・・・」


「うん。今は地図持ってないよ?」


「お前バカだろ?!」


 もし忘れたらどうすんだよ!もう出れない可能性もあるぞ!?


「大丈夫だって!私記憶力はあるから!」


 そういう慢心が危険に繋がるんだよなぁ・・・。


 こんな奴と行動を共にしたことを後悔、とまではさすがにいかないが、少し心配になってきた。


「さて!

 少し早いけど、お昼にしようか!」


「それより寝たいんですけど」


 正直、歩き続けた際に生じた空腹よりも、疲れによる眠気の方が酷い。

 別に腹もそこまで減っているわけじゃないし、飯は不味いしで、別に食う必要も無いだろう・・・。


「ダメだよー!

 食べれる時にはしっかり食べとかないと、次にいつ食べれるか分かんないよ?

 食っちゃ寝もダメだけど、せめて食べてから寝て!」


「む・・・」


 エリーの言うことはもっともである。こんな状況では、いつ飯にありつけるか分からないのは確かだ。


 眠ろうとした体を起こして、エリーの言う通りに食事を取ることにする。


「・・・でも、食材は?」


「はい、干しておいた肉!」


 そう言って、エリーからパックに包まれた肉を渡された。

 その肉は、まぁ確かに干し肉と呼べる見た目ではあるけども。


「・・・いつ作った?」


「え?昨日」


 いやダメだろ。


 干し肉は普通、数日掛けて作るもんだろ?


「冗談。

 ダンジョンに潜る前に、非常用にいくらか作っておいたんだー」


「・・・」


 パックに包まれた肉をジッと見つめる。

 中から一つ取り出して、おそるおそる口の中に運ぶ。


「・・・んまいっ?!」


 美味。なんの文句も付けようが無いほどに美味い。下手すると、そこら辺のステーキ店で出されるステーキよりも美味いかもしれない。


 頬が緩んでいるのが分かる。その表情を見て、エリーは満足げに干し肉を口に運んだ。


「えへへ。人に『美味い』って言って貰えるなら、作った甲斐もあるね」


 やっぱエリーちゃんの・・・料理を・・・最高やな!

 もう冒険家辞めて料理人目指せばええやん。


 美味い美味いと言いながら干し肉をあっという間に完食。


「ごちそうさまでした」


「ふふっ、お粗末さまでした」


 エリーに、空になったパックを渡す。帰ったら再利用するとの事。


 ・・・そういえばこのパック、ジップロックみたいだな。

 細部は所々違うようだけど・・・、まさか自作の袋とか?


「さて、しばらく暇になるね」


「それにしても、ここが中心って本当か?」


 改めて、先程のエリーの言葉を考える。


 このエリアがダンジョンの中心とは言っていたが、中心と呼ぶなら、出入口が沢山繋がっているあの大広間じゃないのか?


「うん。

 この地点が丁度、このダンジョンの中心部。ど真ん中に当たる場所。

 ・・・そして、唯一最奥への通路が通じている場所」


 唯一最奥に繋がる場所、か。ダンジョンの最奥を目指すなら、必然とここを通るということか。


「・・・そういえば、このダンジョンに眠るアイテムがどんなものか、分かるのか?」


「話だけは聞いてるよ。

 何でも、かの『大罪戦役』で活躍した『暴食』が使っていた武具だとか・・・」


「はぇ・・・」


 なんでそんなものがこのダンジョンに置かれているんだ。

 そういうのって普通は、保管局的な所が厳重に封印するもんじゃないのか?


 それにしたって、どうして会長がそんなものを必要とするんだ・・・?


「最近までは警備が厳重で、入り口に近づくことさえ出来なかったんだけどねー?

 なんか3日前ぐらいに唐突に警備の人達が居なくなってたんだー」


「警備・・・?」


 なんとも摩訶不思議な話だが、警備が急に解除されるのはおかしいな。


「・・・もしかして、もうアイテムを取った後とか?」


「それも考えたんだけどねー?

 それにしてはダンジョン内の魔力が些か強すぎるんだよね」


 ―聞く話によると、ダンジョン内に出現する魔物は全て、奥に眠るアイテムによって放たれる魔力が魔物を誘き寄せているものだと言う。

 それも、アイテムが放つ魔力によって、誘き寄せられる魔物の種類も変わるのだとか。


 その為、ダンジョン内の魔物の強さは、アイテムのレア度を決める一つの基準にもなっている。

 ちなみに、このダンジョンの魔物の強さの平均はS+。DDクラスの次に危険だ。

 それほど、この奥にあるアイテムがレアだということが分かる。


 それにしても、あの会長はなんて所に俺達を放り込んでんだ・・・。


「・・・エリーはどうして、そのアイテムが必要なんだ?

 」


「別にアイテム自体は必要無いよ。

 ・・・必要なのは、アイテムの〝中身〟だよ」


「中身?」


 武具に中身とか、あるのか?

 いや、あるにしても一体どういう意味なんだ?


「まぁ、ユウマ君が気にする必要は無いよ!これは私の問題だから」


「・・・」


 そこまで意味深に言われて、気にならないわけ無いよなぁ?

 俺も俺で、会長からアイテムの収集を命じられてるし、エリーとは競争相手・・・になるのか?


「・・・人?」


 エリーとアイテムについての談議をしていると、四つの内の一つの洞穴から、人の声が聞こえた。


「この声・・・、シーナ?!」


「アイサカ君・・・?」


 洞穴からは、シーナとシルヴィが出てきた。


「やっほ。

 君たちが、ユウマ君の学校の友達?」


「じゃああなたが、アイサカ君を保護しているっていう・・・」


 ん?俺って、保護されている状況だったの?


 でも確かに、道中の魔物の大半はエリーが片付けてくれたし、その意味では保護されている、と言えるのかもしれない。


 〝修行〟という名目で何度か魔物と戦闘させられたこともあったけど・・・。それはそれで経験になるので、別に気にしてはいない。


「シーナとシルヴィだけか?」


 後から続く人物が見えないところを見る限り、二人で行動をしていたようだ。


 俺がその質問を投げかけると、シルヴィが悲しげな表情になる。

 ・・・え?まさかだろ?


「・・・副会長は、謎の魔物に道を塞がれて別れることになりました。

 その後の消息は、私たちにも分かりません・・・」


 謎の魔物・・・。


「エリー、さっきのはまさか・・・」


「うん、もしかするとあの音は副会長くんが戦っていたのかもしれないね」


「アイサカ君にも聞こえたの?」


 一時間前に聞こえた轟音。

 あれはおそらく、副会長がその謎の魔物と戦闘していた音だったのだろう。


 今すぐ戻ろうにも、俺達が来た道は穴に落ちた先だし、シーナ達の来た道は塞がれてしまったという。

 こうやって助けにも行かずにここに来た、ということは魔術でどうにか出来るようなレベルの岩雪崩ではないのだろう。


「エリー、どうにかならないか?」


「こっからだと、あの広間に戻るには少なくとも2時間は掛かるね。

 ・・・魔物の素性も分からない以上、助けに行くよりはここで合流を待つ方が得策かも」


「そんな・・・」


 シルヴィはその場に崩れ落ちる。


 ・・・なんだかんだ、副会長に一番くっ付いていた人物だからな。心配になるのも分かる。


「・・・それとも、先にアイテムを回収して魔物を撤収させるかのどちらか」


「ノーリスクでは無いだろ?」


「うん。

 ダンジョンの最奥にあるアイテムを守る・・・、というより、それを利用して人間をおびき出す魔物がおそらく、待ち構えていると思うよ」


「・・・」


 アイテムを回収するのも危険、探しに行くのも危険、かと言って何もしないわけにはいかんだろう。

 それがもし、俺を嫌っている人物だとしても、関わってしまった以上、俺らが探さなかったせいで死なれたら後味が悪い。


「もし探しに行くとしても、2手に分かれずに、纏まって行動をすること」


「それじゃ効率が悪くなりますよ!」


「君たちが死ぬよりは断然マシでしょ」


 エリーはこの場で、一番最善の策を取ろうと考えている。

 エリーのその言葉を聞いたシルヴィは、押し黙る事しか出来なかった。


「・・・副会長だけじゃない。

 ソーマもアルト先輩も、アスモちゃんだって、まだ見つかっていないんだから」


「まだ他にも居るんだ・・・。

 大人数でダンジョン攻略するのは、確かに定石だけど」


 そうだ。副会長以外にも、ソーマにアルト先輩、アスモも居るんだ。


 もし合流出来ていればそこまで心配する必要も無いかもしれないが、その可能性はあるのか・・・?


「・・・シーナ、お前達は突入した時から三人だったのか?」


「?

 そうだけど・・・」


 このダンジョンのトラップの出入口は四つ。俺が出てきた場所、シーナ達の出た場所で二つ。

 ならば、少なくとも三人の内二人は合流出来ていることになる。


「・・・探しに行こう」


「ユウマ君、それは危険だって言ったよ」


「エリーは付き合わなくてもいいさ。

 でも、俺達の身内は命の危機に陥っているかもしれないんだよ。・・・もしかしたら、もう死んでいる可能性だってあるかもしれない」


「アイサカ君・・・」


「・・・」


 立ち上がり、身支度を始める。


 エリーには随分と助けられたが、ここで別れることになるだろう。


「・・・ああもう!

 これだから子供って面倒なの!」


 そう叫んでからエリーも立ち上がり、荷物をバッグに入れ始める。


 お前も十分子供だろうが・・・。

 おそらく、シーナ達もそう思ったはずだ。


「私も行くよ!

 皆は私の後ろに着いて行動して!」


「・・・付き合う必要は無いぞ?」


「最初に言ったでしょ?

 このままほっておいて野垂れ死なれたら寝覚めが悪いって」


 だから女の子が野垂れ死にとか使ったらいけませんって。


「エリーさん・・・。

 ありがとうございます」


 シルヴィはエリーに頭を下げる。


「いいよ。

 もうここまで付き合っちゃったら一蓮托生みたいなもんだしね」


「で、どこに向かうよ」


 このエリアの出入口となる洞穴は四つ。


 俺達が来た道、エリー達が来た道、最奥へと続く道。

 後の一つは、まだ不明瞭な道だ。


「・・・シーナ?」


 先程からずっと、その道を見つめ続けている。・・・否。


 先程からずっと、その道から聴こえる音を聴いているようだ。

 シーナは猫の獣人である。ネコ耳こそ生えてはいないが、常人より何倍もあるであろう聴覚に集中して、目を凝らしている。


 その姿はまるで、獲物を狙う肉食獣のような。

 そんな風に見えてしまった。


「・・・・・マ」


「え?」


 何かをポソリと呟いたシーナは、途端に全速力でその洞穴へと飛び込んだ。


「おいシーナ!」


「ユウマ君、すぐに追いかけて!」


 唐突に何を思ったのか。

 少なくとも、何かを発見したのは確かなようだが。


「くそっ、待てシーナ!」


 全速力で走り抜けるシーナをどうにか視界に捉えつつ、洞穴内を全速力で駆け抜ける。


 ・・・この先に、一体何があるって言うんだ?

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