↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

1月 ガーネット  ~ザクロジュース

「じゃあ、さよなら」

妻が玄関先で言い放ち、目も合わさず家を出ていく。

結婚生活9年目、俺の浮気が原因だ。


一度の浮気ではあったが浮気は直ぐにバレた。

スマホに残る裸で抱き合う二人、相手は妻ではない。

旅行先の風景を見ようとした妻がその画像を見てしまった。

妻は出ていくと言い、涙を浮かべていた。

俺の頬を強く叩きながら

「裏切った、最低な男よ」と……。


俺は一人ローンの残る家で過ごしていた。


「はあ……」

ソファに座り、深いため息が止まらない。

いくら酒を飲んでも酔うことも出来ない。


仕事にも行かず二日目の夕方、チャイムが鳴った。

玄関先には親友の雄二が立っている。


「よお、大変だったな……」

雄二の顔を見た瞬間、泣いた。

雄二は小さい頃からの親友だが兄弟にも似た安心感がずっとあった。


「勇、ひどい顔だな。ほれ」

左手のナイロン袋を持ち上げる雄二。

「作ってやるから一緒に食べないか?」

板前の仕事をする雄二が作る料理は美味い。


「ああ……頼むよ」

力無く返答しながら雄二を招き入れた。


「とりあえず酒を抜けよ、ほらよ」

手渡されたザクロジュース。

ザクロジュースが二日酔いに良いらしい。

だが、美味くはない。


「美味くないぞ……」

雄二は笑いながらも台所で野菜を切り始める。


「勇、嫁を追いかけないのか?」

雄二は包丁を止め野菜を見ながら言う。


「いや、追いかけても仕方ないよ。魔が差した、俺が悪い」

妻には申し訳ない気持ちでいっぱいだが、正直に言うと解放された気分もある。だが心配してくれる雄二には言えなかった。


再び包丁を使い野菜を切り始める雄二は、

「来月の誕生日には結婚10年目だろ?祝えなくなったな」とだけ。


「なあ、前から聴きたかったんだが雄二は何故結婚しないんだ?好きな相手は居ないのか?」

子供のときから雄二の口から好きな女の話は聞いた事がない。


「そうだなあ、居るには居るよ」

また包丁を止める雄二、視線は切りかけの野菜を見ているまま。


「あはは、その口ぶりだと言い出せない相手か?」

飲みかけのザクロジュースを一気に飲み干す勇。

少しの間があったが二人は顔を見ながら笑い始めた。


調理を終えた雄二がリビングに鍋を運ぶ。


「さあ、食べよう」

二人でテレビを見ながら鍋をつつき、酒を飲み交わす。

食後、雄二にだけは本当の自分を伝えようとスマホの画面を見せた。



「これが、浮気相手なんだ……」

スマホの画面には若い男性と勇が抱き合っている。


「形だけの夫婦生活は辛くてな、今は解放された気分なんだ」

「世間体もあって嫁と結婚はしたけど、まあ無理だったわ」

天井を見ながら呟いた。

どんな反応でも雄二は受け入れてくれるはず。そう思っていた。


顔を降ろすと、雄二から

「……同性が好きなのか?」

びっくりした表情で勇を見ている。


「ああ」即答する勇。


「そうだったのか」

雄二はいつもと変わらない笑顔で応えた。


「その男は?」

スマホ画面を見ながら指差す。


「浮気がバレたと伝えた途端、音信不通だよ。逃げちゃったよ」


「そっか、そりゃ残念だったな」

スマホの画面から目を離さない雄二が自分のスマホを取り出した。


「勇、これ」

見せられた画面には雄二と俺が酒を飲んでいる姿。


「おまえなあ、待ち受けは気になる女にしろよなあ」呆れて笑っていると。


「俺の……ずっと好きな人だ。今まで女なら仕方ないと思ってたんだがな」


右手に包丁を持ったまま、スマホから目をそらさない雄二。


「えっ……」


「許さない……」

床一面に拡がった液体はザクロジュースよりも濃い紅色。

そして所々、黒く深い。

まるでガーネットのように……。


あとがき

ガーネット(ザクロ石)の石言葉は、

「友愛」「真実」「実り」


心の奥にしまっていた真実を誰かに打ち明けたとき、昨日までと同じ時間が、違う意味を持ち始めることがある。

想いが実ることは、必ずしも幸せになることではない。

新しい距離は近いか遠いか。

しかし、誰かを想い続けた時間まで失われるわけではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。