第四話:練習
落ち着いたらしい紡が、壮一郎の腕の中で顔を上げた。
「…お腹すいてきません?」
壮一郎は時計を見た。
19:00。
「そうですね、そろそろ作りましょうか」
「手伝う!」
「では、一緒に」
壮一郎は冷蔵庫を確認し、ほうれん草とベーコンと鮭を取り出した。
水を入れた大きな鍋を火にかけ、塩を加える。
「スプーンとフォークを出して置いてください。パスタにします」
「はい!」
一口大に切った鮭は軽く塩胡椒をしてから薄く小麦粉をまぶし、ほうれん草とベーコンも切り分ける。
「飲み物、お水でいいですか?」
「お願いします」
鍋でパスタを茹でる間に、隣で鮭を焼いて皿に取り出す。
空いたフライパンでベーコンとほうれん草に火を通し、バターを加え、泡立ったところで醤油を加える。
最後に全てをフライパンに入れ、ソースがパスタに馴染んだところで火を止め、皿に盛り付けた。
「…はっや」
「まぁ、パスタなので」
げせぬ、と呟く紡にパスタの皿を手渡した。
正面でパスタを食べる紡の胸元には、空色の硝子が揺れている。
視線に気づいた紡が、ペンダントを見下ろした。
「どうして、これが気になっていますか?」
「その硝子を見つけた時を思い出して」
「……なんかありましたっけ?」
フォークを回してパスタを巻きながら、壮一郎は口元を緩めた。
「私が箱を開けるのが怖い時は、一緒にいてくれると」
「…あ、そんな話ししましたね」
「そういうところ、好きだな、と」
ぐ、と紡が息を詰まらせた。
「な…なんで急に、全開なんですか?!」
「万が一に備えて、今日から練習しようかと」
「真面目か!」
ツッコミに笑い返しながら、照れている紡を見る。
次の課題は、ムードの維持、と壮一郎は決めた。
風呂を終え、それぞれに自由に過ごす時間。
ソファで壮一郎はノートを開いた。
18:00 海で拾った硝子をペンダントに自分で加工していた。
18:15 ソファで一緒にチョコレートを食べた。紡から「好きです」と聞けた。私も好きです。
19:20 夕食、ほうれん草と鮭のパスタ。
書いていると、紡が扉を開ける音がした。
見ると、紡はノートパソコンを持っている。
この時間にパソコンを持っているのは、初めてかもしれない。
隣に座った紡が、躊躇いながら口を開いた。
「柊さん。…相談したいことが、あります。」




