第一話:見つける
編集部でコーヒーを淹れ、柊はデスクへと戻った。
モニターに表示されているのは、白雨の原稿。
説明を削り、届き方を確認する。
「柊君」
目線を上げると、瀬川が編集長室から手招きをしていた。
部屋に入ると、ソファを進められ座る。
前に、緑茶と煎餅が置いてある。
「ちょっとお茶でもしようか」
呼び出された理由が、分からない。
柊は、前に腰かけた瀬川の湯飲みを見た。
瀬川が苦笑する。
「大丈夫、そういうのじゃないよ。ちょっと、昔話でもしようかと思って」
「…昔話、ですか」
「僕は高校の頃、文芸部の部長をしていたんだ」
柊は湯呑を手に取った。
「僕は本が好きで文芸部に入った。でも、気づいた。自分に書く方じゃないことに」
自分の手のひらを見ながら話す瀬川を、柊は見る。
「僕は、見つける方だった。君とか、白雨君とか」
「…瀬川編集長は、よく見ていらっしゃいますよね」
「見てたら、なんとなく気づくんだよねぇ」
にこにこと笑う瀬川から、柊は目を逸らした。
今は、何をどこまで見られているのか。
落ち着かない。
「好きだから、書くのは続けてるんだけどね」
「…どんなものを書かれてるんですか」
瀬川は少し考え、「秘密」と笑った。
その微笑みは、いつもより柔らかい気がした。
振る舞われた煎餅を食べ終え、柊は業務へと戻った。
定時になると仕事を切り上げ、壮一郎は帰宅した。
「帰りました」
「おかえりなさい?」
いつものように出迎えた紡の胸元に空色が揺れ、壮一郎は動きを止めた。
紡が近づいて、壮一郎を見上げる。
「柊さん?」
細い銀のワイヤーが無造作に空色の硝子に巻きつけられ、黒い紐にぶら下がっている。
海で拾ったただの小さな硝子は、シーグラスのペンダントトップとして紡とともにあった。
「…その、硝子は」
紡がペンダントを見下ろした。
「あ、綺麗だからペンダントにしたんです。ネットで調べて、自分で作りました」
硝子を手のひらに乗せ、紡はちょっと自慢気に笑う。
「なかなか上手にできたと、自分では思います!」
柊が硝子を見つめていると、「あ」と紡が声をあげた。
「次にまた硝子を見つけたら、柊さんにも作ってあげます! キーホルダーとかどうでしょう?」
柊は、紡に手を伸ばした。




