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09 蛇竜王ヨルム

「放てぇ!」


ミストが叫ぶ。


騎馬隊が放った弓は放物線を描き、魔族へと向かっていく。


「スキャット」


「はい、ヨルム様。---ディメ・レラ」


スキャットが唱えると、魔族の上空を覆う赤い傘が出現した。


傘に触れた矢が消滅する。魔族の軍は、矢に構わず進軍を続ける。


「くっ・・・。やはりか。まあいい。弓は捨てろ!傘は近接攻撃で破壊する。突撃!!」


ミストは偵察隊からスキャットが敵軍にいることを聞いていた。


人族にとって、10年前の大戦でスキャットの情報は入手済だった。空間移動。


スキャットの出現させた傘は、威力の低い魔法・物理を消滅させる。近接攻撃でないと破壊することができない。


騎馬隊は一斉に弓を捨て突進する。


その前方には、弓を放つ前から脇目も降らず全速力で走り続ける1頭の馬があった。


乗っているのは人族の英雄二人。ただまっすぐ一直線に蛇竜王ヨルムへと突き進み、目前へと迫る。


馬の後ろに乗っていたバルバトスが、ヨルムに向かって跳躍し槍で払う。


ヨルムは槍を避けたが、バルバトスはそのまま槍を回転させ、柄でヨルムを馬上からはじき飛ばした。


着地したヨルムの真上から、バルバトスを追って馬から跳んでいたガイが空中から拳を突き下ろす。


ヨルムが避けるのも構わず、ガイはそのまま地面を突いた。


「---デッドオアアライブ」


ガイがスキルを使うと、ガイを中心に半透明の立方体が出現した。


「これは・・・檻ですか?」


ヨルムは立ち上がり、周りを見渡しながら言った。


「ああ、そうだ。テメエがこの檻から出るには、俺を殺すしかねえ」


「これで邪魔者はいない。俺とガイ、二人でお前を倒す。俺達が狩人でお前が獲物だ。せいぜいあがいてみせろ」


バルバトスは槍を、ガイは拳を構えた。


「・・・ふふっ。面白い冗談ですね。ならば、少し遊んであげましょうか」


首の蛇をなでながら、ヨルムは笑みをこぼした。


「いくぜ‼︎」


ガイが駆け、間合いに入り蹴りを放つ。


かがんでかわしたヨルムをバルバトスの槍が襲う。


「くっ・・・」


ヨルムが腕で槍を払うと、後方へ着地したガイが、拳で突きを放った。

ヨルムは跳躍してかわし、二人から離れた位置に着地した。


「いい連携ですね。さすがは人間です」


"連携"とは、群れを嫌う魔族にとって無縁の言葉だった。


「っはは!こんなもん、俺達にとっては連携とも言えねえぜ⁉︎」


「ヨルム、貴様に本当の連携を見せてやる」


バルバトスはガイの後方へ下がった。ヨルムから見るとバルバトスの身体がガイによって隠れていた。


「いくぜ!これが本当の連携だ‼︎」


ガイがヨルムへ突進し、身体を捻りながら突き、蹴りを次々と繰り出す。


「なにを・・・ん?」


ガイの身体の隙間、死角から槍が突き出される。


至近距離からの変則的なガイの打撃と、遠間の死角からのバルバトスの斬撃がヨルムへ次々と襲いかかる。


この陣形は二人でS級ダンジョンを攻略した際に編み出された必勝の陣形だった。


「まだまだいくぜ!オラアアアア!」


休むまもなく打撃、斬撃がヨルムへと浴びせられる。


さすがのヨルムも全てを捌くことはできず、急所は避けながらも度々攻撃を受けていた。


「ちぃ・・・。うざったい!」


苛立ちが募ったヨルムは、大振りの蹴りを放った。


ガイは待っていたとばかりに、蹴りをかがんで避ける。


かがんだガイは、腰を地面スレスレまで低く落とし、右手を強く握り締めた。


それと同時にガイの後方にいるバルバトスは、弓を引くかのように槍を引き絞る。


二人が繰り出す技は、四魔天との対決のために編み出した合体技だった。


「---バースト・バイト!」


ガイの拳から黄金の波動が突き放たれる。


「---イレイザー・スピア!」


バルバトスの槍から突き放たれた銀色の波動が黄金の波動と重なり、ヨルムへと襲いかかった。


「なっ・・・グオオオオオォォォ!!!!」


金と銀の波動はヨルムへと直撃し、吹き飛ばした。


ヨルムはデッドオアアライブの壁に激突し倒れ込んだ。


「よっしゃああああ!直撃だぜ!!」


「ああ!四魔天といえど、かなりのダメージは与えられたはずだ!」


倒れたヨルムを見て、二人は手応えを感じた。


--------------------


ガイのデッドオアアライブが発動した直後、ミスト率いる人族とスキャット達魔族は交戦を始めた。


「くそっ!スキャット!後ろに隠れていないで戦え!」


ミストは馬上で魔族兵に剣を振るいながら叫んだ。


「いやですよ〜。私は戦闘能力は無いですから。頑張ってここまで来てください」


四魔天ヨルムはバルバトス、ガイによって抑えられた。


人族にとって今は魔族兵を一掃する最大のチャンスだったが、簡単なことではない。


魔族兵はそれぞれが大体C級ダンジョンボスの力を有しており、人族はCランク以上もしくは上級職の者で構成されている。


C級ダンジョンボス1体につき人族はCランク四人〜五人パーティーの討伐が基本だ。


互いの総戦力である魔族100体と人間500人という数字は、人族にとって決して楽な戦いとは言えなかった。


リンの部隊は町の前、後方部隊のさらに右後方で待機している。


リン達の役目は、前線を抜けてきた魔族を死守して町へ入れないことだったが、まだ魔族はそこまで来ていない。


ミスト達は現在のところ魔族を完全に抑え込んでいた。


リンは前線で戦う者達が、無事にこの戦いから帰れることを願い続けていた。


前線が交戦を続けていると、戦場の中央から爆音が響いた。


ミストが振り向くと、ヨルムが倒れていた。


「おお!二人がやってくれたのか‼︎」


交戦の音が止み、戦場の者たちの視線が中央へ注がれる。


ヨルムが倒れているところを見て、人族は皆安堵の笑みを浮かべようとした。


・・・が、ヨルムは突如跳んで起き上がった。


「・・・だめです。あまり面白くありません。時間の無駄でした」


起き上がったヨルムの目は、蛇の目の色に変わっていた。


バルバトスとガイは、ヨルムの変化を感じて戦慄が走った。


「―――蟒蛇うわばみ


ヨルムの呟きを聞いた瞬間、バルバトスの見ている景色が瞬時に変化した。


ヨルムの首に巻かれていた蛇が、首から一直線にバルバトスの右後方へ伸びていた。


蛇はヨルムから離れるほど黒く巨大になっており、頭は完全に漆黒となっている。


バルバトスは、周囲を見渡した。


ガイのいたところに蛇の胴体があり、デッドオアアライブが消滅している。


さらに、自分の右腕の位置と蛇の胴体が重なっていた。


「・・・っ!!ぁぁぁあああアアアアアアア!!!!!」


バルバトスの右半身から血が噴き出した。


バルバトスの右腕とガイは食われていた。


「つまらない遊びに付き合っていただき、ありがとうございました。私はもう町へ遊びにいきます。ごきげんよう」


黒蛇はさらに巨大化し、山のような大きさへと変化し町へと方向を変えた。


その蛇の背にヨルムは跳び乗り、スキャットへ声をかけた。


「先に町へ行っています。スキャット、あなたたちはここにいる人間を殲滅してから来なさい」


町へと蛇が動き出す。


あまりの異様に戦場の全員が固まり停止していた。


それを見ていたミストが気を取り戻し叫んだ。


「とっ・・・、と、とめるんだ!町へ行かせてはならん!!」


その声に人族は皆我に返り、動きを止めていた者達が一斉に蛇へと襲い掛かる。


だが、何事もないかのように蛇はそのまま町へと一直線に進む。


正面にいた者はそのまま蛇に触れ消滅し、横から斬りかかった者は胴体から生えた小さい蛇に丸呑みにされていった。


「ひっ・・・ひいっ・・」


次第に抵抗しようとする者もいなくなり、蛇の進む道にいるものはただ何もせずに食われていく。


横へ逃げて蛇を町に通するわけにもいかず、兵達はただその場で震え食われていった。


「・・・」


ミストはその惨状に、もはやなにも言えなかった。


ヨルムを町へ入れさせるわけにはいかない。


誰もがわかってはいたが、何もできない。


そして・・・。ヨルムは町へと入っていった。


兵達の士気はもはや消えていた。


サガミの町の壊滅は、もはや確定されてしまった。


「・・・いや、違う!まだだ!!」


顔を叩き、ミストは大声で叫んだ。


「もうすぐ本国からの応援がくる!間に合えばヨルムを止めてくれるはずだ!!私達はせめてここにいる魔族達の進行を止めるんだ!!」


ミストは微かな希望にすがり、再度魔族へと振り返った。




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