14 開門
棒を上段に構えたグレンを見て、ニールは声を荒げた。
「なんだその棒は。先程見せた深紅の剣は使わんのか!?」
「・・・すまない。理由があってこの剣は使えない」
グレンは棒を上段に構えながら回答した。
「使えんのか・・・。異様な色の剣であったが、装飾品だったのか?・・・がっかりじゃな」
四つ足で戦闘態勢になっていたニールは、腰を下ろしてため息を着いた。
「人族とは哀れなものだ。肉体のみで戦える者はごく僅か。ほぼ全ての者は武具を纏っていないと魔族の子供にすら相手にならん。―――九十九」
ニールから尾が8本生え、9本の尾が蠢く。
そのうちの1本の尾が千切れ、ニールの形に変化した。
「まともな装備すら持っておらんのでは、我が相手をする価値すらない。まずはこの我の分身と戦ってみるがいい。ただ、この分身は我の魔力を1割ほど注いである。心して闘うのだ。早く終わってしまってはつまらぬぞ」
ニールの分身はグレンと対峙した。
「・・・本当は我の半分の魔力を分け与えてある。調子に乗らせるわけにはいかんからな。我の強さを思い知るがいい」
ニールは後方でほくそ笑んでいた。
「一割なら!」
グレンは棒を上段に構えたまま跳躍し、ニールの分身の頭部へと振り下ろす。
「―――強撃」
スキルにより光を帯びた棒がニールの分身へと襲い掛かる。
棒はニールの分身の頭を砕き、勢いそのまま身体を粉砕した。
粉砕したニールの分身は、光の粒子となって霧散し消えた。
「・・・は?」
ニールは口を開けて固まっていた。
「・・・ふう。よかった。1割なら棒でも倒せたな。砕け散ってしまったけど」
グレンの手にしていた棒は砕け散った。
「そうか。これから本番だぜ。また手頃な棒を探さねえとな」
フェンは周囲を見回して言った。
「っ!炎尾!」
ニールは慌てて1本の尾を炎に変化させ、周囲の地面を一面炎の尾で焼き払う。
「な・・・てめえ、いきなりかよ!」
フェンとグレンは跳躍して炎の尾を避けていた。
「・・・ふ、ふん。我を前にして油断する方が悪い。さあ、次は我が相手じゃ!」
ニールは各尾を変化させる。
炎、氷、水、酸、雷、嵐、鋼、木。
ニールは全ての魔力を尾に込めた。
一方、グレンは困惑していた。
「や・・やばい!棒がない!」
さきほどの炎の尾により、地面の棒は全て焼失してしまった。
「安心しろグレン。俺にいい考えがある」
フェンは策をグレンに授けた。
「ふぁーっはっは!棒はないぞ!?どうするのじゃ人間!!」
ニールは先刻の戦いを見て、グレンの使ったスキルの効果を把握していた。
スキルは武器に影響を与えていた。武器が無ければスキルを使うことはできない。
ニールは勝ちを確信していた。
素手のグレンがニールの前へ対峙する。
「ほぉ。この状況で逃げないとはな。その勇気は認めてやる。だがどうするつもりじゃ?土下座して助けを乞うのであれば、半殺しですましてやってもよいが」
「いや・・・、俺は諦めない!」
グレンはゆっくり上段に構えた。手刀にした右手を。
「・・・ぷっ・・・ぷぷうーーー!!なんじゃそれは!!我を笑い死にさせようとしているのか!?」
たまらずニールは爆笑する。
変化させたニールの各尾が激しく動く。
「わっ・・・っ我のこの無敵の尾に、素手で立ち向かうとは!」
ニールは息を切らしながらしばらく笑いつづける。
ようやく落ち着いたニールは、改めてグレンと対峙する。
「いい暇つぶしになったわ。礼に、お主の一撃を先にくらってやる。お主の人生最後の一撃じゃ。悔いのないようにの。・・・素手で」
言い終わると同時に、またニールは笑い始めた。
「い、いいのか?いくぞ?」
「っい、いいぞ!?っぶっふううう!き、きにするな!いつでもこい!」
とまどいながらも、グレンは上空へと跳躍した。
「いくぞ!―――強撃!」
スキルを唱えながら、グレンは手刀を振り下ろす。
当然ながらスキルは発動しなかった。
だがグレンの手刀は桁違いの速度、重量を生み空気を切り裂きながらニールへと迫る。
「・・・へ?」
ニールはその手刀の脅威に気づいたが、時既に遅かった。
手刀はニールの頭を叩き、勢い衰えずそのまま地面に顔ごと打ち付けた。
衝撃で地面が陥没し振動する。
ニールは意識を失い、変化していた各尾は消えて1本の尾に戻った。
「・・・単なる手刀でこれかよ。死んでねえよな?」
フェンはあきれていた。
「よかった、フェンの言った通りだ。武器がなくても、やっぱりスキルは発動するんだな」
グレンは何も分かっていなかった。
――――――――――――――――
我が目を覚ますと、目の前に人間と犬の魔族がいた。
「・・・っ!さ、さっきのは無し!もう一度じゃ!!」
我は距離をとった。まずい。まだ全然魔力が回復していない。
「おい、ふざけんじゃねえよ。これ以上やるなら次は俺の番だ」
魔族の白い毛が毛先から赤く染まっていき、熱を放つ。
・・・いや、単なる魔族じゃない!
「っ!そ、その姿は・・・」
今さら気づいてしまった。
この迫力、そして美しい赤い毛。
我の記憶そのまま、いや、それ以上の威厳。
「フェ・・・フェンリル様・・・」
目の前が涙でかすんでいく。
「ま・・・待っていました。いつか我の元へ戻ってくると。この数十年ずっと・・・」
フェンリル様も私に気づいたのだろうか。怒りは収まったようで白い毛に戻っていく。
「・・・はあ?い、いや・・・え?」
フェンリル様はとまどっていた。
「フェンリル様!!」
我は姿をフェンリル様と同じ大きさに変化させ、思いっきりフェンリル様に飛びついた。
フェンリル様は我に会えた嬉しさから茫然とし、目が点になっていた。
我は興奮が止められない。
ただ身体をフェンリル様に擦り付ける。
「・・・お、おい・・・。ちょ、ちょっとまて!」
フェンリル様は、我から飛び退いた。
「な、なんだ?俺はお前のこと知らねえぞ?」
まだフェンリル様は我のことを思い出していなかった。
「フェンリル様が四魔天になる前のことです。窮地をフェンリル様に助けられ、我はこの身も心も捧げました。そして、あなたはそれを受け入れ、我とフェンリル様は夫婦となりました。・・・戻ってきてくれて、我は本当にうれしい」
もしかして、もう会えないかもしれないと思っていた。
「・・・」
フェンリル様は、我をジッと見ている。
恥ずかしい・・・。
「・・・いや、やはり俺はお前のことを覚えていない」
「え?」
頭の中が真っ白になった。
「な、なぜ・・・っは!もしかして、記憶が!?」
10年前の大戦で、フェンリル様は人族と熾烈な争いを繰り広げた。
もしかして、その時に・・・。
「ゆ、許せん・・・人族共!!」
我は、フェンリル様の隣の人間を睨みつけた。
「おい、待て。俺は記憶喪失になっちゃいねえ」
「で、ですが!」
「グレンを睨みつけるのをやめろ。グレンの敵は、俺の敵だ」
フェンリル様の冷たい眼差しが我に突き刺さった。
「わかりました・・・。我は、フェンリル様にすべてを捧げていますから」
我にとってフェンリル様の言うことは絶対だ。たとえ記憶を失っていようと。
「とにかく決着は着いた。門を開けさせろ」
「・・・わかりました。では参りましょう」
我は先導し、門へと向かった。
我が門番に話をつけ、門が開く。
「じゃあ行こうぜ、グレン」
「ああ」
我達は一緒に門をくぐる。
「・・・って、おい」
フェンリル様が我に振り返った。
「なんでお前がついてくるんだ?」
「え?当然妻の我も一緒にいきますよ。門番にも話は通してあります」
我は身も心もフェンリル様にささげた。もうこれ以上待つのは嫌だ。
「ふ、ふざけんな!俺は覚えていねえって」
「フェン、いいじゃないか。ニールの勘違いだったとしても、何十年もお前を待っていたんだ。これ以上待たせるわけにもいかないだろう?一緒にいれば誤解も解けるさ」
「・・・ちっ、しょうがねえな」
この人間、たしかグレンと言ったか。
「ほう、よろしくな、グレン。お主なかなか見どころがあるようじゃ。だが、フェンリル様を困らせないよう気を付けるんじゃぞ」
「お前が言うんじゃねえよ!」
「ははっ!よろしくな、ニール。さあ行こう」
我はフェンリル様、グレンと初めての魔界の中央へと旅立つ。
ドキドキとワクワクが止まらなかった。




