13 ニール
魔界と一言でいっても、その領域はとても広い。
人族の国で大体3国分の面積になる。
俺達は魔界へと到着したが、フェンの言う城まではまだまだ遠いようだ。
魔族は魔素があれば食事をせずとも生きていくことができる。
そのため食事のために仕事をする必要がなく、皆自由気ままに暮らしている。
土地の区分もなく建てたい場所に家を建てるのだが、魔素の濃い土地が一番人気になる。
人気の場所に誰が住めるかは、力で決める。
人族では資金力、交渉力、権力、様々な力があるが、魔界での力はそのまま武力を意味する。
強い者が、より魔素の濃い場所に住む権利を得ることができる。
城は魔界の中央にあるようだ。魔界の中でも特に魔素の濃い場所らしい。
「おい!お前ら、ちょっと待て!」
歩いていると、巨大な門が現れた。門の横にいた魔族に声を掛けられる。
「こっから先は、ニール様の許可を得ないと進めないぞ?」
「ニール?知らねえな。そいつがこの周辺をまとめてんのか?」
「!?単なる犬かと思ったが、お前魔族か!?隣の奴は人族みてえだが・・・。ニール様を知らねえなんてお前、魔界のことなんにも知らねえんだな」
フェンの毛先が少し赤みがかった。フェンは怒ると熱を発し、毛が赤く染まるからわかりやすい。
「ああ。俺は魔界が初めてで、フェンは久しぶりに帰ってきたから知らないんだ」
「なんで魔界に来た?お前達なんて、魔界で歩いてたらすぐ玩具にされて殺されちまうぜ?
悪いことは言わねえから、とっとと帰れよ」
強さが全ての魔族にとって、ベンターのくれた剣頼りの俺など玩具同然であることはわかっている。
この先多数の魔族と出会うことになる。好戦的な魔族も多いはずだ。
ヨルム一体でも苦戦したのに。
フェンが隣にいてくれることが、とても心強い。
「めんどくせえ。こいつぶっ飛ばして、とっとと門の奥へ行こうぜ?」
「だめだろ!?ルールがあるなら、ちゃんと従わないと」
フェンも魔族に対しては好戦的なようだ。
でも、魔界には喧嘩をしにきたわけではない。
「なにこそこそしてんだ?」
「いや、すまない。魔界には、この魔族のフェンの友達に会いたいと思ってきたんだ。ニールって奴に許可もらいに行くよ。どこに行けば会えるんだ?」
「・・・忠告はしたぜ?ニール様はそこの丘の上にいるよ」
魔族が指で指した先には、小さい丘があった。俺達は踵を返して丘へ歩き出した。
「ニール様は、あの四魔天フェンリルの奥方だ。くれぐれも口の利き方に気をつけろ」
背後から聞こえた言葉に、俺達の足は止まった。横のフェンを見ると、口を開いて固まっていた。
「四魔天フェンリルって、たしか・・・」
「し、しらねえ!俺は結婚なんてしてねえし、ニールなんて奴聞いたこともねえ。とっとといくぞ!」
フェンは急に駆け出し、俺も急いで後を追った。
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四魔天。それは魔族の頂点の四体。
力が全ての魔族にとって憧れの存在であった。
あの方と会ったのは、まだあの方が四魔天と呼ばれるより前。
我が縄張り争いをしている最中だった。
「へっ!・・・俺の勝ちだな、ニール」
「・・・ちっ・・・くそが・・・」
「卑怯なんて言うんじゃねえぞ。体力が無いのはてめえ自身の責任だ。じゃあな」
敵は拳を握り締めた。
我はもはや立ち上がることができなかった。
闘っている相手は、今日8体目の敵。
万全の我なら負けるはずのない相手だった。
「おい、邪魔だ。どけ」
そこに、熱を周囲に発した全身赤い毛の魔族が現れた。
我と同じ、四つ足だった。
「・・・あ?見たらわかるだろ?今決闘中だ。消えろ、ワン公」
言い終わると同時、赤い毛の魔族はブレスを放った。
敵の魔族は一瞬で消え去った。
「ワン公じゃねえ。俺の名前はフェンリルだ」
「へ・・・へ?あ、あの・・・」
我は敵が一瞬で消えた驚きと同時に鳥肌が立った。
あまりの強さに、声が詰まってしまった。
その威厳に満ちた姿に、心が震えていた。
「てめえも俺の邪魔をすんのか?」
「い、いえ!しません!我は・・・フェンリル様に身も心も捧げます!」
「・・・はあ?邪魔しねえならいいが・・・。勝手にしろ」
フェンリル様は去っていったが、我は立ち上がれず追うことができなかった。
だが間違いなくあの時、我は身も心もフェンリル様のものとなった。
そして時が経つと、フェンリル様の武勇は魔界全土に広まっていた。
我はフェンリル様の奥方として恥じないよう強さに貪欲になり、一層強くなることができた。
フェンリル様は外出したまま我の家に帰宅せず10年前の大戦により行方不明となってしまったが、必ず我のいるこの場所へ帰ってくる。
それまで我は、この地で待ち続けるのだ。
昔を思い出しながら、我は家で寝転がっていた。
家と言っても、石で低い囲いを作っただけだが。
陽の光を遮らないよう、屋根は作っていない。
最近、我に喧嘩を売る相手もいなくなり、話相手もいないため暇な日が続いていた。
「休んでるところすまない。あなたがニールか?」
顔をあげると、話かけてきたのは人間だった。
「・・・これは珍しい。お主人族か?」
「ああ。門の先に進むには、あなたの許可が必要と言われて来た。どうか許可をもらいたい」
「・・・やめておけ。門の先の魔族は、ここにいる魔族達よりも好戦的だ。人族が立ち入る場所ではない」
「大丈夫だ。魔族のフェンも一緒にいる。どうか許可してほしい」
人間の隣に白い犬がいる。確かに魔族のようだ。
・・・?
どこかで見たことがあるような・・・
「・・・そうか。なら我と闘え。ただし隣の魔族は抜きでお前だけじゃ。魔族の力を頼りに門をくぐったとなれば、お主は即座に殺されるだろうよ。我に力を示せ。さすれば許可をだしてやろう」
我は弱者が嫌いだ。
人族のような弱者が魔界に来るとは笑止。
暇つぶしにちょうどいい。
虐め尽くしてズタズタのボロボロにしてくれる。
我は立ち上がった。
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ニールは立ち上がり、俺達を見下ろした。
フェンの何倍もの大きさだった。
「くっ・・・。仕方がない」
俺が剣を抜き上段に構えようとすると、フェンが止めてきた。
「やめろ、その剣は使うんじゃねえ。そこの棒切れを使いな」
「え!?だめだろ、そんなんじゃ。相手は魔族。俺の実力じゃ、全力でいかなきゃ勝ち目がない」
「てめえはまだそんなこと言ってんのか!?・・・はぁ」
フェンはあきれた顔で俺に言う。
「大丈夫だ。そのベンターの剣は本当に必要とする時だけ使え。いくら強度があると言っても、使い続ければいつかは折れる。あいつはお前が前に倒したヨルムよりもずっと弱いから大丈夫だ。俺を信じろ」
フェンはまっすぐ俺を見て言った。
確かに、魔族が全てC級以上の力を持つとは人族が噂しているだけだ。
魔界にいる魔族全てがそれほど強いとは証明されていない。
「よし、わかった!フェン、お前を信じる」
俺は剣を鞘に戻し、棒を拾う。
「・・・本当は強度は全く問題ねえが、その剣を使ったら確実にあいつが死ぬからな」
フェンがなにかボソッと言ったが、聞こえなかった。
「話合いは終わったか?さあくるがいい!せいぜいあがいてみせろ!人間!」
俺は棒を上段に構えた




