外伝 人魔大戦2
「えっ!?ママ?・・・いやぁアアアアアア!!」
フェンに乗っていたヘルが、急に叫んで倒れた。
「おい、ヘル!!どうした!?」
ヘルは意識を失っていた。
フェンはヘルを背負ったまま、ロキの元へ駆けつけた。
「ロキ、ヘルが急に倒れた!倒れる前、アングのことを叫んでいた。エチゴで何かあったんじゃねえか!?」
「なっ、なんだと!?」
ヘルには死者の霊が寄ってくる。倒れる直前に"ママ"と呼んだことが何を意味することなのか、誰も考えたくもなかった。
ロキはすぐにスキャットを呼び、エチゴに行かせた。
スキャット一体であれば、何度か空間転移を繰り返すことで1,2時間かからず現地と往復できるはずだ。
ヘルを寝室に寝かせ、城の者達はただ静かにスキャットの帰りを待った。
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イー、アルは風呂に入らずアング護衛のため、女湯の入口で見張っていた。
「アル、気づいているか?」
「ああ、イー。・・・この城全体から、人の気配が消えている」
二人は異変に気付いた。食事を用意しているはずの調理師の気配すらない。
「アル、一度アング様に声をかけてくる。お前は見張っていてくれ」
イーは扉を開け中へ入り、脱衣場から浴室へ呼びかける。
「アング様、大丈夫ですか?」
イーの声に反応がない。
異変を感じ、すぐにイーは浴室の扉を開いた。
「・・・っ!!アング様!!」
アングは目を伏せ、仰向けに倒れていた。
イーが駆け寄ろうとすると、地面が大きく揺れる。
「なっ・・・こ、これは・・・」
建物が大きく揺れ、柱に亀裂が入る。
激しい振動により、イーはまともに動くことができない。
なんとかアングの元へたどりついたが、イーのできることはアングに覆いかぶさることだけであった。
柱が折れ、天井が崩れ落ちる。
桁外れな重量が魔族三体の身体を押しつぶした。
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ダダは丘の上から、崩れ落ちる城を眺めていた。
必ず殺さなくてはならないアングを自分の手で殺し、アサシンのスキル"壁抜け"によって城を抜け出していた。
「・・・魔族が幸せに暮らすことなど、あってはならないんですよ」
ダダは無表情のままで小さく呟いた。
視線を動かすと、城から脱出した者達が国民に向けて壇上で叫んでいる。
ノース・エチゴの国民は、崩れ落ちる城を眺めながら、経緯を聞いていた。
和平交渉と見せかけて魔族の代表アングが、強力な護衛と共に国王を殺そうとした。
なんとか逃げだすことができたが、そのまま城を占領されてはエチゴが滅びる。
脱出の際に柱を壊し、城を倒壊させ魔族を倒した。
あらかじめ用意されていたシナリオを伝えられている。
国民達の怒りは頂点に達した。
卑劣な魔族達とは分かり合うことなど不可能と、国民の意識は魔族との全面戦争へと向かっていった。
物陰でスキャットは話を聞いていた
すぐにでも倒壊する城へと向かいたかったが、国民の視線は城へと注がれている。
情報を持ち帰るべきだとスキャットは奥歯を噛み締め、魔界へと引き返した。
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魔界では、別室で眠っているヘル以外の魔族が多数広場へ集まっていた。
帰還したスキャットが、泣きながらエチゴの様子を語った。
ロキは手で顔を覆い、押し黙っていた。
俺は静かに広場から去り、そのままヘルの眠る寝室へと向かった。
ヘルは目を覚まさず、深く眠っている。
俺はしばらくヘルの顔を眺めたあと、部屋を出る。
部屋を出ると、ヨルムが壁にもたれかかっていた。
「フェンリル、行くのですか?」
「ああ。俺はあいつらが許せねえ。アングを殺した奴らも、それを守る奴らも全員皆殺しだ」
「ヘルは・・・、彼女は置いていくんですか?」
「関係ねえ。俺はアングの仇をとって人間に撃退される。それで戦争は終わりだ。あの屑にも引っ込んでおけと伝えとけ」
アングを殺った奴らは許せねえ。必ず殺す。
だが、アングはいつも言っていた。人族と魔族の垣根を取り払いたいと。
それがアングの夢だった。
「じゃあな、ヨルム」
俺は城を出て、ノース・エチゴへ向かう。
魔界との境界に、人間が陣を敷いていた。
「ま・・魔族が来たぞ!」
「1体だけか!?なんだあいつ!」
人間共が喚いている。
アングの夢は叶えてやりたい。だが復讐を果たすまでは、俺は殺意を抑えきれない。
「---天狼」
俺の前方に灼熱の焔が現れる。焔は俺の殺意に応じ、ひたすら巨大化していく。
「邪魔だ。道をあけろ」
焔を可動させると、ゆっくりと前へと進んでいく。
「な・・・なんだあれは・・・と・・・とめろ!」
人間達は魔法、弓を放った。
焔は全く意に介さず前へ進む。
「と・・とまらん!退け!一旦後退するんだ‼︎」
人間達は後退していく。
焔は人族の作った壁を消しながらゆっくり進む。
俺は焔の後ろを歩いていく。
「この異常な力、あの赤い毛・・貴様、噂の四魔天フェンリルか!」
髭を生やした偉そうな人間が大きな声で叫ぶと、奥から一見普通ではない人間達が10名程駆けつけてきた。
その内の法衣を纏った三人が何やら口ずさむと、巨大な氷の槍が現れた。
氷は焔に衝突し、焔と共に消滅した。
アングを殺しておいて、俺クラスが来るのを想定していないはずがない。
駆けつけてきた者達は、それほどの実力者のようだ。
「フェンリル貴様、よく単騎で攻めてきたな!」
「なんなの⁉︎人間をばかにしてるの⁉︎」
「違います。単に馬鹿なだけでしょう。所詮魔族ですから」
焔を消した三人は調子に乗って俺を睨みつけてきた。
「一つだけ言っておく。俺はこれからアングを殺した奴を殺しに行く。
それを邪魔する奴は殺す。邪魔しない奴は相手にしない。
死ぬか生きるか、お前らが選べ」
本来なら、わざわざ調子に乗った馬鹿の相手などしない。
だが今の俺は、邪魔する奴は全て殺すつもりだった。
「っ!・・は・・ははっ!つ、強がりやがって。俺達は全員神職だ。遠距離の三人に、近距離の七人。しかも後方にはS級の冒険者も含めた何万もの兵がいる。いくら四魔天と呼ばれるお前が強かろうが、たかが1体では絶対に奥まではたどり着けねえぞ⁉︎」
男が俺に杖を向けて言った。
「そう思うのなら、俺を止めてみせろ。
あいつの死には、その程度の人間の死では釣り合っていねえがな!」
俺は人間の群れへと駆けた。
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しばらく黙っていたロキは、顔を覆っていた手を降ろし、広場の壇上に上がった。
「・・・お前ら、あいつのことはどう思っていた?」
ロキは周囲の魔族へ問いかける。
アングは、群れるのが嫌いな魔族の習性をも塗り替えるほどの魅力を持っていた。
ここに集まった1万もの魔族のうち、半数以上はアングに惹かれ集まった者達だった。
「俺にとって、アングは軍を集めるための道具だった」
この発言を聞いても誰も驚かない。当然のことだと誰もが考えており、ロキのアングへの態度を普段見ていた者にはわかりきっていたことだった。
「そのはずだった。だが今回あいつが殺されたと聞いて、それは違ってたって気付いちまった」
ロキは拳を握りしめた。
「俺はあいつがいたから、群れて軍を作ってたんだ!あいつがいなくなった今、ここで群れてんのも嫌で嫌でしょうがねえ!すぐにでも解散してえんだ‼︎お前らはどうだ⁉︎」
広場の魔族達は顔を見合わせた。
誰もが嫌悪感に気づいた。
ロキは軍をつくり魔王になるためにアングと夫婦になったのではない。
アングがいなければ、そもそも群れて魔王になろうとも思わなかった。
「フェンリルは先に行った。あいつは自分だけで復讐して戦争を終わらす気だ。
だが、俺はアングのおかげで魔王になった。魔王の俺が、人間に喧嘩を売られて放っておくわけにはいかねえだろ⁉︎」
誰もが群れることに嫌悪感を感じていたが、一人も広場を離れようとしない。
誰もが、魔王の号令を待っていた。
「だから、魔王の俺がお前達に命令を下す!俺達は喧嘩を買う!魔王の俺と共に、人間共を殲滅しに行くぞ‼︎」
ロキの叫びに、広場は一斉に沸いた。
アングの死は魔族を完全に一体化させた。
魔王ロキの軍勢約1万が、エチゴへと侵攻をはじめた。




