第八話「観測する事」
スズメはさえずりじゃれ合いを始め、
低空で飛んでいる危険色のドローンは花の密で充電している。
朝の刺すような視線で起きた僕はクーラーのスイッチを入れた。
返信が返ってきていたのを確認すると僕は寝坊したかのように飛び起き、淳二にすぐに電話をする。
「出てくれ。頼む出てくれ。豊田に監禁されているのか?」
「浩ちゃんおはよう。ふぁーぁねもい。なに?」
「お前どこに居るんだ?大丈夫か?」
「家だけど?」
「どういうことだ?豊田は?」
「あぁ、昨日いきなり家に来て起こされてさー
『あなたの居場所はBANDITSじゃないの。すぐにうちに来なさい。』って笑。
マジ腹立つ。明け方起こしといて!と思って浩ちゃんの所にも来たかなと思って。
本当に常識ない奴居るんだなぁーこっちは寝てるっつーのしかも……」
ちゃらんぽらんだ。僕の心臓は死んだ。
電話越しで淳二がいつも通り身振り手振りしてるのが余計に分かってイラッとした。
「あのさ、あのさあ!話してる所すまん。昨日僕のところにも同じような内容で来た。
それで、昨日BANDITSに行って豊田の事について聞いた。彼女は海女なんだって。それで……」
昨日あったことを淳二に伝える。
「……なんだって。平田さんが気をつけろって言ってたけど、
豊田の所に突撃しようと思うんだがどう?」
淳二の口がピタッと止んだ。呼吸の声だけ僕に聞こえる。
「突撃……かぁ。良くわからんな。俺達BANDITSでまだ活動したいから突撃は無し。でも…」
「でも?」
「午後から尾行しにいって見るか。とりあえずうちのアパート来いよ。ウチから近いし作戦会議だ。」
僕は淳二の家に行くことになった。
午前中の間に図書館で慣れない手つきで刑法とネットを基盤に本を読み漁る。
必要と思ったページはコピーし、事件歴や芸能人のリベンジポルノ
色々な記事をメモって淳二の好きなTEDBULを持ってアパートに向かう。
来るんじゃなかった。
来るんじゃなかった。ちゃらんぽらんのアパートは家の中までちゃらんぽらん。
洗濯物はドサッとタンスの上に漫画と機織りしてあり、
ベットの枕元にはタコ足配線で充電器関係がとぐろを巻いている。
TEDBULの空き缶から視線を外すとその先にも5人組のTEDBULレンジャー。
あ、タンスの上の機織りの下にもTEDBUL。
足元は雑誌砂漠。ベットにはグラビア雑誌のオアシス。そういうところはちゃんと住み分けされてるらしい。
まず僕は光を求めカーテンを開けた。TEDBUL48がNOW ON ステージ。
TEDBULでボーリングしたら5投してやっとスペアを取ることが精一杯だ。
淳二は「ようこそ我が城へ」とか言い砂漠を蹴飛ばし、
足をベッド脇から掘り当て、テーブルに付けちゃぶ台を置いた。
「これから作戦会議を始めます。と言ってもネットぐらいしか漁ってないけどさ。どう、浩ちゃん?」
「俺も図書館で調べたぐらいだけど。平田さんの言っていた通りなんとも言い難い雰囲気だな。
刑法でも白に近いグレー。男は訴えるとしたら援交を追求されるから口を開かないから、
それに漬け込んだやり方と言えそうだね。それに女は警察に逮捕されても罰金すら無いから食い放題。
だから海女さんなのだと納得した。それに海女さんは……」
そう、海女さんと言われる由来は『罰金無し、現行犯なし』だからだ。
海に潜り獲物を一つ一つ選びキャプチャー出来る。
サイトの中では東京アカウントでドローン飛行し、足跡もなく相手のプロフを見れ、標的を定めて素潜り出来る。
飛行した後はアカウントをポイして業者に売り裁く。
アカウント複製だけでも変な趣味に出来そうなほどの報酬となる。
考えれば、その報酬で洋服を買って化粧道具を新調し、写真を撮る。
それがプロフになり瞬く間に業者へと売り飛ばされる。
顔が写っているほど、特定されやすくなってしまうが、
容姿でそこまでおかしいパーツがなければ同化され気付かれる事はない。
48人のアイドルグループだって知らない人から見れば淳二の窓際のTEDBULと同等である。
どの並びでいつこのTEDBULが加入したかなんて淳二にしかわからずにいた。
淳二は頭を掻きあくびをして話を始めた。
「それじゃあ何も手も足も出ないな?手も足も、出ないな?本当だな?
出会う前にチャットしないか?業者にアカウント引き継ぐのにチャットしないか?そのために海女は動くと思う。」
「チャットが微かな希望で海女が動いたら受け渡しか。盗聴器持って尾行しよう。淳二、行こう。」
「たりめーだろ。行くぞ。」
豊田が僕らの行動をどれだけ知っていたかは不明だが、盗聴器を持った僕らの足は誰も止めなかった。
そんな中僕達にも豊田の目があると言うことで今回はルールを設けた。
1:声に出さない。会話はLINEでのチャットですること。
2:(▼5)シギントした情報は平文で即行動反映はなく持ち帰り後に(▼6)リレイテッドキーとして扱う。
3:しかし、BANDITSに対して情報は漏らさない。
4:持ち帰ったリレイテッドキーは(▼7)サイドチャネルに気をつける事。
▼5:シギント:通信や電子信号を傍受する事
で情報を得る方法。傍受、盗聴や通信
しただけで平文と分かるもの、に関し
てはただのコミントと呼ぶが、通信で
情報を得る諜報活動の総称として
シギントと言う。
▼6:リレイテッドキー:平文・暗号文以外の
条件を仮定し、関係が既知な鍵を用い
て暗号化や復号した平文・暗号文が得
られる鍵をリレイテッドキーと言う。
リレイテッドキーによる解読・サイト
攻撃は相手も諜報活動している場合
ノイズ情報や処理日時によりサイドチャ
ネルになりやすい。
▼7:サイドチャネル:暗号装置の動作状況を
様々な物理的手段やで観察や入力する
ことにより、装置内部の情報や交信内
容を取得しようとする事をサイドチャ
ネルと言う。誤入力の事もサイドチャ
ネルとされる。現実では暗号文に触れ
られない為起こりにくいがIPハッキン
グやサイトハッキングだと気付かれ易
い。淳二が2話で行ったマックでの誤文
章の取得から軌道修正し精度を出して
いく取得方法が現実では一般的でネッ
トハッキングでは進数解読か、プレイ
フェア暗号とし、解読していくのが一
般的なセオリー。
そして僕らはいつも通り変わらない風景の街並みを違う目線で眺めて行く。
僕達は何かに縋るために疑心暗鬼になっていたのだろうか。
淳二のショルダーバッグの肩掛けは幅を狭くするように拳で握りしめられていた。
青葉一町の街並みはいつもと変わらず小都心の風景そのものである。
石畳の歩道にイチョウ並木の配置。裏道路はコンクリの商店街だが、
表通りはパルコを筆頭に複合施設となる建物が数件立ち並ぶ。
噴水広場のアルファベットの麒麟ほどの大きさのモニュメントで待ち合わせする人々。
燃えるように紅いの唇のカップルシートのカップル。
こんないつもと変わらない街並みは人々の不審な動きや仕草で僕達を苦しめようとしていた。