第九話「望遠する事」
僕達が居るのは本当にいつも居る同じ街なのだろうか?
皆の目線がこちらを向いているように感じ、振り返る人々の目線が僕の身体を裂く。
淳二に目線を送りスマホを持つ
「淳二、とりあえず事務所教えて」
「了解。付いて来て。」
休日だからか裏通りも人で溢れかえっている。
淳二はシュールなスタンプで僕を笑わそうとしてくる
これは俺達が僕達を潰し合う声を出しちゃいけないゲームではない。
しかし、この時の僕は相当強張っていたんだと解釈した。
「here!(スタンプ)」
「向かいのRASONで張り込みしよう」
そうスマホで伝えると僕たちは34℃の日が刺す中ベンチに座った。
この辺は駅前の大通りでバスなども15分に往来している。
しかしあるのは事務所の雑居ビルばかり。
灰色のビルから出てくる人の山は皆白黒。
そういった白黒が混ざり雑居ビルの灰色が形成されてるのかとなんか窮屈に思う
クリーニング屋さんは大繁盛し忙しそうにしている。それもそうだ辺り一帯白黒屋さんだからな。
毎日毎日、白黒白黒灰色、白黒白黒灰色、皆蟻ん子の行進ではないか。
豊田の事務所のドアが開く。ヒールのカツカツという音から女だと言うことがわかり息を潜める。
茶色のバッグを持った白黒の豊田を確認し、僕達は電柱3本分の距離を取り豊田の後を行進する。
追跡してると花屋で立ち止まりカバンをゴソゴソしている。
キョロキョロ辺りを見回すと灰色のものが入った1Lのペッドボトルを笑顔で雑談しながら店員に渡す。
そして挨拶をするとまたどこかに歩き始めた。
僕達は花屋の前で立ち止まり、店員が持ってるものをよく見るとタバコの灰を店員に渡していた。怪しい。
「店員にタバコの灰?どういう意味?」
「豊田の行動は全然わからん。浩ちゃん豊田に盗聴器仕掛けてきてよ」
「そんな難しい要求するなよ。淳二行ってよ」
「浩ちゃん、ほらマスクあるよ。行けるって宜しく。」
淳二に目で合図をされると俺は暑い中マスクを付け、
白黒の人混みの中静かに肩にかかった革のトートバックの底に盗聴器を付けた。
ヒヤヒヤしたが、盗聴器を付けた時の音は回りの人々の話し声にかき消され気付かれずに済んだ。
豊田はどこに向かっているのだろうか。
オフィスビルが立ち並ぶ所から商店街の脇道へ行く赤信号を見つめ立ち止まっている。
青信号になると白黒をくぐり抜け、商店街の方にズイズイ足を動かす。
僕達も点滅前にコソコソ足を動かす。
豊田が肉屋に止まると街の亭主と話始めた。
「今日も暑いですね。何買ったんですか?」
「本当に暑いね。細切れと薄切り豚だよ。今日は暑いし冷しゃぶだね。」
たわいも無い会話だった。僕達は何も聞かないフリをしながら汗を流す。
それから、クリーニング屋、靴屋、ドラックストアという具合に商店街を寄り道しながら歩いたが、
日が暮れるまで豊田は何も不審な様子は無かった。むしろ僕達の方が不審だったのではないかと言う具合である。
事務所への帰り道豊田に電話が掛かってきた。
「もしもし、C2、B5誰もいなかったわよ。何をやっているの?計画取り損ねたわ。F4もちゃんと居るんでしょうね?E2だって…」
「浩ちゃん、聞いて聞いて」
淳二は僕の耳に盗聴器のイヤホンを入れた。
「B5?今日はそのルートじゃないの。ったくもう。わかったこれから行くわ。」
豊田は誰かとわけの分からない座標か何かを話していたが、相手の声は雑音がひどすぎて微かに聞こえなかった。
豊田は事務所を通り過ぎ、交番に向かっている。向いながらもわけの分からない話をしている。
交番の前では警官が二王立ちし、帽子をかぶり街の住民と挨拶をしながら立っている。
街は平和そうで実は僕達だけが知っている不平和をこの警官は知っているのだろうか。疑問である。
豊田は交番の裏道に入るとスマホを取り出し誰かに連絡をしている。日本語なのに外国語みたいだ。
そして待つこと数分経ったある時、男の人が反対側から来て豊田はUSBを手渡し男は封筒をバックにスルリと入れる。ものの15秒だった。豊田はその男と目も合わせず、こちらに向かってくる。こちらは事務所方向だ。
僕らは近くの小さい錆びれたゴルフショップに身を潜めた。そして通り過ぎるのを見届けた。
「もう閉店時間とっくに過ぎてるんだが、何か用かね?」
ゴルフショップの老人店員が杖を突きながら怒り声をこちらに向ける。
とっさに出てしまった声は豊田が近くに居るからか、自分達をも驚かせた。
「すんません!何も無いです、浩ちゃん行こう。あ!」
「うん。あ?」
”あ”って何か疑問に思いつつ小走りで淳二の後を追い、一人ずつイチョウの木影に背中を這わす。
「浩ちゃん、なんか回収し忘れて無い?」
「盗聴器!(スタンプ)ヤバイ」
もうすぐ事務所に着いてしまう。ローソンの看板は青白く視界を捉えている。
「次、淳改宗」
「浩ちゃん、この状況でむりdaroて」
LINEを打つ手が脳を追い越し、誤変換が2人を襲おうが豊田は事務所に向けて歩く。
淳二は足音を立てずにかつ迅速に豊田の背後に近寄り、豊田が不運にも振り返のだった。
それもそのはず。回りに人は誰もいなく、気配を感じ取られてしまった。
すぐに関心がなさそうな顔をしてよそを向いた。
「あら、どうしてここに?ひったくりかしら?」
「家、近いもんで。」
淳二はヘアワックスで髪を直す様に苦笑いをしながら、襟足を触り豊田に頭だけ会釈をする。
今にも豊田は僕を見つけそうで冷や汗が背筋を通る。
「僕ら遊んでて、浩ちゃんもあそこに居るんで。」
僕は木だ。肌こそ最近日焼けしたばっかりだからまだ赤いが、ほら。目を閉じれば木になれる。
トントン
「まじかよ。俺をかばうとか無いのか」
「まぁ捕まっちゃけど面白そうだし行ってみようよ。リレイテッドキーあるかもよ?
そこでジギントしてる盗聴器も回収ね。浩ちゃん?」
ダメだった。肩を叩かれた僕は、うなだれたまま事務所に居た。
椅子からは青いファイルがブロック崩しの様に列ぶ本棚に、
ジェンガでもやってる様にそびえ立つ赤いファイルの数々が視界に入る。
ガラステーブルの方には何やら蜘蛛の巣みたいな6角形の模様の中にアルファベットと数字が数カ所埋まっている
なんだろう。僕達に関係ある暗号か?今日聞いた暗号みたいな日本語と関係あるのか?
「キョロキョロしないの。山賊さん」
豊田がお茶を持って来て僕達の目の前にそっと置く。
「そちらから事務所に訪問があるなんて珍しいわね?気でも変わったの?」
「別に……淳二とここらへんで遊んでただけです。」
時計が無口な僕達の代わりにメトロノームする。
豊田は二人をジロジロと見るとバッグを置き、お茶を一口啜り話しだした。
「あなた方がBANDITSから私の所に来れば報酬を弾ませてもらうわ。
それに今人員が身隠れしてる最中だから困ってるの。あなた方協力する気は無いの?
動向をずっと探らせてもらったけれども、BANDITSで最近入った割には2人とも頭脳なんでしょ?引き抜かない訳にはいかないわ。」
淳二は立ち上がり顎に手を当て歩き回り6角形の蜘蛛の巣の紙を手に取った。
「BANDITSに何やら恨みを持ってるようだが何をそんなに獲物が違うのに対立せにゃならんの?」
「獲物が違う?勘違いも休み休み言いなさい。
私たちはあなた達に取引業者を潰されてるの。私達を山賊から切り離さないで。
社会が目を向けたらそれだけで閉鎖だしアウトなの。」
「でも倫理観念からして悪いことでは無いならやり方はいくらでもあるよねぇ?
それともあれか?自衛団気取りの山賊じゃね?浩ちゃんどう思う?」
「山賊の気がする。海女とかかっこいい自衛団の名前付けてやってる事は山賊じゃあなぁ。
きっとあんた法的にお咎めもあまり無いし、ホワイトだと思ってるんですよね?なぁ豊田さん……
BANDITSもグレーだし海女もグレーなんだよ。この世の中にホワイトな事なんて無いんだよ。まして、
業者とやり取りしてるんじゃ立派な黒ですよ。法律で罰せられてないだけでお互い黒なんですよだから……」
「もういい!今日は帰りなさい!眠くなったわ!」
豊田がトイレに行く。その隙に盗聴器を回収し、淳二にグッドサインする浩市。
BANDITSも海女も俺達も黒であった。どちらも黒である。その黒さはグレーに近い黒である。
人々もまた法律を認識をした行動をしてないとグレーにどんどん近づく。
しかし、人間は決められたルールを熟読する事なんかまるで無い。全ての落とし穴はそこから始まっている。
ルールとは人々の暮らしが平等に与えられる為に考慮された禁止事項だ。
それに気づいて居ても「自分には関係ない」だとか「私は学がないから」、
と吐き捨て自分が上に立つ為に己を祀り上げポーカーフェイスで空中を歩くピエロになる。
それに気づく頃には事情徴収されいているに違いない。
その暗号は自分が当事者で居た時しか鍵がない暗号である。
淳二はこっそり6角形の紙を折りたたむと左ポケットに隠した。
足早に俺達は事務所を出ると6角形の紙を広げ帰宅するのであった。
僕達はこの小さな社会縮図の中で手放したくないモノを探り始めていた。
黒を黒と認識し、グレーを濃いグレーだと認識出来た時、
背伸びをしていた僕らを認識出来た気がした。
校正:H29.08.11
下書き消し忘れてましたので消しました。




