第十話「反復する事」
今僕は淳二の家。
なれた手つきで盗聴器の音声を聞いている。
もう何度目だろうか。豊田の声が嫌になる。
淳二がコンビニのトイレに入り鼻歌を歌いながらトイレを済まし、
エアーで水気を飛ばすのも笑わなくなってしまったぐらい行き詰まって居た。
昔受験の勉強をしながら聴き込んだ爆笑の録音ラジオの番組を聞いていた時とは違った退屈感がありながらも、
自分の考えを脳で巡らせていた。
「浩ちゃん、コンビニ行ってくる。なんか買うものある?」
「じゃあ俺、コーラとアイスで。悪いね。」
「良いよ良いよ。行ってくる。」
さすがの淳二もこの堪りかねた状況で疲れて空気を吸いたかったのだろう。
僕達が現時点で盗聴器から掴んだ事は4つ
会話している男との関係、6角魔法陣のパスコードがあるということ、パスコードの座標、
そして何よりも、意味の分からないやり取りで退屈だと言うこと。
この3つだった。
豊田が警察署の裏で会話していた男は出会い系サイトの業者のリエゾン。
男はリエゾンだが営業でもあったので、豊田が近づけたとも言える。
出会い系の提携には通常は契約書と手形が必要だが、豊田は業者の男と契約する気は毛頭無い。
豊田が望むのは親しくなることでパスコードを盗みその男を捨てる事。会話の音声はあまり良く聞こえなくても、
その豊田から更に何か情報を掴み豊田をどういう裁きにしようかと考えているのが僕らである。
この食物連鎖の攻略構図はあくまでも理想で僕達が一番業者から遠く、
6角魔法陣のルールを知らず暗号解読からも遠いのは自明である。
僕は録音テープの再生を押すと雑誌の畳の上に手を組んで寝そべった。頭を使いすぎて寝そうである。
もう明日にしようと言えば明日になる。夏休みとは全く素晴らしい。
僕達は何も掴めなければただの哲学トークの宅飲みの学生やらテレビゲームをしている学生と同等である。
少し違うのは俺達は勉強もゲームも苦手でその日疑問に思った事を雑食に駄弁るのが好きだと言うこと。
皆がどうでも良いと言えることで深く話すのが好きなだけだった。
寝返りを打つと6角魔法陣の紙をセブンで大量にコピーして手書きでメモ書きした紙が散乱している。
電話の内容では紙の上半分に6角魔法陣があり6角形の大きなマスの中で6当分されていてA-Fまである。
A-Fの三角形の中には大小6コの三角形が更にある。
小さい三角形マスのほうが1-3で大きい三角形のほうが4-6だそうだ。
どれも0時から時計回りに123123……456456……と三角の順番がならんでいる事が会話の内容から聞き取れる。
全体を見渡すとバラバラのアルファベットと数字が虫食いになりながら羅列している。
B3と言えばこのBの小さい3番目が指され、豊田の走り書きでB3→Uと書かれている。
ダメだ。分からない何故Uと表記されいているのかが分からない。
下の半分には暗号が記されている。
何が記されているのか分からないがアルファベットがこの座標とリンクしてるのは見ただけで理解出来た。
**************************
C2.A6.C1.C9
A3.C4.E1.C2
A16
E2.F2
B11.C4.D1.C4.F4.A5.B9.C6
D3
C13
C4.E1
A4.D2.C13
**************************
起き上がり背伸びをすると玄関からガサゴソと音を立てて淳二が返ってきた。
「あっちー。死ぬかと思ったわ。はい、これ。それでなんか分かった?」
「サンキュ。分かんねぇよ。アルファベットが入ってる所で暗号文に書いてる所は分かるが、
あとは音声が上手く聞き取れない。」
「そうだよな。アルファベットは6コで分けられてるマスも6コなのに
文章に6以上の座標が書かれてるのはなんだろうな。浩ちゃん空中にもう一枚こうやってもって。」
淳二はコピーされた魔法陣を取ると浩市に持たせて手を誘導して、
魔法陣の間に空間が出来るように構えさせ淳二が気を送るポーズを取った。
手を震えさせながら力強く消えそうな声で「出てこい…」と念じている。
「淳二……アホじゃねぇの?」
まだまだ淳二は一心不乱に念じ続ける。
「そんなんでまさか?!…………辞めた辞めた。終わり終わり。もっと頭を使えよ。」
「だって漫画みたいじゃん錬金術見たいし。出たら有名になれるぞ。」
浩市はやれやれとした表情で魔法陣の紙を捨て置き、コーラを飲む。
淳二は頭で手を組み少し拗ねながら鼻と唇の間にペンを挟み一考する。
問題は山積みである。暗号解読に電話の内容解読、淳二の馬鹿さ加減……
いつになったらこの3種の問題は解けるのか。それも疑問である。
「浩ちゃん、よし分かった。音声解析しに行こ。」
「どこに?まさかBANDITS?」
「そうそう。BANDITSに行ってノイズキャンセラー使う」
「もしBANDITSのメンバーが居たらどうするのさ?」
「それはBNDITSのメンバーに見せなきゃ良いんだよ。さっと行ってさっと帰れば問題ナッシング」
玄関を出ると僕らは盗聴したデータが入ったUSBを持ってBANDITSに向かった。
ルールは解釈によって時として変わる場合がある事を初めて知った瞬間であった。
日差しは僕達を刺すように監視し続けていた。走れば走るほど呼吸は上がり汗は吹き出ていた。
BANDITSに着いたがシャッターは閉ざされていたため骨を抜かれたイカのように力がすっと抜け、呼吸だけが暑かった。
早速バーに入り堀岡さんのPCに電源を付けUSBを挿す。
堀岡さんのノイズキャンセラーは優秀でホワイトノイズはもちろんの事、環境音も部分的に消せる為
車の音の波形や歩道が青になった時の音を読み込んでは消していった。
そして1時間後豊田と男の会話、電話の受話音だけになるとPCの電源を落とし帰宅した。
淳二の家までの道のりは短かった。
いつもなら遠く感じるのも今は盗聴音のことで頭が一杯だったのかもしれない。
「浩ちゃん、早速聞いてみよ」
「う、うん。」
僕はPCにUSB挿すと音声ファイルを選択し再生ボタンを押し、音量を上げた。
「-------もしもし、一昨日C2、B5誰も居なかったわよ?」
「もう君が指示した約束には従わないと言ったはずだろう。
俺は君の雇われ員だが本部から目を付けられるからもうやめてくれないか?」
「何をやっているの?計画取り損ねたわ。」
「君が稼げないのはどうでもいい。最近の警察は地に足が着きそうで怖いんだ。
今日は本部周辺に俺は居ないってこの間も言ったろう。分社の一昨日の時の待ち合わせの所で監視中だ。もうやめてくれ。」
「B5?あぁ今日はそっちのルートじゃないの。」
「もうこれ以上振り回されるならデータは開示出来ない。金は要らない俺は君の雇われだ。嫌ならとっとと切り捨てろ。」
「ったくもう。分かった。これからいくわ。」
浩市は早送りし音声が出ると同時に少し巻き戻して、
交番の裏で会う男のため息の所から再生を押した。
「もうやめてくれ。C2がS、B5がP、B6はR。F4はCで、E2が4。俺はもうかかわらない。これで最後だ。」
「わかったわ。あなたが居てくれて本当に助かったわ。でも、本部の隣に居た秋山君居たでしょ?」
「それがどうした?ん?待てよ!何でお前が知ってるんだ?……」
豊田はそっと笑みを浮かべると、その男の耳元で最後に囁いてた。
「私の部下なの……もう今日のこの事も連絡済みで分社にしてもらったの。それじゃ。」
その男は声にならない戸惑いの声が聞こえ、
足音はトンネル内の革靴の音が途中で消滅した。
僕達はメモのペンをそっと置くと
心の一時停止ボタンを連打していた。
紙の6魔法陣の暗号
校正;
密会したあとの盗聴再生シーンの始めを”交番の裏で会う男のため息の所から再生を押した。”に訂正しました。




