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一軍の指揮官は、一人であるべきである。

指揮権が複数の人間に分散しているほど、有害なことはない。

それなのに、現代(16世紀)では、国家はこれと反対のことを行っている。

行政面にいたるまで、複数の人間にまかせるというありさまだ。

結果は、実害を伴わずには済まない混乱である。

ゆえに、私は断言する。

同じ権限を与えて派遣するより、二人の優れた人間を派遣するより、一人の凡人を派遣したほうが、はるかに有益である。


「政略論」


マキアベリ氏のの軍事・政治論の核心部分である。

彼は複数の指揮官が同じ権限を持つと、必ず対立・遅延・責任の曖昧化が起こると考えていた。

マキアベリ氏の生きた16世紀のイタリアは、都市国家が互いに争い、傭兵隊長たちは、複数の権力者に仕えては裏切り、軍の統制が乱れ、国家が弱体化していった時代である。


さて、 なぜ「二人の優秀な人間より、一人の凡人」が良いのか

マキアベリ氏の論理は、複数の優秀な人物は、互いに競争し、判断が割れる 。

その結果として、軍や行政は迷い、行動が遅れる傾向を持つ。

また、権限が分散すると責任が曖昧になり、 失敗時に誰も責任を取らず、組織が弱体化する。

しかし、凡人であっても、権限が一元化されていれば決断は速く、 組織は統一された行動を取ることができると、論じたのである。


歴史を振り返れば、


1. 古代ローマ

 ローマは通常、権力の集中を嫌い、二名の執政官が同等の権限を持つという制度だった。

 マキアベリ氏自身は『政略論』『ローマ史論』で繰り返し批判している。  

 典型的な問題例としては、紀元前216年 カンナエの戦いをあげる。

 執政官の一人パウルスは慎重策を主張、もう一人の執政官ヴァロは強硬策を主張した。

 結果として、 指揮が割れ、ローマ史上最悪の大敗になった。


2. 中世フランス

 14〜15世紀のフランス王国は、王権が弱く、王族、大貴族、宮廷評議会が互いに権限を主張し、軍の指揮権が分散していた。

その「評議会政治」の混乱の典型例としては、アジャンクールの戦い(1415)。

フランス側は複数の貴族が「自分が総大将だ」と主張し、指揮系統が混乱し、イギリス軍に壊滅的敗北となった。


3. 神聖ローマ帝国

 16世紀の神聖ローマ帝国は、皇帝、諸侯、都市、教会領がそれぞれ独自の軍を持ち、指揮権が統一されていなく、結果として対オスマン帝国戦争での連携不足を招いた。

 

4. スペイン(カスティーリャ+アラゴン)

 フェルナンドとイサベルの「カトリック両王」による統合後も、カスティーリャ王国とアラゴン王国は行政・軍事が完全には統一されず、二重構造が残った。

 外交方針が二重化し、軍事行動の調整に時間がかかった。


5. オスマン帝国

 逆に、マキアベリ氏が「理想的」と評価したのがオスマン帝国。

 オスマン帝国は、軍事指揮はスルタンまたは大宰相に一元化し、イェニチェリ軍は中央集権的に統制、地方軍も中央の命令に従属した。

 権限集中 が 軍事的成功 に結び付く典型例として、彼はしばしばオスマン帝国を引き合いに出している。


さて、現代日本で「指揮権の分散」が混乱を生んだと分析されている代表的事例を挙げておく。

( 行政の「縦割り」構造による危機対応の遅れ)

 多くの研究者が指摘しているのが、省庁間の権限分散 が 指揮系統の不統一 を呼び、結果として 対応の遅れ になる、という構造。

 代表的に挙げられる分野としては、災害対応(防災・復興)。

 内閣府、防衛省、国交省、自治体などが並列で動くので、指揮系統が一本化されず、情報共有が遅れる。(研究者の間で「縦割りの典型例」とされている)

 感染症対策においても、厚労省、内閣官房、自治体、専門家会議など複数の意思決定主体が混在し、「誰が最終責任者なのか不明確」という構造的問題が指摘されていた。


いずれにせよ、方針が定まらず、「迷っている状態」では、行動が取りにくい。

その逡巡している間に、より大きな被害も発生しうる。

それだから、マキアベリ氏は、指揮命令系統の一元化を説いているのだと思う。

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