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1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第一章「110番」

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第8話「現場の空気」

新宿島原の交差点に着いたとき、すでに数台のパトカーが赤灯を回し、制服警官たちが野次馬を下げていた。


喧嘩の主は二十代と思しき若い女二人。


殴り合いの横で、背広姿の男性が尻もちをついたまま呆然としている。


「通報の“男性”はあれだな。SPの姿が見えないようだが…」


山崎係長が目で示しながら、低い声で俺に囁いた。


野次馬達がSPが居ない事をいいことに、何とか男性を写真に収めようと一層荒れ始めた。


「ここじゃまともに聴取できそうに無いですね。このワンボックスに彼を乗せましょう。車両寄せてもらえれば、男性を私がここに乗せますから。」


「分かった。中村は地域に言って誘導と目隠し!後藤は安全運転!しっかり寄せろよ!」


山崎の指示により、中村がさっと車両を降り地域警察官を使って車両を誘導し、後藤がしっかりと男性の近くに車を停車させた。


誘導していた地域警察官がそのまま男性と車両の間を自身の上着で隠したのを確認し、俺は車のドアを素早く開けた。


「警視庁の警察官です!一旦こちらで落ち着きましょう!」


俺は、男性の手首に優しく触れて立ち上がらせ車両に乗せると、声を落とした。


「スマホはそのままでいいですから。移動中は大きな声を出さないでください。痛いところはありますか?」


「あ、お尻が少し痛いだけで、あとは何とも…」


男性の体を目視で確認すると、目立った外傷はなさそうだった。


「外傷なさそうだ、後藤さん出して!」


「へいへい」


俺の声に後藤がめんどくさそうに返事をし、車両が動き始めた。


「私は男性ですが警察官の佐藤です。まずはあなたのお名前と職業を伺っても?」


同じ男性である俺を見て、男性は少し落ち着きを取り戻したようだった。


「石田……石田翔一と言います。今、プログラムを受講していて3年目になります。」


「石田さんですね。わかりました。もし、どこか痛みがあったりしたら病院まで連れていきますので教えてくださいね。」


「わかりました。」


少し会話を繰り返すと、石田という男性はかなり落ち着いた様子になった。


「では、何があったかゆっくり話せますか?」


「はい。私が帰宅途中、SPさんが急に居なくなってしまって……そしたら女性二人に囲まれて怖くなってしまって……でも大したことは……ないです。本当に、すみません……皆さんに迷惑を……」


「迷惑だなんて言わないでください。何があったかお話し頂ければ大丈夫ですから」


俺の声は普段より少しだけ柔らかかった。


石田はその言葉にほっとしたように肩の力を抜いた。


多くを言わせず、しかし必要な安心感を与えるのが今の仕事だ。


「プログラムで…その……D判定が出てしまって。投資でお金、あ、借金ができたみたいで。そこから担当SPが変わって、新しい人は、あんまり守ってくれる感じの人ではなくなって…」


石田は手を組み、声を震わせながら続けた。


「プログラムでもDは…稼ぐ選択肢が少ないって言われて。投資がうまく行けば生活できるですけど…ネットではDの人がたまに行方不明になるって噂で聞いて……でもプログラムは受けなきゃいけないので……受けて帰っていたらSPが急にトイレにいってしまって…」


男の価値は遺伝子評価で決まるのがこの世界で、S~Dまでの通称ランクによって雲泥の差がある。


Sランクの者は一回の精液提供により、1年分生活費に昇るの金が転がり込んでくる。


Dは受精可能性が著しく乏しく、精子含有量や精子異常数によっては精液も廃棄扱いとなる。


当然、Dランクの男性は国家資産としての要保護性が下がるため、SPのグレードは落ち、割当たる職務も忌避される傾向が強いものが割当たるとしてあるのは知っていた。


しかし、DランクのSPが、職務を放棄するレベルのSPであるとは知らなかった。


「SP無しで歩くのは怖くて…ちょっと待っていたらさっきの女の人二人に……その…交配の要求をされて……怖くてうまく断れなかったら二人が喧嘩を始めて…」


この世界は男女比が1:96と歪でSPを連れて外出することが多いこともあり、彼のように気弱な男性が多い。


また、女性は男性を偶像化・神聖化する層や、男性を生殖資源として非人格化する層等がおり、今回の女性二人はまさに後者だったのだろう。


「それは、怖い思いをしましたね。」


俺は出来るだけ優しく、石田の不安を解きほぐす。


「い、いえ…同じ男性がいてくれてとても安心しました。」


石田の表情が明るくなり、少し笑顔が見えた。


今ならほかのことも聞けそうだと思い、俺は細かく質問を重ねた。


前のSPと現在のSPの名前、所属、どのような容姿であるか、普段のSPとのやり取り、プログラムの手続きをした時の反応等。


「前のSPさんは職人肌という感じの人でした。外見的にはあんまり特徴は無かったですが、腕に古い傷痕があって…でもそのくらいですかね。」


その一言で、俺の中で微かな歯車が噛み合う音がした。


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