表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/96〜男女比1:96の貞操逆転世界で生きる男刑事〜  作者: Pyayume
第三章「潜入」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/69

第23話「中村英子:潜入②」

石田翔一、私達特務捜査係の最初の臨場の被害者。


今回の捜査のトリガーにもなった男性。


私が彼を最後に見たのは、彼が佐藤主任に励まされ、少し笑顔を取り戻したあの時だった。


「あ、失礼しました。こちらのセラピストは本日完売でして、この2人からお選びください。」


女はそう言い、石田の写真をポケットにしまう。


その動作で、私は我に返った。


「……この人でお願いします。」


手が震えないよう、意識して深く息を吐く。


「セラピスト太陽ですね。カード情報がエラーのため入会金とパネル指名料を含めて4万円先払いとなります。」


私は財布からちょうどあった一万円札4枚を手渡すと、金を受け取った女は、淡々と頷き奥へ消えていった。


静寂が戻り、時計の針の音すら聞こえない部屋の空気が、私には妙に重く感じた。



「お待たせしました。」


その声とともに現れたのは、写真より少し肌が青白い青年の姿だった。


服装は女性マッサージャーと同じような格好だが、体のラインが見えるため一部のものの性癖には刺さりそうだった。


気になったことは、その瞳には光がなかったことだ。


「ご指名ありがとうございます。太陽です。本日はよろしくお願いいたします。」


口調は柔らかいが感情の抑揚が異様に均一で、記録された音声を再生しているように感じた。


私は立ち上ると、天井の丸い装置を視線の端に見つけた。


内部にもしっかり監視カメラで見られている。


「こちらへどうぞ。」


太陽と名乗った男性は、私の左手の先をそっと握り、誘導した。


その瞬間、肌を伝って微かな静電気のような感覚が走る。


間違いなく生身の人間のぬくもり、クローン体やアンドロイドじゃない。


簡素なドアが両側に並ぶ通路を、手を引かれて進んでいく。


人生で初めて男性に触れられるという感覚にむず痒さと恥ずかしさを感じた。


奥に進むたび、息が詰まっていき、心臓が激しく動き、足音が吸い込まれるように消えていく。


ようやく、奥の左手のドアに案内された。


「どうぞ、こちらへ。靴を脱いでお入りください。」


私は一瞬躊躇しかけたが、不自然にならないようすぐに従った。



部屋の中は、想像していたよりもずっと簡素だった。


六畳ほどの空間に、ベッドと椅子が一脚ずつ。


照明は淡い橙色で、壁には音を吸い込むような素材が貼られており、外界の音は一切しない。


そして、少し大きな鏡が壁に貼り付けてある。


「どうぞ、おかけください。」


太陽はゆっくりと扉を閉めると、私の正面に立った。


その動作には、まるで誰かに動きを制御されているような規則性があった。


「お飲み物を準備いたします。お茶やコーヒー等どうしますか?」


「それじゃあ、暖かいお茶を頂けますか」


「承知いたしました。持って参りますのでしばしお待ちください。」


太陽が部屋を後にしたことで、冷静になった私は壁の鏡に指をつけた。


私の指は鏡に映った私の指とぴったりくっついた。


「……やっぱり、マジックミラーか。」


部屋の中に監視カメラはなくても、マジックミラー越しに部屋を撮影されている可能性がある。


私は一歩後ずさりしながら、再度マジックミラーを観察する。


太陽が戻ってくるまで、私は椅子の縁に腰をかけたまま、視線を鏡から外せずにいた。


鏡の上部、光の反射がわずかに歪んでいる部分があった。


あそこに、監視カメラがあるのだろうか。


「お待たせいたしました。」


太陽がトレイを持って戻ってきた。


白いカップから、湯気が静かに立ちのぼる。


「熱いのでお気をつけください。」


「ありがとう。」


一口だけ口をつける。


香りは粉の緑茶に近いが、妙に舌にざらつく感覚が残る。


(何かの検査用か?もしくは鎮静剤……)


私は、口に含んだ液体を飲むふりをしてパーカーの袖に染み込ませた。


太陽はベッドの横のワゴンから白いタオルとバスローブを取り出し、私の背後に立った。


「こちらがお着替えになります。お手伝いいたしましょうか?」


「あ、いや、大丈夫です。」


そう言いながらバスローブを受け取ると、太陽が私の方を見ていることに気がついた。


男性に着替えを見られるという特異な状況に、顔が熱くなるのがわかる。


「お客様、もしかして初めてでいらっしゃいますか?」


顔が真っ赤だったためだろうか、太陽からの指摘にさらに恥ずかしさが込み上げてきた。


「失礼いたしました。お着替えしにくいということでしたら外におりますので、終わったら扉のノックをお願いします。」


そう言うと太陽はそっと部屋を後にした。



これまで仕事以外で男性と関わったことが無い私は既に恥ずかしさでいっぱいいっぱいだった。


それでも「これは仕事だ」と言い聞かせて、バスローブへの着替えを済ませた。


「これから始まるんだ…大丈夫かな……」


私は、不安と羞恥で挫けそうになりながら扉をノックし、着替えが終わったことを知らせた。

調べたところによると、マジックミラーの見抜き方として鏡面にLEDライトを当てると透過するという方法もあるようです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ