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恐怖

「こんばんは、ホーキンス子爵」


 誰かの声がする。

 ん、もう朝か?

 私は起きようと体を動かそうとして、体が動かないことに気付く。

 目もぼやけて、よく見えない。

 いったいどういうことだ!?


「返事は要らない。体も動かなければ、声も出せないからな。首だけは動くように調整してある。声が聞こえたら、頷いてみろ」


 どこか子供のような、そして冷たい声が響く。

 その子供の言うように、声も出せなければ体も動かない。

 そこで私はとてつもなく危険な状況に居ることに気付く。

 姿も見えない相手に、命を握られているのだと。

 私は、なんとか冷静に頷いた。


「初めに言っておく。俺はいつでもお前を殺せる。今すぐでも、明日でも、明後日でも。お前だけではない。娘も、妻も、息子もだ。今日を乗り切った所で、意味はない。そう伝えておく」


 私はその言葉に唾を呑む。

 淡々とした口調がそれを事実だと認識させるからだ。

 外からは全く騒がしい感じもしない。

 侵入者がここに居ることすら見張りの者は誰も気付いていないのだ。


「これは交渉ではなく、命令だ。ラルゴ村への兵士派遣を止めろ。」


 その言葉を聞いて私はぴんとこなかった。

 ラルゴ村……?

 そこで思い出す。

 この間、スマイルを派遣した小さな村である。


 同時に理解した。この男にスマイルはやられたのだと。

 音もなく、やってきて私の命を掴むこの死神に。

 なぜ、こんな化物があんな小さな村のために動くのだ?


「今後一切あの村に兵を送るな。少しでもあの村にマイナスな影響のあることを行った瞬間、お前の親族を皆殺しにする。お前が直接命令をしていなくても、あの村になにかあった場合は必ず殺す。生きたければ死ぬ気であの村を守れ。後あの村はお前の愚かな兵士派遣を受け、大きなダメージを受けた。手厚い補償で報いろ。分かったな?」


 矢継ぎ早な命令。

 だが、逆らう気にならなかった。

 私は思い出した。

 世界一と言われる暗殺者集団『アスガルド』を。


 音もなく、死を届けると言われる集団だが、実在していたのか。

 アスガルドがあの小さな村のために動いているのは信じがたかったが、その実力は明らかに逆らってはいけない存在である。

 私は必死で首を何度も振った。


「俺はいつでもお前を見ている。一生な。俺の正体についても深追いはしない方がいい。死にたくなければな。その毒は数時間で効果は切れる。安心しろ」


 その言葉を最後に、その子供からの声は聞こえなくなった。

 消えたのかどうかすら、分からない。

 二時間後、目と体が動くようになって私はすぐに体を動かす。


「い、生きている……! 殺されていない」


 自分の顔に何度も触れ、生きていることを確かめる。

 体中は汗でびっしょりとしており、喉も乾ききっている。


「アスガルド……あそこまで化物だったとは。王を殺した伝説の暗殺者組織。夜会で噂を聞いた時は笑い飛ばしていたが、あれは本当に人なのか?」


 ラルゴ村には絶対に関わってはいけない。

 未だに震えが止まらない。

 私は夜明けと共に、全兵にラルゴ村出兵の取り止めを発表した。


「出兵は取り止め。あの村に何かした場合は死罪とする!」


 突然の方向転換に兵士はざわめきを覚えるも、すぐに納得した。

 だが、納得しない者も勿論居た。


「どういうことですか、父上! あの村は野蛮人の集まりです! この腕を見てください! 決して許してはなりません!」


 その言葉に聞いた瞬間、頭が怒りで沸騰しそうになる。

 誰のせいで私が死にかけたと思っている!

 何も知らずに、この馬鹿のお陰で私の可愛い娘まで命の危機にさらされているのだ。


「黙れ、この屑がああああああああ! お前のせいでスマイルも、多くの兵が死んだのだ! お前のその愚かな行動のせいでな! 今後一切兵は出さん、これは決定事項だ! もしラルゴ村になにかしたら、息子のお前だろうと死罪にするからな!」


 私は息子のハビエルの胸倉を思い切り掴み、怒鳴りつける。


「は……は、い……」


 私の怒りが伝わったのか、ハビエルは固まる。

 奴についている兵士達にも、厳命しておく。


「お前等、あの村に少しでもちょっかいを出してみろ。どんな言い訳を並べても必ず殺してやる。ハビエルにも絶対行かせるな。分かったな?」


「はい! 勿論であります。ハビエル様にも絶対行かせません!」


 兵士達も私のあまりにも激しい剣幕に何かを感じ取ったのか、ハビエルを軟禁してまで止めていた。


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