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迫りくる

「持ってきました」


「おっ、レイル。そこに置いといてくれ。代金だ」


 夜の書き入れ時のせいか、店主も忙しそうだ。


「店主。山が少しおかしい、ってベン爺さんが。危険だからしばらく出ない方がいいって」


 その言葉を聞いた店主が、頭を掻く。


「まじかよ……ベン爺さんの予想は当たるんだよな。しばらくは控えるか」


「そうした方が良いと思います」


「あてになんて、なるのかねえ。もうベンの爺さんも年だろ?」


「ビビってるだけじゃねえか? 所詮は鹿しか殺せねえんだよ」


 この間絡んできた二人組がこちらを見ながら、言う。


「あの馬鹿共が……」


 店主は頭を抱えている。

 そうか、馬鹿だから分からないのか。

 俺は二人組の元へ歩いていく。


「お前等程度が村の外に出ると、死ぬぞ」


 俺は馬鹿でも分かるように、分かりやすく伝えてあげる。

 それを聞いて、一人の顔が真っ赤に染まる。


「てめえ、たかが狩人風情が……!」


「止めとけって! こいつ、あの冒険者達二人のしてんだぞ!」


 もう一人が、真っ赤に怒った者を止める。

 忠告もしたし、もう大丈夫だろう。

 俺は酒場を出て、家に戻る。


「お帰り、レイル。疲れたろう」


 クリフさんが、笑顔で労わってくれる。


「大丈夫だよ。クリフさん。ベン爺さんが、山がおかしいってさ。魔物が来る可能性があるから、あまり村から出ない方がいいと言ってたよ」


「……ほう。しばらくは村から出ん方がよさそうじゃのう」


「まじぃ? いやねー。あんたもしばらく出番ないわねー。畑手伝いなさいよ」


「頻度は減らすと言っていた」


「すぐに原因が分かるといいわねー」


 そう呑気に話していた。

 ベン爺さんの忠告が効いたのか、一週間程は皆大人しくしていた。

 だが、やはりはっきりと何かを見た訳でもないため少しずつ皆、いつも通り外に出るようになった。


「仕方ねえなあ。儂もはっきり言える訳じゃねえ。だが、最近鹿が狂暴になっている。おそらく餌を満足に食えてねえんだ。原因を探りに行った方がいいな。レイル、行くぞ」


「分かりました」


 俺はベン爺さんについて、山へ向かった。


 ◇◇◇


 レイルに喧嘩を売っていた二人組が、退屈そうに話していた。


「ああ……こんな何もねえ村にずっと籠っているなんて退屈すぎる。ラービス行こうぜ」


 ラービスとは、周辺の村を全て統治している領主が住む都市である。

 王都程ではないが、ここより人も多く、村の若者はたまに遊びに訪れる。


「けど、大丈夫か? ベンの爺が言ってたんだろ?」


「もう二週間も経つが、なんの続報もねえ。あの爺の勘違いに決まってんだろ! もうボケてんのさ。あんなよそ者を弟子にするぐらいだからよ」


「それもそうか。アミラちゃんにプレゼントあげたいし、ラービス行くか」


「お前なんかにアミラちゃんが靡くかよ」


「うるせえなー。お前にも靡かねえよ」


 二人は連れ立って、村を出る。


「二人共。今森は危ないよ。止めておいたら?」


 アランが二人を止める。


「うっせーな。関係ねーだろ。役に立たない門番がよお」


「黙って、そこに突っ立ってろよ」


 二人はアランに悪態をつくと、そのままラービスへの最短距離である森の道を進む。

 森はいつもより、静かな気がした。

 いつも聞こえる鳥の声が聞こえないのだ。


「なんか……確かに雰囲気違うな……」


「早く行こうぜ」


 二人は嫌な予感を感じ、速足で走る。

 そんな時、道の前方を全速力で走る鹿の群れが通り過ぎる。


「うおおっ! 鹿だ!」


「危ねえなっ!」


 鹿達は二人に目もくれず、一目散に姿を消した。


「なんだったんだよ……」


 そう一人が呟いた瞬間、左側の森が大きく揺れる。

 次の瞬間、森から巨大な熊が姿を現した。


「え?」


 全長五メートルを優に超え、針のように太い漆黒の毛で覆われた巨大な熊の魔物・ハイランドグリズリー。

 本来であれば、国の騎士団が集団で狩るような魔物である。

 目は赤く、その獰猛な口からはよだれが溢れ、二人を完全に獲物として見ていた。

 二人はその姿を見て、恐怖で腰を抜かす。


「ひっ……ば、化物っ!」


 なんとか逃げようと、なんとか地面を這いずり進む。

 ハイランドグリズリーはその凄まじい速度で、一瞬で距離を詰めると、その鋭い爪で二人を切り裂いた。

 二人の首が一瞬で宙を舞う。

 ハイランドグリズリーは動かなくなったその胴体にかじりつく。


 咀嚼音だけが、森に響き渡る。

 口を血で真っ赤に染めたハイランドグリズリーは、再び立ち上がる。


(ウマイ……コノエモノガ、モットホシイ)


 人の味を覚えたハイランドグリズリーは、森の中へ再び入る。

 新たな獲物を求めて。


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