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冴えない僕が料理人になって成り上がったった  作者: 御節 数の子
第6章 甘くてしょっぱい味
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幕間 ~ユージン視点~

僕は王宮内の更衣室で何度も自分の服装を確認した。いつも着ているコック服ではあるのだが、今日は念入りに確認する。


僕はとある街の食堂を営む夫婦の間に産まれた。物心つく頃には両親の手伝いをしようとしたが、緊張しがちな性格と相まってなかなかうまくはいかなかった。それでも両親は怒鳴ることなく、僕ができることをやらせてくれた。その一つがスープ作りだった。僕の作るスープは評判がよく、そのうち、父が作るものをしのぐほどになっていった。


ある日、ふらりと訪れた背の高い、がっしりとした男もスープに舌鼓をうった。それが王宮厨房の料理長、ダンヒルであることはのちにわかるのだが、そのときの僕に知る由もなかった。


しばらくして、僕を王宮料理人としてスカウトしたいという手紙がきた。ユージンは悩んだが、両親の勧めもあり、王宮料理人として働くこととなった。


はじめて王宮厨房に入ったとき、僕は呆気にとられた。実家の食堂とは違い、人数も規模も違う。特に宴会が開かれるときはまるで戦場のような荒れ具合だ。僕がその戦場でなんとかついていこうとしているなか、同い年のアンブラーは堂々と下ごしらえを手伝っている。僕はアンブラーを尊敬しながらも、一方で、いつかは自分も鍋の前に立ちたい、そう思いながら目の前の皿を洗うことに専念していた。


「ユージンはスープを作ることに専念してください」


キヅカ、という男からそういわれたのは、つい先日のことだ。よりにもよって隣国の婚約を祝う宴会の料理メンバー、それもルーツ王子以下、5人しかいないチームに選ばれてしまった(・・・・・・・・)僕は、それでもある程度気楽に考えていた。どうせ数合わせ、皿や調理器具を洗っていれば大事にならないだろう、と。しかし、なぜかキヅカさんは僕にスープ担当を命じたのだ。


「おい、ユージンに1品任せるのかよ」


同い年で、この5人の中では僕をもっとも知っているアンブラーが異を唱える。それはそうだろう。厨房では皿洗いしかしていない自分が、スープ作りなんてできるはずがない。


「ユージン、やりたいか、やりたくないか。それだけでいい」


キヅカが問うた。僕は思わず言ってしまった。


「・・・やりたい、です。ですけど」


「よし、決まりだ」


後から考えればなぜそのようなことを言ったのか、わからなかった。


キヅカさんが僕をなぜ選んだのかを説明し、アンブラーも納得したため、僕は言いたいことの半分も言えずにスープを担当することが決まった。予期せずして、自分が厨房でやりたかったことをできるようになったが、しかし、その場は王子主催の祝宴である。うまくできる自信なんて、これっぽちもなかった。


不安しかなかったが、それでも祝宴までの数日間、僕は与えられた厨房での時間を使ってスープの試作品を何度か作った。具剤に火を通す時間、ルクミの量、そしてどのような温度で出せば飲みやすいか。限られた時間の中で様々なことを試した。


そして、今日がいよいよ当日である。僕は入念に服装をチェックすると更衣室を出た。廊下を歩くと手と足が同時に出る。祝宴までは時間があり、メイドや執事しか顔を合わせなかったのはまだよかったが、挨拶もろくにできない。


「おおおおお、おはようございます」


おずおずと声をかけながら、僕は厨房に続く扉を開けた。そこにはすでにキヅカさんとルーツ第三王子がいた。


「おはよう。今日はよろしくね」


「おはよう。体調はどうだい?」


キヅカさんはともかく、ルーツ王子がいるとは思わず、僕は思わず固まってしまった。平民である自分が、第三王子とはいえ王族と話をするどころか、顔を合わせることすらいまだに慣れない。


「あああああありがとうございます!ななななんとかだいじょうぶでしっ!・・・です」


僕はなんとか声を絞り出す。その様子を見て、ルーツ王子は苦笑するのだが、その姿を顔を下に向けていた僕は見えていなかった。


しばらくしてジョナンドさんとアンブラーもやってきた。時間が迫ってくると、僕だけが緊張しているわけではないことが伝わってきた。


「いよいよだな」


ぼそっとアンブラーがつぶやいた。その声も心なしか震えている。緊張をほぐすようにジョナンドさんが言った。


「なあに、気にするな。仮にこの宴会が失敗に終わったとしても、主催者のルーツ王子のせいだ。それにそもそもキッチンが手伝わなかったのが悪い」


「その台詞は聞き捨てならんな」


ジョナンドさんの台詞に応えた主のほうに顔を向け、僕は身体を固くした。そこには料理長であるダンヒルさんがいたからだ。料理長は身体も声も大きく、威圧感があって僕のもっとも苦手とする人種だ。


ダンヒルさんが続けて声を上げる。


「エビルプルッアを使う祝宴など、聞いたことがない。それに王宮厨房が手を貸したとなると、末代までの恥だ」


「ダンヒル、何しに来たんだ?」


ダンヒルさんに応戦したのは、彼の弟でもあるジョナンドさんだ。


「何しに来た、とはご挨拶だな。我が城の中を荒らしまわらないか、見張りに来たんだ」


「ジョナンドさん落ち着いて」


バチバチと火花を散らす兄弟の間に、キヅカさんが割って入った。ダンヒルさんはそのまま何も言わずに厨房の端に移動した。どうやら本当に監視する気らしい。自分の中で緊張が増していくのがわかる。


「いよいよ祝宴です。不安なことも多いですが、いまさら言っても始まりません。無事に終わるように、みんなできることを全力でやりましょう。今日は一日よろしくお願いします」


キヅカさんがぺこりと頭を下げた。ほかの4人は緊張が少し溶けたようだが、僕は緊張しっぱなしだ。


「よし」


誰が言ったかもよくわからない掛け声を合図に、それぞれが持ち場に着く。僕も少し遅れて持ち場に着いた。


「はい、ユージン。いつも通りやってくれればいいからね」


キヅカさんが材料をもってきてくれた。材料も持たずに僕は何をしようとしていたのか。恥ずかしい気持ちでいっぱいだ。


「はははは、はい」


キヅカさんは僕の肩をポン、とたたいて僕の元を離れた。なんとなく、背中を押された気がした。


僕はふーっと息をつき、目の前の食材に目を向ける。ボカチャ、ガジャイモ、そしてエビルプルッア。いつも通りの食材だ。僕は「練習通り」に食材を切り、水を張った鍋に食材を入れる。ジョナンドさんにお願いして火をつけてもらう。くたくたになるまでじっと鍋を見て、そして具材を取り出す。ボウルに移したらすりこぎで具材をつぶす。小柄で非力な僕には一番きつい作業だ。


「手伝おうか」


キヅカさんが声をかけてくれた。


「いえ、大丈夫です」


僕は無意識に言った。


「わかった、何かあったら言ってね」


一瞬の間があいて、キヅカさんはそういい、僕の元を離れた。


僕は時間をかけて、入念に具材をつぶす。ボカチャとエビルプルッアのスープはこの作業が一番大事だということが、何回かの試作で分かった。いかにしっかりと潰すかで舌触りがかわる。塊がなくなり、エビルプルッアからでたジュースがボカチャとガジャイモに吸い取られたら、今度はルクミを入れる。スープに火を入れることを考えてやや緩めに作る。それを鍋に戻し、弱火にかけて温める。十分に温まったら塩と胡椒で味を調える。


「キキキキキ、キヅカさん、スープの味をみてくだしあ、ください」


僕はおもいっきり舌を噛みながらもキヅカに声をかけた。自分から声をかけるだけ、進歩したと思う。


キヅカさんは小皿にスープを少量とって味見をしてくれた。


「うん。うまい。僕が試作したときよりおいしくできてる」


キヅカさんは笑ってそういってくれた。僕は恥ずかしくてうれしくて興奮して、顔が赤くなるのがわかった。


いよいよスープを出す順番になった。キヅカのアイディアでお湯にくぐらせて温めた器にスープを注いでいく。クルトンというらしい、バーラーを細かく切って焼いたものを浮かべ、完成だ。ワゴンに乗せて会場に運ばれていく。


ここまでの料理はほとんど残ることなく厨房に帰ってきている。


スープだけが残っていたらどうしよう。


その不安をかき消すように、僕は返ってきた皿を洗う。スープを作り終えた自分ができることはこれくらいしかない。


しばらくすると、ポワソンを出す準備に入った。それはすなわち、スープの皿が帰ってくることを意味する。


ドキドキしながら僕がワゴンをみると、見事に空になっていた。ものによってはなめとられたかのように、きれいになっているものもある。


それをみて、僕は誇らしい気持ちで、洗い物を続けた。頬がにやけていたのは、許してもらおう。

ユージンがどもることもなく、返答してましたね。集中力はさすがです。


次回はオムニバス形式で幕間のようなサイドストーリーを書く予定です。第6章で明かされなかった目線での話もありますので、お楽しみいただければ幸いです。


誤字脱字などの指摘、ご意見・ご感想、料理に関するリクエスト等あればぜひともコメント欄にコメントをお願いします。


なお、リクエストに沿えるかどうかは保証しかねますのでご了承ください。


ちょっとでも評価していただければ、筆者が喜びます。

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