第4章 食感を楽しむ味 ①
昨日中に予約投稿をしていたつもりが、できていなかったようです。1日遅れてしまって申し訳ありませんでした。
では、本編をお楽しみください。
王都について2日目。キヅカはハバネルとともに王宮に足を運んだ。イメージとしてはアラジンに出てくる王宮だ。縦というより横に広い。
王宮の正面に馬車が止まり、ハバネルが先に馬車から降りた。
「お疲れ様です!ハバネル殿!ご用件をお伺いします」
王宮の扉の前に立つ騎士に声をかけられる。彼の言葉からハバネルが門番兵をしている末端の騎士に名前を憶えられているくらい、出入りしている大商人であることが知ることができた。
「ルーツ様にこの男を連れてくるように仰せつかっております」
ハバネルは恭しく頭を下げる。
「その男を、ですか?」
騎士は訝し気にキヅカを見る。キヅカは気まずそうにぺこりと頭を下げた。
昨日の旅人風の装いとは違ってパリッとした服装をしているハバネルに対し、昨日と同じような普通の服を着ているキヅカは、王宮に勤める騎士にとっては不審者以外何物でもないだろう。いくら大商人ハバネルが連れているとはいえ、簡単に第三王子につなげる人物像ではないだろう。
「いったん確認する」
騎士はそういうと王宮の中に入っていった。
「やっぱり何か着飾ってくるべきでしたかね」
ハバネルは振り返って肩をすくめた。キヅカは逆に肩をすぼめた。
王宮に来る前にハバネルはキヅカの恰好をみて、「それではいけない」といろいろ服を準備してくれた。だが、いかんせん、身長差があったため、まったくサイズが合わなかった。泣く泣く普通の服を着てきたが、やはり怪しまれてしまったようだ。
しばらくすると、騎士が戻ってきた。
「ルーツ様に確認をした。入ってよいとのことだ。だが、くれぐれも変な真似をしてくれるなよ。お前の恰好はいかにも平民で、王宮では浮きすぎる」
「き、気をつけます」
堂々と王宮に入るハバネルと対照的に、おずおずとキヅカは中に入る。
中は豪華絢爛であった。赤色の絨毯が敷き詰められ、天井からは豪華なシャンデリアが吊られている。正面には大きな階段が伸び、奥には大きな扉が見える。欄干や橋脚にも細やかな装飾が施されている。1、2階とも、外観と同様、左右につながる廊下を数人の従者が往来している。
キヅカは、まさにゲームの中に迷い込んだような感覚に陥った。
「キヅカ殿、早くいかないとおいていきますよ」
ぼーっとしているキヅカに、ハバネルが声をかけた。キヅカは慌ててハバネルに続いて階段を昇る。
階段を昇り切ったとき、この王宮の中で最も会いたくない人物に出会ってしまった。
「ハバネル!久しいじゃないか」
「これはこれはブロム様。ご機嫌麗しゅう」
ルーツの兄であり、サロハ国の第1王子、そしてキヅカが王宮に足を運ばざるを得なくなった元凶でもあるブロムが、ちょうど右側の廊下から出てきたところであった。ブロムは、キヅカが勤めているフービ・ジョナに乗り込んできた際、キヅカが追い払った・・・もとい、ご遠慮いただいた人物である。対立することは目に見えていたので、できれば対面は避けたかったところだが、早々にその思惑が崩れてしまった。
「ん?そやつはノルプスクエで会った男だな。俺に無礼を働いたから覚えておるぞ」
ハバネルの陰にこそこそ隠れようとしたが、ブロムは許してはくれなかった。
「おや、ブロム様のお知り合いでしたか。何やら失礼をした様子ですが、今は私の従者。なにとぞ、ご勘弁を」
ハバネルはいつも通りの笑みで頭を下げる。キヅカもつられて頭を下げるが、その下げ幅はハバネルよりもずいぶんと浅い。
「ふむ。たしか、フービ・ジョナで働いていたはずだったが・・・」
そういってブロムはポンッと手をたたいた。
「そうか。お前はあそこをクビになったのだな。まあ、当然のことだ。いくらジョナンドが許すはずがないもんな」
「というと?」
「こいつ、エビルプルッアを店で出そうとしてたんだ」
くっくっくっと笑いをかみ殺しながらブロムが言った。
「ほう。そうだったんですか。それは知りませんでした」
ハバネルは表情を全く変えずに言ってのけた。
「で、ハバネルは何用で王宮にいるのだ?」
「ルーツ様にお招きいただきまして」
「ふむ。ルーツにか」
ブロムは何かを考えるように顔に手を当てた。
「何用かは知らんが、お前も深入りはするなよ。あいつは第3王子だ。俺がいる限り、日の目をみることはない。まあ、お前ならわかってるだろうがな」
ブロムはハバネルの肩をポンと叩いて、階段を降りていった。今日も市中に行くのだろうか。
「僕はいつの間にハバネルさんの従者になったんでしょうか」
ブロムが王宮から出た後、ハバネルにキヅカはささやいた。
「まあ、いいじゃないですか。嘘も方便と言いますし」
ハバネルは「さあ、行きましょう」というとブロムが来た方向に向かって歩き始めた。歩きながらハバネルは王宮の作りをキヅカに教えてくれた。
王宮は2階建てで、1階、2階ともに回廊になっている。正面の扉には王座があり、左右にそれぞれ食事会が開かれる大小の宴会場が設置されている。左の廊下をしばらく歩くと、左手に中庭が広がっていた。2階に中庭があることは珍しいが、その下はキッチンや従者の宿舎など、主に城で働く人のための施設があるらしい。廊下を挟んで反対側にいくつかの扉がある。この部屋は主に大臣など、要職に就いている人の一時的な休憩室になっている。
2人はさらに奥へと歩いていく。はじめは人通りも多く、ハバネルを見ると会釈をする人もいたが、徐々にその人影は少なくなっていった。そして廊下の端にくると、そこには騎士が立っていた。
「これはハバネル殿」
ここでもハバネルの顔は知れているようだ。どこまで顔が広いのだろうか、と感心していると、騎士の視線がこちらに向いた。
「む、そなたはいつぞやの」
そういわれてキヅカが騎士の顔をみた。その顔は見覚えがあり、できれば会いたくない人の一人であった。
「キヅカ、とか言ったか。お前がこんなところで何をしている」
「ど、どうも。お久しぶりです」
その騎士の名前はムチナスという。以前、ブロムがフービ・ジョナに突撃したとき、彼と彼の取り巻きの護衛として一緒に来ていた。3人の中では唯一、常識人に近い感覚を持っていそうであったが、威圧感は強かった。そんな彼に啖呵をきったのだ。今になって思えば、非常に怖い。
「ムチナス殿はキヅカとお知り合いでしたか。今はわけあって私の従者になっているのですよ」
相変わらず笑みを崩さずにハバネルはいい、その横からキヅカは気まずそうにぺこりと頭を下げた。
それで何かを察した様子で、ムチナスは憐みの目をキヅカに向けた。それはおそらく勘違いなのだが、キヅカはそれを指摘しなかった。
「で、改めて尋ねるが、ハバネル殿は何用だ。これより先は、いくらハバネル殿と言えど、簡単には通せないぞ」
「存じております。実は、ルーツ王子に呼ばれておりまして、お取次ぎを願いないか、というわけです」
「ふむ。ルーツ王子が、か。わかった」
そういってムチナスは鈴を鳴らした。しばらくして1人の執事がムチナスの元にやってきて、ムチナスから伝言を受け取った。さらにしばらくすると、先ほどの執事とともにルーツが現れた。
「よく来てくれたね。ハバネル、そしてキヅカ」
「これはルーツ様。ご機嫌麗しゅう」
笑顔のルーツに対して、ハバネルが応える。キヅカは相変わらず、ぺこりと軽く頭を下げるだけだ。
「ムチナス、連絡をありがとう。この2人と少し話があるので、部屋を借りてもいいかな」
「もちろん。構いません。今はどなたも使用されていませんので。ただ・・・」
「ああ。わかっている」
そういってルーツは2人を近くの小部屋に案内した。中はワンルームになっており、中央に生け花をいけた花瓶を乗せたテーブルと、その両脇に3人用のソファが置かれていた。それぞれがソファに腰かけたのち、先ほどの執事が部屋に入る。キヅカが訝し気にしていると、ルーツが説明してくれた。
「彼のことは気にしなくていい。この密室でよからぬこと、言ってしまえば国家転覆とか暗殺とか、そういった話をしないかどうか聞くだけだ。こういえば盗み聞きしているようだが、我々がそういった話をしていないということを証明してくれる、大事な証人でもある」
「へぇ。王子さまって大変ですね」
「私だけではない。主に王座で話をする父上はともかく、兄上や私がハバネルら、王宮外の者と話すときは、かならずこうするのだ。それがこの国王の身の安全を図り、逆に私の身の安全を保証するのだ」
「ここで話した内容は他言無用はもちろんですが、下手をすれば拷問によって会話の内容を聞きたがる輩もいるかもしれません。ここに立つ人はそういった訓練も積んだ、いわば裏部隊のエリートです。ですから、安心してお話ができます。キヅカ殿の出自に関して、もね」
にこやかな笑顔で怖いことをいうハバネルに対し、キヅカは引きつった笑みで返した。たぶん、ハバネルには「オオサカ国」がないことを確信しているようだ。もっとも、それを公言するつもりではないようだ。
「さて、本題に入ろう。急いできてもらった上にこんなことをいうのは申し訳ないが、時間がない。早速、キヅカ殿の意見を聞きたい」
ルーツは先ほどとは打って変わって、真剣なまなざしでキヅカに聞いた。しかし、本題に入る前にキヅカは聞きたいことが山ほどあった。情報はあるに越したことはない。
「本題に入る前に、もう少しだけ、僕に情報をください」
「情報、とは」
「まず、今回の祝宴の形式です。パーティ形式なのか、それとも宴会形式なのか。どういう形になるかで作る料理と方法が変わります。またおおよその人数はわかりますか」
「エンカイ?というのはよくわからないが、ご両人が正面の席に座り、我々王族や大臣、その家族が列席する予定になっている。人数は、そうだな。王族と主要な大臣、そしてその家族だから、だいたい30人くらいか」
なるほど、イメージとしては結婚披露宴で間違いないか。
キヅカは1年前、高校卒業とほぼ同時に結婚した同級生の結婚式を思い出していた。
「わかりました。では作った料理を順番にお出しする形式になると思いますが、どのような順番、あるいは料理になるのでしょうか」
「概ね、サラダから始まって、スープ、メイン、口直しといった感じで進むことが多い。あとは式次第で増えたり減ったりだな」
料理も一般的なフレンチでよさそうだ。だが、そういった知識はキヅカには少ない。
ま、何とかなるだろう。
キヅカは軽い気持ちでルーツの話を聞くことにした。
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