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LASKAー勇者は魔を追い旅をするー  作者: 朝舞
水の都、セレイーン
3/7

活気と屈托


「勇者様〜!」

「勇者様、ばんざ〜い!」


その言葉は全て、式典用の正装に身を包んでいる四人に投げかけられているものだ。

人々の歓喜の声にとりあえず手を振って応じていたラスカは、船に同乗している幼女に尋ねた。


「あの、リアナさん? 状況がよく分からないんですけれど」

「これは、パレードなのです。昨日も話したと思うよです」

「質問を変えますね。私達はどういう状況にいるんでしょう?」


小さく首を傾げて考えた後、リアナは笑って答える。


「勇者様の歓迎パレードに参加してるんだよです。今日開催されることは急に決まったみたいだけど、準備していてよかったです!」


船に乗りたがっていたルイが嬉しそうなので、まぁいいか、とラスカは割り切ることにした。


「これだから称号者になるのは嫌だったんだ」


愛想というものを持ち合わせていないディークリフトは、ただ座って船の進む方向を眺めては愚痴をこぼしている。


律儀に手を振っているレイの表情も固く、まるで貴族の子のような衣装にも、心は踊らないようだ。

浮かない様子のまま、彼はふと口を開いた。


「ところで、この船ってどこに向かってるんだろうね」

「それは分からないです。人が多すぎて降りれなさそうだけどねです」




結局、王都をぐるりと一周する羽目となった。




ナントカさんからの挨拶だとか、ナントカさんからの歓迎の言葉だとかを一通り聞き終えた後も、様々な演し物が続く。


ディークリフトは、船に乗っている最中から仮面をつけていた。正体を隠して活動していた時によく身につけていたものだが、今は寝ているのを誤魔化すためだろう。


「あれ? ルイ?」


気がついた時には、踊りの輪の中にルイが飛び入りで参加してしまっていた。踊り子達のうちの誰かが落としたタンバリンを拾い、楽しげに踊りだす。


最初は掌で打ちならすだけだったが、肩、腰、踵

と徐々にその動きは複雑なものになっていき、知らずしらず人々を惹き込んでいく。

ステップを踏むたびに、アンクレットの鈴がしゃらしゃらと軽やかな音を立てる。


楽団さえも演奏するのをやめてしまうほどの見事な動きに、ラスカも目を奪われていたのだがーー


隣で微動だにしなかった青年が唐突に立ち上がって言った。


「今のうちに逃げるか」




ーーー




「あら、お戻りかしら?」


宿に戻り、ラスカがルイと割り当てられた部屋へ向かうと、フードを被った見知らぬ女性が出迎えてきた。


「すいません、ここは私達が借りている部屋なんですけれど」

「知っているわ。ここを手配したのは私だもの」


会話が噛み合っているようで噛み合わない。

どうしたものかと困っていると、別室のサーシュがディークリフトとレイを連れてやってくる。


「わざわざ連れてきてくれたのね。ありがとう」

「え、サーシュさんのお知り合いですか?」


女性の反応にラスカがそう尋ねると、彼は小さく首を横に振った。


「さっき……初めて、会った……。この人……セレイーンの、ギルドマスターって……」

「ローザイスよ。よろしくね」


簡潔な挨拶の後、彼女は青年を見て少しだけ肩をすくめる。


「それにしても、本当にパレードを抜け出してきちゃうなんて。ドラクからの手紙の通りね」

「俺はそういうのはごめんだ。神官からも、式典に参加しなくてもいいと言われたからな」

「えぇ、知っているわ。だから断られないように、事前に知らせずにパレードに参加してもらったの」


ギルドを訪れたディークリフト達にすぐには面会せず、彼女はこの宿を手配した。それと同時に勇者の到着を知らせ、全ての準備を整えたのだ。

翌日にはパレードを実現させた彼女の手腕は大したものだが、青年は不服そうだ。


「だって、ここの人達は貴方達が訪れるのをこんなに楽しみにしてたのよ?彼らの思いを無下にはできないじゃない」


悪びれた様子は見せずにそう言いながら、ローザイスは数枚の書類を取り出す。


「でも、そのかわりに必要そうな依頼書もちゃんと探しておいたわよ」

「……食えない奴だな」

「ふふ、要領がいいでしょう?ほら、内容を確認してみてちょうだい」


渡された依頼書をパラパラとめくり、ディークリフトは眉根を寄せた。


「たしかに特殊な魔物のようだが、ほとんど討伐されているな」

「え?!それ、本当?」


青年の言葉に、レイも書類をのぞきのむ。

特殊な魔物ーー彼らは人形(ドール)と呼んでいるーーは、一般の冒険者には倒すのは難しいはずだ。


人形(ドール)は感情の塊で、自分と同じ性質の感情をヒトから引き出す能力、【伝染】を持っている。

そして、感情を伝染された者は自我を失ってしまう。


ラスカはつい、かつて【絶望】に伝染し命を絶ってしまった女性のことを思いだした。


「厄介な能力があるから、おかしな魔物には近づかないように通告したのだけれど。一人だけ嬉々として立ち向かう、勇気のある……じゃなくて、戦闘狂がいるのよ」

「戦闘狂、ですか」


ある意味ディークリフトと似ているかもしれない、と密やかに考える。


「まぁ、必ずしも伝染する訳ではないからね。ヴァルクさんもそうだったし。あとは浄化をしてまわるだけだね」

「……そうだな」

『うん、がんばる!』


味気ないのか、いつにも増して無気力なディークリフトに、拳を握りやる気を示してみせるルイ。

手持ち無沙汰なサーシュとラスカは、顔を見合わせた。


「……ラスカ。ボクたちは……どうする?」

「普通の依頼でも探しましょうか」


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