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この太陽系で私達は  作者: えるふ
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ティターニアの過去

「ティターニア、ちょっと聞きたいことがありますの」

インターホンからサイスの声が聞こえる。モニターを見るとフーガもいるようだ。

「すまん、俺は止めたんだが、どうしても聞かなくてな」

フーガが少し申し訳なさそうにしている。追い返すのも躊躇われ、中に招き入れた。

「無重力はやはり良いですわね」

サイスは楽しそうに部屋の中へ入っていく。フーガも少しは慣れたのか、ぎこちなさこそあれど、狙った場所へと移動できていた。

「それで、話って?」

ティターニアはため息混じりに言う。フーガが止めようとするくらいの話題だ、ろくな話ではない事は間違いない。

「軍人をのしたって話ですわ。詳しく聞きたいの」

「なぜ?それが好奇心ってだけなら今すぐ追い出すわ」

サイスの言葉に強めに返すティターニア。

「その、のされた軍人……私の遺伝子提供者でしてよ」

金星は独自の文化を持つ。片方が母親となり、片方は遺伝子提供に留まる。家族によっては母一人によって育てられる。家族によっては、両親とする。サイスは前者だった。前者になる理由の一つに、相手が女性ではない、と言うものがある。金星に男性は上陸できない。コロニーも、ドックヤードから出ることは許されていない。

「それなら……仕方ないわね……」

ティターニアは大きなため息の後、ゆっくりと話し始めた。


ティターニアはそのとき、地球にいた。理由は単純。ゲームの世界大会があったから。その時、不幸な事が起きた。

「まぁ、平たく言えば強姦未遂ってやつだな」

フーガが話を繋げた。それがもしただの強姦だけだったらティターニアはそんな大事にはしなかった可能性がある。だがそれが軍人で銃を向けてきたらから、話が変わった。

「死を…人一倍死を恐れているティターニアだから、だろうな。サイス、明日死ぬかもしれない、そんな状態で夜、寝れるか?」

フーガはティターニアを代弁する。

「いえ……私でしたら……その重圧に押しつぶされてしまいますわ…」

サイスは目を伏せ自分を抱き言う。

「それで私はもともと1.2G生活者だったから、力で相手をねじ伏せた…」

ティターニアは言う。一人をねじ伏せたあと、相手の持っていた銃を握った。

「で、ティターニアはそのままトリプルタップを叩き込んだ。2人に」

まずは一番近くの相手に、そして次に自分が倒した相手にそれぞれトリプルタップを叩き込む。

「トリプルタップって、何ですの?」

サイスが疑問に思っていることを言う。

「胸に2発、頭に1発、それぞれ叩き込む事だよ」

フーガがサイスをこつきながら言う。

「それを躊躇いなくやってのけてしまったから、引き金が軽い、と?」

サイスは言う。仕方ない。銃口とは殺意なのだから。

「そうさ。まぁ、ノンリーサルウェポンだったから、二人は死ななかったけどな」

「あと1人は?」

フーガの言う言葉にサイスは疑問を投げる。

「頭に1発」

フーガは体を壁に預けながら言う。

「どうして?さっきの2人は3発も撃ったのに……」

サイスに対し言葉を制したのはティターニアだった。

「その拳銃が7発装填って知ってたからね」

ティターニアが言う。実際、7発目を撃った後、スライドストップがかかり弾切れが分かったので銃を放り投げた。その場に残されたのは、服の乱れたティターニアと、下半身を露出したまま気絶している無様な軍人3人だった。

「よく、それで殺人未遂になりませんでしたわね」

サイスが半ば呆れて言う。殺人未遂が成立すれば無期懲役だってあり得た。

「幸か不幸か、その一部始終が監視カメラに収められてたんだ。だから正当防衛が成立した」

フーガは笑いをこらえながら言う。

「なにが可笑しくて?」

サイスは顔を険しくしながら言う。今の話のどこに笑える要素があると言うのだ。

「これから犯罪を犯そうとするやつが、監視カメラの眼の前でやるか?普通」

もともと地球は監視カメラの多いいコロニーだが、死角も当然のように存在する。それを知らない職業ではないはずである。

「その事については仮説がたくさんあるわね。監視カメラを監視する人も楽しみたかった、死角だと思ってた、とか、色々ね」

ティターニアは近くのヌイグルミを抱きよせながら言う。

「でも、一つだけ言えるのは、そいつら、することしたらティターニアを殺すつもりだったって事さ」

フーガの言葉にサイスは首をかしげる。

「ノンリーサルウェポンですわよね?」

サイスの疑問ももっともだ。非殺傷武器と言っているのに、殺すつもりだった、とは

「至近距離で頭を撃たれたら死ぬぞさすがに。もともと50mの距離で相手を昏睡させることが前提なんだから」

フーガは大きく息を吸って言う。

「男って野蛮ですわね」

サイスが言い放つと、フーガは食って掛かる。

「金星人だって大して変わらないだろ」

「そんな野蛮な事致しませんわ。時に大胆に、時に繊細に…そうして雰囲気を作り出しその気にさせたらあとは勢いでブティックホテルへ!」

サイスが目を輝かせているのを見てティターニアはため息を吐いた。

「どっちもどっち、ね」

ティターニアの言葉に二人は同時にティターニアを見る。

「サイスと一緒にすんな」

「フーガと一緒にしないでくださる?」

同時に放たれた言葉を聞いてティターニアは声に出して笑う。

「ふふっははっ、ふたりとも、似た者同士ね」

ティターニアの言葉を聞いて、フーガはため息を吐いて部屋から出ていった。

「この状況を望んでいた、と思うのだけど?」

サイスが切り込んでくる。

「ええ。サイスには話したくてね。昔…2年くらい前、かな?フーガ君に押し倒されたことがあるの」

ティターニアのその台詞にサイスは驚いていた。

「押し倒されたって……だって先程…」

今さっき押し倒されたけどのした、と話していたばかりである。

「私も…それを望んでいた…んだと……思う」

歯切れの悪い言葉が続く。サイスはただ黙ってそれを見ていた。

「押し倒されたって私が言ってるのが悪いだけ……かもね、この場合は。確かに強引だったけど、ちゃんと、その……合意だったしね」

ティターニアの言葉を聞いてサイスは小さく

「なら、そのまま結婚しちゃいなさいな。火星は、妊娠能力の有無に関わらず、子供を得る方法が確立されてますわ」

サイスの言葉にティターニアははっきりと言う。

「嫌だ!」

「何が貴方をそこまでさていますの?」

サイスが優しく声を掛ける。

「私には夫が!主人が!……裏切りたくないの!」

ティターニアは抱いていたヌイグルミを叩きつけながら言う。

「貴方が一途なのは分かりましたわ。ですが、それは本当に貴方の旦那様の望んでいる未来ですの?手を伸ばせば明るい未来が掴める。どうして……つかもうとしませんの?」

サイスの言葉にティターニアは首を横に振る。

「五月蝿い、黙れ!」

ティターニアの金切り声が部屋に響く。サイスは意を決してティターニアに平手打ちを打った。乾いた音が部屋に響く。

「旦那様が望んでいること、分かってるはずですわよね?自分にこだわり続けることなく、常に笑っていて欲しい。そう、望んでいるはずですわ!」

サイスは強く言った後に優しく付け加えた。

「いつまで…過去に囚われているつもりですの?」

ティターニアは打たれた頬を手でなでながら言う。

「その言い方は卑怯よ……」

ティターニアは泣いていた。叩かれたことに対してではない。後悔の念でもない。ただただ、悲しかった。

「私は残酷な言葉を言いますわ。結婚、までもいかないまでも、付き合いなさい。そして、幸せを感じ取ってくださいませ」

それと同時に嬉しかった。サイスは自分を理解してくれている。理解しようとしてくれている。

「ほんと、残酷な言葉だわ……また、あの悲しみを”また”味わえなんて……」

「出会いがあれば別れもある。ただ、それだけですわ」

サイスが言うと、ティターニアはただ、サイスを見つめる。

「サイスは、強いのね」

「ティターニアは頑固ですわね」

二人はしばらく見つめ合った。そのあと、サイスはティターニアの頬に優しく触れる。

「ごめんなさい、少し強く叩きすぎたわ」

真っ赤な手形の残る頬にサイスは若干の罪悪感を覚える。

「いいの…私、少しでも刺激があると真っ赤になるから…叩かれたら……しばらく残るの」

サイスはティターニアの言葉を聞いてソレ以上深く詮索する事をやめた。何より、聞きたくなかった。叩かれた、そんな痛い話。聞く気にもならない。

「便利ですわね」

サイスの言葉にティターニアはキョトンとする。

「暴力を振るわれたら、そのまま警察に駆け込めば良いのですわ。顔に証拠は残ってますもの」

それを聞いてティターニアはため息一つ。

「ほんと、サイスって前向きね」

「ティターニアが、後ろ向きなだけですわ」

サイスはそう言うと玄関まで移動する。

「頭の中を、整理する時間が必要ですわね。今日はこれでお暇いたします。ではまた」

サイスはそう言い残し部屋を出ていった。


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