第1章 いってらっしゃい
ソウタは、よく働く。小さな体は毎晩しっかりと充電され、翌朝、決まった時刻に出かけていく。
「いってらっしゃい」
見送るセイヤには、ソウタの背中が輝いて見えた。動きは遅く、目立つこともしない。けれど、無駄がなく確実なその仕事ぶりを、セイヤは頼もしく思っていた。なにしろ、セイヤの体は大きく、その場から一ミリも動くことができないのだ。
ソウタの仕事は、出発した瞬間からもう始まっている。まず突き当たりまで真っ直ぐ進む。壁に当たると向きを変え、壁づたいに行けるところまで。振り向き今度は、来た道とは十数センチずらした別のルートで戻る。壁から壁へ、すべてのルートを通らなければならない。
淡々と同じ速度で動きながら、目は常に忙しく動いている。行く先々で何かを見つけると、それらをすべて拾っていく。当然、体は重たくなる。だから、休めないのだ。一日休めば、その次の日に拾わなければならない量は二倍になる。
段差は苦手だ。壁に当たった時と同じく向きを変える。セイヤが遠くから見て平らにしか見えないような場所でも向きを変えている。
「なんで?行けるだろ」
ついそう思ってしまうが、言えない。段差を乗り越える大変さを知らないからだ。いや、それだけではない。セイヤは、ソウタにだけ見えている世界のことをほとんど知らなかった。
壁に囲まれた一区画をすべて回り終え、息つく間もなく次の区画へ向かうソウタ。こうしてセイヤがソウタの仕事ぶりを見られるのは、仕事開始からせいぜい30分くらいだ。角を曲がるともう、ソウタの姿は見えない。
「いってらっしゃい…」
セイヤはもう一度、聞こえはしない呟きをソウタの背中に送った。




