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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
第3章 水の国境都市のFランク冒険者
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59話 水都へ

本日2回目です

良い匂いがして目が覚め、俺の家の天井が目に入る。隣にエレナはいないが台所から何か焼いている音が聞こえる。



・・・・・


・・・・・


焼いてる音!!???



布団から飛び起きた俺は慌てて台所を見に行くと、フライパンで何か焼いているエレナが立っていた。昨日カレー作る時に使い方教えたが、まさかもう使いこなしているとは・・・


「あっ!おはようギン。もうご飯出来るから服着て来なさい」

「うわ!」

「もうギンの裸なんて何回も見たのに今更恥ずかしがられてもこっちが困るんだけど」


言われて自分が全裸だった事に気付いて、慌てて前を隠すが、エレナが冷静に突っ込みをいれてくる。それもそうだと思い服を着て、座って待つとすぐにエレナが料理を持ってくる。すげえな、スクランブルエッグとベーコン焼いたのか良く作れたな。しかも冷凍してあるご飯レンチンまでして完璧じゃん。エレナの料理に感心しつつご飯を食べ終わると、今日の予定を確認する。


「俺はガジ達と薬草採取行ってから師匠達の墓参り行くけどエレナはどうすんだ?」

「お墓参りは一緒に行くわ。北の門で待ってるから戻って来る時間教えて」


時間なんてどれぐらいかかるか、わかんないな。適当な事言ってエレナを待たせるのも悪いし・・・・『念話』繋ぐか。エレナなら知ってるし大丈夫だろ


「エレナ、『念話』繋げていいか?遠くにいても話できるから便利なんだよ。これがあれば帰ってくる少し前に連絡するから待たなくてすむぞ」


そういうとエレナが了承してくれたので、『念話』を繋げ、使い方を教えてからエレナと家を出る。エレナは『猫宿』に行くらしい。俺も約束の時間にガジ達と合流して薬草の群生地に向かう。あんまり多いと目立つので今日はガジ入れて3人を連れて行く。群生地に到着すると、


「すげえ、なんだここ。なんでこんな所が見つかってないんだ?」


やっぱり驚かれる。他二人も驚きすぎて言葉もないようだ。驚き終わったら全員でガンガン薬草を刈っていく。ガンガン刈るって言っても俺が一番遅いんだけど、3人は手慣れたもので師匠達並みの速さで刈り取っていく。薬草採取が終わった段階で俺がくれた『魔法鞄』3つは一杯になったようだ。次からは一度街に戻る必要があるが今日は俺がいるので、そのまま魔力草の採取に向かう。


「だから、何でこんな場所が見つかってないんだよ」


さっきと同じように驚きながらも採取を始めていく。こちらも4人で刈り取っていくとすぐに終わった。時間は昼頃なので昼飯を食べる準備をする。ガジにお願いすると、アッと言う間に簡易竈が完成して火起こしまで終わる。やっぱりこいつ有能じゃね?なんて考えながら鍋にお湯を沸かしてカップラーメンを4個作り昼飯とする。ガジ達は初めて食べるカップラーメンを気に入ったのか一口食べて驚いてからは無言で黙々と食べている。


「兄ちゃん。群生地なんだけど少し遠いよ。誰か大人がついて来てくれないと目立ってすぐにバレちゃいそうだけど、誰かいい人知らない?」


確か子供は街から30分圏内で採取しているって話だったな、群生地は1時間ぐらい離れてるから、その辺を子供だけで歩いていたら目立つか。


「それなら『鉄扇』に話しとくか、この間の竜タン食べた時にいたから顔ぐらい分かるだろ。あいつらなら大丈夫だろう、ただしあいつらにも報酬渡せよ」


そう約束して街に戻り、いつもの道具屋に足を運ぶ。


「ガジ、採取した薬草はここで売ればいい。口の堅さは師匠のお墨付きだ」


店に入ると受付近くに置かれた木の棒を打ち鳴らすと、


「やかましい!!なんじゃ『最長』か・・・まあ、なんだ、あいつらの事は残念だったな。それで街を離れるから挨拶にでも来てくれたのか?」


師匠達の事は知ってても不思議じゃないが、何で俺が街を離れる事まで知ってんだろ。


「まあ、そんな所かな。爺さん、今後はこいつらと『鉄扇』が草を売りに来るから顔を覚えておいてくれ」


ペコリと頭を下げるガジ達3人。


「って事で買い取り頼む。ガジ薬草全部出せ」


いつものように採取した草を取り出していく。まあいつもぐらいの数だな。自分で採取したのにガジ達が驚いているのも分かる。最初は思ったより多く感じるもんな。


「また鐘二つしてからガジ達が報酬受け取りにくるから全部あげてくれ。ガジ、この爺さんは報酬誤魔化すなんてセコイ事しないから安心しろ」

「へ?兄ちゃんの報酬は?」

「俺はいらね。じゃあ、師匠の墓参りいくから俺はここで、ガジ鐘二つしてからだから忘れるなよ」


そう言って店を出てエレナに『念話』を送る。


(終わった。北の門集合でいいか?)

(ええ、分かったわ)


北門まで行く途中大通りでばったり『鉄扇』メンバーに会った。丁度いいのでガジ達の事を頼み、これで俺がこの街でやらないといけない事は師匠達の墓参りだけになった。




「遅いわよ」


北門に着いた途端文句を言われる。言うほど待たせてないと思うんだけど、まあ、謝っておこう。


「悪い、ちょっと『鉄扇』の奴等にガジ達の事頼んでた」


そう言うと納得してくれたのか、腕を組んできて歩き始める。街の共同墓地は街の北門から出て東側に外壁沿いを歩くと着く。俺も初めて来たが、本当に共同墓地って感じで、地面に同じ形の岩が等間隔で並んでいる。そこそこ墓守がいるので、管理は徹底されているみたいだ。その墓守に師匠達の墓まで案内してもらうと師匠達の墓はきちんと横並びで誰一人離れた場所に埋葬されていなかった。そしてその墓にはギルドカードが埋め込まれていたのでどれが誰の墓かわかる。その墓にみんなが好きだったチルラト産のワインをかけていくとどうしても『カークスの底』との思い出が溢れてくる。あのクソムカつく国に召喚された時はどうなるかと思ったけど、師匠達『カークスの底』に出会ってからは楽しかった。




本当に楽しかった。




「・・・みんな・・・・ギースさん・・ケインさん・・・エステラさん・・ターニャ・・・・・・し、師匠」


嗚咽が漏れる。笑ってこの街を離れる事を報告するつもりだったが、とても笑ってはいられない。俺はクソ雑魚メンタルだったらしい。


「・・・師匠・・・・命令ですから・・・都に行ってきます。戻ってきた時はDランク・・・いや師匠達を追い越してるかもしれないですね」


こう言っても「調子のんな」という声と共に頭が叩かれる事ももうない。本当に師匠達はいないんだ。


「それじゃあ、1年後また戻ってきます。師匠達はゆっくりしていてください」


しばらくしたら悲しい気持ちも落ち着いてきたので、師匠達にそう言ってエレナの方へ顔を向けると、ハンカチ?を差し出してきた。


「ホントにギンは泣き虫ね、ほら、いつまでも泣いてるとガフ達に笑われるわよ」


ハンカチを受け取り涙を拭くと、エレナに宣言する。


「エレナ、俺はもう泣かない、泣くのは今日で最後にする。師匠達に誓うよ」

「出来るの~」


俺の決意表明を揶揄ってくるが、大丈夫だ。ホントにもう泣かねえ、いつまでも泣いてたら師匠達に笑われる。っていうか揶揄ってくる様子が目に浮かぶ。


そしてもう一つ決意した事がある。


「エレナ、もう俺がやる事は終わったから明日には街を離れるよ」


そう言うと、一瞬だけ悲しそうな顔をしたが、すぐに表情をもどして、ただ一言「そう」とだけ言った。







墓参りの帰りに広場の馬車乗り合い所に行く途中、


「あら、店の外でなんて珍しい組み合わせじゃない?」


広場に入るとすぐに背後から俺達に声を掛けられたので、振り返るとスーティンが30代ぐらいのイケメンと腕を組んで立っていた


「あら、スーティン。買い物?」

「そう、旦那と買い物。誰かがお店休んでるから駆り出されて忙しいったらないわ」

「アハハハハ、ごめん、ごめん。この埋め合わせはちゃんとするから」


エレナは普通に声を掛けているがいいんだろうか?一応『猫宿』でたまに給仕でいるのを見かけるが、もう結婚して身分は低いながらも貴族になってるはず、しかもこの隣の人がどう見ても旦那だろ。大丈夫かな?柔らかい笑みを浮かべてスーティンとエレナを見てるから大丈夫なのかな?


「ギン、ガフ達の事聞いたわ、残念ね」

「心配して頂きありがとうございます」


スーティンに話かけられるが、隣の旦那に無礼打ちされたらたまったもんじゃないから、取り合えず俺は敬語で話すと、


「プ、ククク、アハハ!何でそんなに他人行儀なの?いつもみたいで構わないわよ」


スーティンに笑われた。隣の旦那もエレナも笑っている。これは本当にいつもの通りで大丈夫そうだ。


「お貴族様になったんだろ?敬語で話した方がいいんじゃないか?」


大丈夫かなと心配になりながらもいつもの口調で話しながら、チラリと隣の旦那を見る。


「フフフ、大丈夫よ。私の夫はあんまりそういうの気にしないから。そう言えば『猫宿』で顔は見た事あるだろうけど、紹介してなかったわね。こちらが私の旦那、ロック・ロージャーよ」


「お話するのは初めてですね。ギンと言います」


スーティンに言われて『猫宿』でよく見かけた人だと気付いた。


「ロック・ロージャーだ。君だろ?結婚祝いに美味しいワインくれたの?とっても美味しかったよ、ありがとう」


握手をしながら、この間あげたワインのお礼を丁寧に言われる。この人も偉そうにしないし貴族っぽくないな。


「ふーん、そっか。ギンは明日には都に行っちゃうのね、1年間寂しくなるわね」


挨拶している間にエレナが明日には俺が街を離れる事を聞くと、残念がってくれる。旦那も、


「そうか、知り合ったばかりだというのに、残念だ」


と言ってくれた。社交辞令でも少し嬉しい。やっぱりこの世界の貴族って言う程悪い奴はいないんじゃないかと思う。


「スーティンこれやるよ。師匠達『カークスの底』からの結婚祝いだと思ってもらってくれ」


もう明日にはこの街を離れるし、スーティンなら俺がまだワイン持ってる事バレてもいいやと思いリュックから2本取り出して渡す。


「え?え?・・・これって?もしかして・・・・」

「こ、こ、これは、あ、あの時の・・・」


渡された夫婦は驚いてテンパっている。俺はエレナに腕をつねられる。隠しとけって言われたの出したからだろう。まあスーティンには口止めしとけばいいだろ。


「ああ、師匠の秘蔵の酒だよ。隠れて味わって飲んでくれよ。くれぐれも言い触らさないように」


俺から注意をすると二人は顔を見合わせて、


「「イエ~イ」」


ハイタッチして大喜びだ。旦那さんもう少しクールで落ち着いた印象だったけど、何か印象変わったな。


「じゃあ、私達はもう行くわ。スーティン今日までお願いね」

「分かってるわよ。こんな美味しいもの貰ったら、文句言わずに働きますよ」



そうしてスーティン達と別れて、都行きの馬車の時間と値段を確認する。都行きの馬車は毎日1本8の鐘に出発で値段は銀貨8枚意外と高い。


「都まで馬車で4日だったかしら、その間の宿は決まっていてそこの料金も含まれるからよ。ただ、ご飯は出ないって聞いてるわね」


俺が思わず高いと言ってしまったのを聞いたエレナが説明してくれる。3日間の宿代込ならそこまでかな?どんな宿かにもよるけど。


「面倒くさいから、一人で「駄目!!絶対駄目よ!!」」


一人で行こうと言った途端エレナが大声で駄目だと言ってくる。周りの人も何事かとこっちを見てくる。


「一人なんて危険すぎるわよ。野盗だって出るかもしれないし、魔物に襲われるかもしれないじゃない。乗り合い馬車なら護衛もつくから安心よ。お願いだから馬車で行って!」


俺に縋り付きながら必死になってお願いしてくる。心配してくれているのは分かるが周囲の視線が痛い。


「分かった。分かったから馬車で行くよ。だから離してくれ周りの目が痛い」


俺が周囲に目をやると、みんなサッと俺から目を逸らす。子供の目を抑えてこちらを見せないようにしている母親が俺と目が合うとそそくさと離れていった。う~ん。明らかに不審者になったな~。


「ホント?じゃあ、このまま明日の馬車予約しましょう。じゃないと許さないから」


何を許さないのか良く分からない。俺何かエレナを怒らせる事したかな?とか思いながらもなんやかんやエレナの言うままに明日の馬車を予約させられた。


「これでよし!」


俺が予約を終えると笑顔で頷く。『水都』までの道はそんなに危険なのかな?


「なあ、飯は出ないんだよな?それならここで買い足して行っていいか?ついでに何か食べていくか。エレナのおススメとかあるか?」


そう言ってエレナのおススメを食べ歩きながら、気に入った食べ物を銀貨単位で大量に購入していく。そうして、俺の因縁の店その1に立ち寄る。


「お、『最長』じゃねえか。久しぶりだな。二人分でいいか?」

「いや、鍋毎買うといくらになる?」

「鍋毎!!!」


俺の言葉にスープ屋の親父がびっくりする。今までそんな買い方した奴はいないだろう。・・・・外の詐欺まがいの屋台はやった事あるかも。


「ホントか?鍋毎なら銀貨5いや、4枚でいい。この鍋もそろそろ買い替えようと思ってたからな」

「分かった。それでいい。このまま貰ってく」


銀貨4枚渡して俺のリュックに鍋毎しまうと親父が驚いて見ているが、あの時と違って俺はもう新人じゃないから『魔法鞄』持ってても不思議じゃないはず。



驚く親父を放っておいて因縁の店その2に向かう。


「おばちゃん。葡萄全部頂戴」

「全部!!って『最長』かい。あんた全部って・・・銀貨1枚になるけど腐っても文句言ってこないでよ」


日本と違って季節的な物はないみたいで普通に売ってた。ホントどうなってんだろ?まあ答えが分かってもだからどうしたってなるから気にしないでおこう。


おばちゃんに銀貨1枚を払い葡萄を全部リュックに入れる。まあこんなもんかと思い、後ろのエレナを振り返ると呆れた顔をしている。


「どうした?まだ食い足りないか?何食べたい?」

「違うわよ。ギンの買い物の仕方が有り得ないから呆れてるだけ」


そんな変な買い方してたかな。


「はあ~。もう満足したならいきましょ」


俺が困惑している事が分かったのか、エレナは俺の腕を引いて問答無用で家まで連れてくる。




もうそろそろ二人とも疲れたので寝ようという雰囲気になった所で、俺は覚悟を決める。ここまで覚悟が決めれなくて本当に情けないが、初めてなので仕方ない。多分エレナも俺と同じ気持ちだと確信している。


「なあ、エレナ。俺と一緒に都に行かないか?」


よし、噛む事無くあっさり、すんなり口にする事が出来た。口にしてからエレナの方に顔を向ける。






エレナは俺に顔を向けると、ニッコリ笑って、






「嫌」






あれ~?今断られた?俺の聞き間違いか?あっ!言い方が悪かったな。俺の気持ちを伝えてないな。


「ちょっと待ってくれ。やり直しだ。・・・えっと・・・・エレナの事が好きだから俺と一緒に都に来てくれないか?」


よし、しっかり自分の気持ちを伝えられた。これならエレナも喜んで、







「嫌」





さっきの再現VTRかな?・・・って現実逃避してる場合じゃない。え?何で?エレナも俺に好意寄せてくれてるって思ったけど勘違いなのか?


「えっと、り、理由を聞いてもいいかい」


テンパりすぎて語尾が何か変な感じになってしまった・・・


「ギンには言うけど、私ね、女将から店を任せて貰える事になったの。『猫宿』2代目女将よ。女将にはかなり世話になってるから恩を返したいし、それに弟達もいるからこの街を離れる気はないわ」


そうか、女将や孤児院に負けてるのはショックだけど、まあ俺の事が嫌いだからって訳じゃないのか。


「それなら俺が戻ってきた時はチャンスはあるって事か?」


そう言うとしばらく困った顔をした後、意を決したように、


「・・・・・・はあ~。それなら今ハッキリ言うけど、1年もギンを待つつもりはないわ。待ってる間にいい出会いが有ったら躊躇いたくないもの」


俺の顔をしっかり見て答えた。


「えっと。これって俺は振られたって事でいいのか?」


情けないけど、ハッキリとしてもらいたいので恐る恐る尋ねるとエレナはコクリと頷いた。


マジか~。ショックだ。決意無視して泣いてしまいそうだ。じゃあ、何でここまでしてくれたんだろ?師匠に頼まれたから?って聞いて「そうよ」と答えられたら俺はショック過ぎて立ち直れないから聞けない。


「・・・・そうか」


それだけ何とか口にした後、上を向いてただボーッと天井を眺めていた。







「・・・ン・・・ギン!・・・起きて!馬車に間に合わなくなっちゃう」


身体を揺すられながら声を掛け起こされる。昨日はいつの間にか眠ったみたいだ。起こしてくれたエレナを見ると、既に服を着て、机の上には朝食が並んでいた。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


気まずい。昨日振られたのでいつも見たいに楽しく会話なんて出来るはずもなく、黙ってもくもくとご飯を食べる。


ご飯を食べ終わり、準備完了して、家を出る時にエレナから、


「ギン、これ預かってていい?」


手にしていたのは特別珍しい訳でもない100均で買った鏡だった。


「・・・いや、欲しかったらあげるよ」

「・・・ううん。預かってるから、1年後この街に戻ってきたら取りに来て」


別に高い物じゃないからあげると言うが、頑なに受け取ろうとせず預かるだけだと譲らない。


「まあ、それならそれでいいけど。ホントに高い物じゃないんだけどな」

「必ずよ!必ず1年後取りに来てよ!」


なんでそんなに必死なのか。まだ何か師匠に言われてるのかな?でも師匠の伝言は全て伝えたって言ってたし、まあいいか、1年後街に戻ってきたらエレナがどうなってるか気になるし、出来ればいい出会いがなければいいな。それなら戻ってきた俺にもワンチャンあるかも・・・・未練タラタラだな。格好悪いけど昨日振られたばっかりだから仕方ない。


しっかり1年後取りに行く約束をしてから広場に向かう。やっぱりエレナが腕を組んでくる、今日はいつもより強く握られている気がした。そういう事されると勘違いしちゃんだよ、かといってやめろって言えずにこの感触を楽しんでる自分がいるなあ。


広場に行くと見知った顔が大勢いた。鉄扇、赤盾、大狼の牙、ギルマスにミーサさん、ガジ達孤児院組とサラ。


「あれ、何でみんないる?俺今日街を離れるって言ったか?」

「昨日あれだけエレナさんと広場で騒いでいたら噂になりますよ。それに都まで『大狼の牙』が護衛につきますからね、ギンさんが今日街を離れる事は彼らから聞きました」


ミーサさんが俺の疑問に答えてくれる。『大狼の牙』は見送りじゃなくて、俺が乗る馬車の護衛か。


「そうそう、ただ移動するんじゃなくて少しでも金を稼ぎながらいこうと思ってな。まあ、都まで一緒だ、宜しくな。俺らもしょっちゅう都に行ってるから着いたらおススメの宿とか色々教えてやる」


馬車や荷物の点検をしながらカイルが答えてくれるが、その申し出はかなり有難い。マジで都の事なんて何も分からないから、移動中に誰かに聞こうと考えていたぐらいだ。


「兄ちゃん。もう帰ってこないの?」

「いや、1年ぐらい都で修行してくるだけだ、そしたらまた戻ってくるぞ。何て言っても俺はこの街がかなり気に入ったからな、戻って来たら、またBBQしような」


俺の言葉に孤児院組が大喜びだ。こいつらの為に都で美味い肉でも探しておくか。


「お前らガジ達から依頼があったら頼んだぞ。あと、3人仲良くな。俺が戻ってきたらパーティ解散してたとかやめろよ」

「分かってるよ。お前こそ戻ってきたらいい加減、俺らのパーティに入れよ。それまで待っててやるからな」

「まあ、ガジ達の事は気にするな。都でもお前の変人っぷりを見せつけてこい」

「フフフ、今からギンの噂が楽しみ。どんな面白い話が流れてくるのかしら」


ウィートはいいが、カールとサーリーは俺を何だと思ってるんだ?


「ドル達も見送りありがとうな。出来ればお前らも師匠達の墓参り行ってくれると嬉しい。あと、新人には気をかけてやってくれ。師匠達みたいに顔が怖くないからお前らなら大丈夫だと思うしな」


『赤盾』メンバーにもお礼とお願いをする。


「まあ、暇な時にでもあいつらに会いに行ってやるよ。新人の件も任せとけ。訓練ぐらいはしてやる」

「そうだな、『大狼の牙』も街を離れている間はお前らが実質この街のトップだからな。頼むぞ」


『赤盾』リーダーのドルとの会話にギルマスが入ってくる。確かに師匠達も『大狼の牙』もいないこの街は実質『赤盾』が最高ランクパーティか、他にもDランクパーティはいるけど、周りの評価から『赤盾』が一つ抜けてる感じするから、ギルマスの言う通りなんだろう。



最後にエレナの方を向く。エレナはいつものように腕を組んで胸が強調されるポーズで俺の顔をまっすぐ見つめてくる。その顔を見て、俺はやっぱり諦めきれず人の目があるというのに再度誘ってしまう。


「エレナ、やっぱり俺と一緒に来てくれないか?」


そう言うと、一瞬ものすごく嬉しそうな顔を見せたが、すぐに困ったような、悲しいような表情に変わると、


「嫌よ。昨日ちゃんと話したでしょ」


答えは変わらなかった。分かっていたけど、やっぱりショックだ。


「ガハハハッ、ギンが振られたぞ」

「ギャハハハ、ざまあねえな」

「『黙って俺についてこい』ってぐらいカッコいい事言わねえから振られるんだよ」

「まあ、落ち込むな、都にはエレナ並みの女は・・・そうそういねえが、女は多いからいい出会いに期待しろ」


落ち込む俺に追撃をかけてくるのが冒険者って奴等だ、分かってる。頭をガジガジ撫でてて来る手を振り払って、


「お前ら、1年後覚えておけよ。この街最高ランクになって戻ってきてやるからよ。そん時は俺に敬語使えよ」

「ふざけんな。そん時はこっちがボコボコにしてやる」

「てめえにはまだまだ負けねえよ」

「簡単にくたばってがっかりさせんなよ」




「おい!そろそろ時間だ。ギン、乗れ」


言い合いをしていると、カイルから時間だと伝えられ、馬車に乗り込む前に最後にもう一度みんなに声を掛ける。


「じゃあ、1年したら戻ってくるからみんな元気でな」


何とか泣かずに笑顔で手を振って馬車に乗り込む事ができた。少しは俺のクソ雑魚メンタルも鍛えられたかな。こうして8の鐘と同時に馬車がゆっくりと動き出す。馬車からみんなに手を振りながらも目線だけはエレナの方を向けている。エレナは少し笑いながらこっちに手を振っている。1年も会えないんだし、しっかりと目に焼き付けておこうと思い、エレナの姿が見えなくなるまでずっと手を振りながら眺めていた。




◇◇◇

「エレナ姐さん、もう行きましょう」


ギンさんが乗った馬車が見えなくなってもずっと馬車が消えた方向を向いて動こうとしない姐さんに声を掛ける。さっきから姐さんに声をかけているが、返事は返ってこない。見送りに来た大人はみんな広場からギルドに戻っていった、ガジ達はいつもの薬草採取に向かっていったので、今は私とエレナ姐しかいない。


「そんなに気になるなら一緒に行けば良かったのに」


さっきから呼んでも答えてくれないので、これも聞こえてないんだろうなと思い、軽くぼやくと、


「嫌よ。女将の跡継ぎとして色々学ばないといけないからね」


私のぼやきに反応する。聞こえてるなら返事ぐらい返してほしい。


「女将なら1年ぐらい待ってくれるでしょう。スーティン姐も結婚していなくなった今、エレナ姐しか跡継ぎがいなんですから。ああ、クーア姐がいるからとか言わないで下さいよ。あの人は私から見てもまだまだ姐さん達程じゃない事は分かりますから」


エレナ姐付きとして長いから予想できる言い訳を潰して逃げ道を塞ぐ。


「・・・ぐ、あんたホント良い性格になったわね。・・・・でもいいの。私は足手まといになりたくないし、一緒に行けばギンは私に甘えて、ガフ達の事吹っ切れないだろうからね」


言い訳ばっかり、ホントに素直じゃないなあ。たまには素直になればいいのに。


「そんな事言って!1年後にギンさんが、いい人見つけて戻ってきたらどうするんですか?『エレナ、これが俺の妻だ、よろしくな』なんて言われたら、ギンさんをみんなの前で振った手前もうどうしようもないですよ!」


エレナ姐に更に追撃する。他の子からは恐れられてるエレナ姐にここまで言えるのはスーティン姐が去った今、私だけなので遠慮なく言わせてもらう。


「そうよね、その可能性も十分あるわよね。まあそれだったら余計に上手くいってると良いんだけどな」


意外に怒る事無く何となく寂しそうに言いながら両手を組んでいつもの格好でいつもの雰囲気のエレナ姐だけど、私はすぐに違和感に気付いた。


組んでる腕の位置がいつもと違うな。お腹の辺り・・・・・!!


「姐さん!!まさかとは思いますけど・・・」

「アハハハハ、まあどうなるか分かんないけど、上手くいってたら1年後ギンが驚く顔が目に浮かぶわ」


そう言ってケラケラ笑うエレナ姐。マジですかあ、日頃から「絶対に気を付けろ」って口を酸っぱくして言っていたエレナ姐が・・・いや、姐さんの反応から確信犯だなこれ。


「女将には何て言うんですか?」


女将も基本的にコレは激怒するはずだと思ったけど、


「女将には相談したから知ってる、反対されなかったわ。むしろ誰のか分からなくなるからこれから客の指名受けるなだって」


それは当然だろう。ただ『尾無し』戦以降、エレナ姐がギンさん以外の指名を全て断っているからその心配は無いだろう。


「さて、これから忙しくなるわよ。サラ、今日からあんたはクーア付きよ。頑張ってフォローしなさい」


エレナ姐はそう言うとようやく動き始め店に向かって行った。


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