59.5話
『尾無し』戦から少し経ったぐらいの話です
「チッ!」
イライラして俺は何度目になるか分からない舌打ちをして通りを歩いている。
『尾無し』を討伐した直後に彼女が二人も出来て、毎日のように楽しんでいた。今日も3人で楽しむ予定だったのだが、
「よお!」
家のドアがノックされたので扉を開けると見たくもない顔が立っていた。相変わらず飄々とした態度で俺に対して微塵もビビッていない『カークスの底』のガフだった、珍しい。話を聞くとどうやら今日俺と飲みたいらしい。二人で飲み歩く仲でもないので断ろうとしたが、
「クリスタとピエラには『国境の水面亭』を俺の名前で予約したから行ってくるといい」
と、この街の最上級の食事処を予約したといったので二人で楽しそうに出掛けて行った、ガウルとオールには、
「今日はギースから『猫宿』奢る」って言われたと、言って二人とも出ていった。こうやって俺は一人にされた・・・既にガフの作戦通りかよ。そんな事を考えながら俺は指定された場所の『帳』に歩いている。密談専門で最高ランクの店の『帳』は防音魔道具、防御結界等、可能な限り妨害魔法や魔道具の設置がしている。そんな店で何の話するんだ?確かこの店使用料だけで金貨1枚だったような、そんな事を考えていると、
「あら?カイル?どうしたの?もしかしてあんたもガフに呼ばれたの?」
いつもと違い町娘の格好のエレナがやってきて声を掛けられた。
「そうだよ。って事はエレナもか・・・何か聞いてるか?」
尋ねるがエレナは首を振るだけだった。
よく分からないがエレナと二人で『帳』の中へ入ると、そこは普通の部屋だった。変わった所はガフがつまみや酒を机に並べているところだろう。
「おっ!よく来たな。こっちも準備万端だ。取り合えずビールでいいか?」
そう言って手慣れた感じでビールを注いで渡してくれる。何でこいつはこんなに何でもソツなくこなせるんだろうなとか思っていると、乾杯を合図されてかなり珍しい3人の飲み会が始まった。
始まってすぐは最近の自分の近況なんか当たり障りのない事を話していたが、いい加減、どうでもいい。今日呼ばれた理由を聞きたいと思い。直球で質問した。
「で、今日俺達が呼ばれたのは何でだ?」
「実はよ、エステラもターニャも良い歳だろ?もうそろそろケインと落ち着かせて子供でもって思って、俺らは引退を考えてる。それの相談なんだよ」
聞いた瞬間呆れてしまった。わざわざ『帳』借りてまでする話じゃねえ。俺にとっては心底どうでもいい話だな。
「くだらねえ、そんな相談パーティですればいいじゃねえか。何で俺に言うんだよ」
「いや、違え。俺らの事じゃねえ。ギンの事だ」
「それこそ何で俺に言うんだよ。お前に懐いてんだからお前が最後まで面倒見ろよ。っていうかもう新人じゃねえから勝手にやらせりゃいいじゃねえか」
「俺らは引退したらカークス近くの村に帰るつもりだからよ。ギンがついてくるってんなら面倒みるけどよ。多分それはないだろう」
エレナを見ながら言う。
「な、何よ」
「エレナも分かってんだろ。ギンがお前に惚れてるって、だから俺らが街を離れてもあいつは残るはずだ。お前も満更じゃなさそうだしな」
マジか。さすがにエレナは難しいと思うぞ。
「な、な、な、何言ってんのよ。わ、私が本気になる訳ないでしょ」
前言撤回。これ楽勝だわ、しかしガフといい、エレナといいギンのどこがいいんだ。ちょっと変な奴だとは思うけど。
「だからよ、俺らが引退した後、あいつが暴れた時は止められるのはエレナしかいねえからそん時は頼む。カイルは出来るだけあいつと仲良くなってくれ。理想は俺らぐらい懐かれてくれると助かる」
おかしな頼みだな。エレナ以外でもギンなら簡単に止められるだろ。むしろエレナじゃ止められねえだろ。しかも何で俺がそこまで仲良くならなきゃなんねえんだよ。
「いや、たかが、Fランクだろ。そこらの奴でも余裕で抑えられるだろ」
「無理だ。ギンが本気で暴れたら多分この街・・・いや伝承通りなら国が滅ぶな」
「な!!」
「ブハハハ!おもしれえ冗談だ。大体一人で国を滅ぼせる奴なんているわけねえだろ。」
ガフの言葉に思わず笑ってしまう。更に本気で驚くエレナを見てさらに可笑しくなって笑っちまう。ギンにそんな実力が無いのは分かってるからな。まあ、2~3人殺した所で取り押さえられるって所だな。
「誰でも知ってる有名な奴が一人いるじゃねえか」
俺が笑い終わるのを待って真面目な顔でガフが言ってくる。隣のエレナは何か分かったのか顔が若干青ざめてる気がするな。っていうか一人で国を滅ぼした奴なんて聞いた事ねえぞ。誰だ?
「ほら、建国王の敵だよ」
分かってない俺に更にヒントを出してきて、ようやく誰の事か分かった。
「皇帝の事言ってんのか?ありゃあ伝説の『影魔法』使えたからだろ」
「そうだ。その『影魔法』をギンは使える。だからあいつが暴れたら本気でヤベえんだよ」
「プ、ク、アハハハハ!!おもしれえ、すげえ笑えるぜ。ガフがそんな冗談を真面目な顔して話すなんてな。ホントどうしたんだ?」
『影魔法』。歴史上これを使えた奴は3人しかいない、更にその3人とも超がつくほど有名だ。悪い方向にだけどな。一人が世界を支配しようとした『皇帝』、次が世界中を荒らし回った巨大盗賊団の『大頭領』、最後が皇帝崇拝の教団を作りこちらも世界各国で暗躍していた『教祖』。でそんな奴等の隣に『ギン』って名前が並ぶのか。想像しただけで笑えてくるぜ。隣のエレナは怯えた顔してるから余計に笑える。何でエレナは信じてるんだよ。
「カイル、てめえも尾無し戦でギンの『影魔法』見ただろ。尾無しを貫いた黒い土槍だ、ありゃあギンの仕業だ」
「はあ?ふざけんな!ありゃあ、俺の土魔法じゃねえか。何言ってんだ」
「お前の土槍は黒いのか?一度に何本も出せんのか?」
「・・・・・」
ガフに言われて、言葉が出てこない。確かに俺の土槍はその時の地面を使うから色が同じになる。『尾無し』の洞窟は黒くなかった、ならあんな黒い土槍が出来るわけねえ。それに俺の土槍は1回で1本しか発生しない、一度に複数発生は魔力量的に無理だ。・・・・・・なのに何で今まで・・・俺は・・・・。
「まあ、あんまり気にすんな。その勘違いもギンの『偽装』スキルだからな。あん時、黒い土槍を見た連中は全員驚いた顔してたな、あのギルマスでさえ動きを止めて驚いていた。ただギンだけは一人で焦ってオロオロしてたんだよ。そんでそんな中真っ先に声をあげたのはギンだっただろ?カイルの魔法すげえって言ったはずだ。多分そん時『偽装』スキル使ったんだろうよ」
「それなら何で、てめえは騙されてねえんだよ」
「俺はギンが使ったって確信してたからな。『尾無し』戦は言ってみればギンが『影魔法』をどのタイミングで『使うか』の最終確認だったんだよ。『使えるか』じゃねえぞ、どうなりゃ『使うか』の確認だ。それでギンの奴思っていた以上に俺達を慕ってくれてる事が分かった。最悪あいつの『影魔法』で助けてもらえるって思ってたから無理やり参加させたのもそういう理由だな」
そう言ってニヤリと笑うガフを見ているが、頭の中はパニックになっている。パニクりながらも、
「いや、何でギンが使えるって分かったんだよ。あの面子の誰か他の奴かもしれねえだろ?」
自分で言っておいて馬鹿だと思うが、この時点で俺は伝説の『影魔法』を誰かが使ったって認めちまってる。いや、あの黒い土槍が俺の魔法じゃねえって分かった今なら信じないといけないか。
「最初にギンと薬草採取に行ってから怪しいと思ってたんだが、孤児院のガキ・・・クロって名前だったか・・の一件があってから、情報屋使って本格的に調べてたからな。そしたらな更にやべえ結論に辿り着いた」
そこでガフの奴、勿体ぶってビールをグイッと煽る。
「ギンは・・・あいつは・・・火の国の勇者だ」
「はあ?」
「ほ、ホントなの?」
いきなり突拍子もない事を言い出したガフに驚く、ずっと黙っていたエレナも驚いて声を出す。勇者ってこの間召喚に成功したって、国から発表があって国中でお祝いしたアレの事だよな?しかも水の国じゃなくて火の国って何でそんな超重要人物がこんな水の国の外れで冒険者やってんだ?
「まあ、待て。まずはあいつが『影魔法』使いだって話してからだ。それを理解すると火の国の騒ぎが全て辻褄があってくるからな」
ガフは、そう言ってまたビールを口にすると飲み終わったみたいでワインを取り出す。そのワインを見たエレナの目の色が変わる。
「あんた、・・・それも・・・もしかしてギンが?」
「ああ、そうだ。俺が見つけた事にしてるけど、あいつが『探索』使って下水で見つけた」
何でもないように言ったが、今とんでもない事言ったぞ。
「ガフ、今お前『探索』って言わなかったか?」
慌てて聞く俺の隣でエレナは目頭を押さえている。
「ああ、あいつは『探索』スキル以外にも『念話』、『罠師』、全部で恐らく10個・・いやこの間『身体強化』覚えたとか自慢してきたから俺の記憶が正しければ11個スキル持ってんな」
・・・・マジか、11個って嘘だろ。俺の知ってる奴でも6個が最高だぞ。しかも『探索』、『念話』、『罠師』って有り得ねえだろ。国が保護するレベルだぞ。
「いや、そりゃあ、話盛りすぎだ。『影魔法』だけでも有り得ねえのに、そんな激レアスキル持ちなんて信じられねえよ」
「まあ、こっちは信じなくても構わねえさ。それよりも『影魔法』の事だ。俺が最初にあいつと薬草採取に行った時から怪しさ満載だったな。あいつの持ってる『魔法鞄』色々おかしいんだよ。まず容量な、それから機能だ。あいつの『魔法鞄』に入れてると時間経過が無いらしい、更に入れてるとリストが出てそれが何か簡単な説明がつくんだってよ」
「そんなの聞いた事ないわよ!」
慌てたように叫ぶエレナ。普段の店での落ち着いた様子とは偉い違いだ。まあ、俺もそんなの聞いた事ないから、驚くというより呆れてるんだけどな。
「まあ、そうだろうな、俺も機能については信じられねえが、実際、『尾無し』戦の前に暖かい食い物食ってるからな。容量については、カイルも確認してるだろ。『尾無し』の死体全部あいつが運んだじゃねえか」
そう言えばそうだった。あれが入るってどんだけだと思ってたけど、『尾無し』討伐の嬉しさですっかり忘れてたな。
「思い出したか?容量だけで十分だ。あれは多分、『皇帝』と『大頭領』が使ってたって言われてる、影に物を入れる魔法だ。伝承通りだと制限なし、時間経過なしだから合ってるだろ」
「いや、でも・・・まさかな」
信じたくねえが、実際『尾無し』を一人で運んだから『影魔法』を信じた方がいいのか?それともあれだけ大容量・・・・国宝級『魔法鞄』があるって考えた方がいいのか・・・どっちも信じられねえ
「それから、あいつとパーティで薬草採取に行った時に絡まれてよ。原因はギンがそいつらの装備奪ったって事らしい」
ガフは俺が戸惑っているのに関係なく話を進める。
「嘘よ!ギンがそんな事する訳ないわ!」
何でそこまで必死に言い切れるのか。ホントにエレナどうしちまったんだ。ギンの事になると何かおかしくなるな。
「ハハハ。まあ落ち着け、元々はそいつらが新人のギンに絡んで金目の物を奪おうとした事が原因だからよ。で、ギンはそれを撃退した。ただその撃退の仕方が有り得ねえんだよ。ギンに絡んだ奴等は全員全裸にされて無傷で衛兵に捕まってる。情報屋の話だと最初に大声をあげて叫び出したのはギンらしい」
「何よ、だったらギンは全然悪くないじゃない。そいつらの自業自得よ」
エレナはギンが悪くないって分かって満足のようだが、今のガフの話はおかしい。全裸にされてるのに無傷って何だよ。そいつらがおとなしく服を脱いだ?なんて事ある訳ねえ。傷一つ付けずに全員全裸にした?そんな事出来る訳ねえ。・・・ただ・・・『大頭領』の伝説通りなら可能かもしれない。確か『影魔法』で身ぐるみ剥いでいったって・・・
「情報屋に聞いた限りだと、そいつらギンから金目の物奪おうと声を掛けた所で、目の前が暗くなり動けなくなったそうだ。で動けるようになった瞬間全裸になってて衛兵に捕まったそうだ。この『動けなくなった』ってのは『教祖』と同じ能力だと俺は思ってる」
確か『教祖』は影魔法で相手の自由を奪い『皇帝』への生贄として、切り刻んでいたと伝わっているが・・・
「さっきも言ったようにその後、そいつらが復讐しにきたんだ。まあ、そん時はギンの客だから教育の意味も込めてあいつに任せたんだけどよ、やる気になったギンはヤバかった。多分『影魔法』使ったんだろう。マジでこれが命を握られてるって感じだった。首元に数十本剣先を突き付けられてる感じで少しでも動けば殺されるって思ったぜ」
有り得ねえ。絶対に有り得ねえとか思いながらもギンが『影魔法』使いだって信じてしまいそうだ。実際、黒い土槍と『尾無し』の収納はこの目で見ている。信じないわけにはいかない。冒険者は考えられる最悪を想定しておかないと生き残れないからな。
「まあ、ギンが『影魔法』使えるってのは分かった。それで、何で火の国の勇者だって言えるんだ」
「そうよ、『影魔法』と『勇者』関係ないじゃない」
「それは違うぞ、エレナ。『勇者』は予言の通りなら必ず魔法が使えるって話だろ。『影魔法』も『魔法』だ。『勇者』が使えても・・・いやむしろ『勇者』だからこそ使えても不思議じゃねえ」
ガフの言う通り、予言が本当なら『勇者』が『影魔法』使えても不思議はねえ。ただ、
「『影魔法』使えるから『勇者』ってのは安直すぎねえか?」
「そうだな、安直すぎるな。でもまずは聞いてくれ、ケイン達3人で火の国に出稼ぎに行ったのは、確か勇者召喚の祭りが終わってすぐだった。『黄虎男』を探しにいったんだよ。その途中であいつら火の国の第1騎士団を見かけたらしい。街道で演習をしていたっぽいって聞いたけど、どう考えてもおかしいだろ」
「何がおかしいんだよ。自分の国で演習なんてどこでもやってるだろ。まあエリート中のエリートの第1騎士団がやってんのは珍しいが」
第1騎士団は選りすぐりのエリート達で城の警護が主な仕事だから、外での演習はかなり珍しい。珍しいがやらないってわけじゃねえ。
「よく考えろ。勇者召喚直後だぞ。そんな時期に第1騎士団が演習っておかしくねえか?普通は城の警備を強化する為に騎士団全部が都の警護についててもおかしくねえよ。実際この国は1ヶ月そうだったからな」
ガフに言われて考えてみればおかしいな。水の国は騎士団全てが都で警備をするぐらいの物々しさだった。他の国も似たようなもんだと聞いてる。それなのに火の国だけってのはおかしい。あそこは第3騎士団まであるから第3騎士団だったらまだ分かるが第1騎士団がそんな時期に演習なんてする訳ねえよな
「だから調べたんだよ。で、その結果、第1騎士団が『追跡』を雇って何かを追っていた事が分かった。『追跡』雇ってる時点で殺す気だったんだろうよ。ただ、『追跡』は依頼成功したけど失敗以上の損害だったそうだ。何せ身ぐるみ全部剥がされたそうだからな」
おいおい、マジかよ。Bランクで二つ名持ちのあいつらの身ぐるみ剥ぐって相当だぞ。・・・・いやさっきまでそれが出来る奴の話をしてたけど・・・まさかな。
「更に言えばよ。その第1騎士団も50人以上は無傷で装備を奪われたらしい」
「・・・う、嘘だろ」
精鋭中の精鋭だぞ。そんな奴等から、しかも50人から無傷で装備奪える奴なんてバケモンじゃねえか。ただ『影魔法』使えるなら可能なのか・・・・いやちょっと待て。
「ガフ、まあお前の言う通り装備奪った奴がいたとしよう。ただそれはギンじゃねえな。さっきお前言ったよな?『追跡』が依頼成功したって。そりゃあ追ってた『何か』を殺したって意味だろ?それならギンは死んでなきゃおかしいよな」
エレナが凄いこっちを睨んでくる。ホントにこいつはどうしちまったんだ。
「あいつには『偽装』スキルがある。お前もさっきまで騙されてたじゃねえか。多分ギンはそのスキルで上手い事死んだと思わせたんだろうよ」
「・・・いや、・・・・それでもよ。・・・少し考えすぎじゃねえか」
何となく話の辻褄が合う気がするけど、それはギンが火の国勇者で『影魔法』使えるって思いこみたいから無理やり辻褄合わせてる気もするが。
「まあ、ここまでなら俺の考えすぎだって言われてもおかしくねえが、ギンはこの街で火の国の第1騎士団の兜を売り払ったそうだ」
「へ?」
「う、嘘でしょ」
思わずおかしな声が漏れた。ギンの野郎、何つうもんを売ってんだよ。隣にバレたら大問題だぞ。
「用を足しに茂みに入ったら見つけたそうだ。そんな所に落ちてる訳ねえのにな。まあ偽物だと思われて金貨1枚だったそうだ。それで兜はもう溶かされちまったみたいだから安心だけどな」
「それならギンの言う通り拾ったって事で納得しとけよ。いや、騎士団の誇りみてえなもんを落とすなんて考えられねえが、万が一があったかもしれねえだろ」
「まあ、兜1個なら何とか俺もそう思えたんだけどな。俺が調べた結果、あいつは火の国の第1騎士団の長剣1本とナイフ4本持ってる事は分かってる」
「「・・・・・・」」
俺もエレナも言葉が出ない。
「長剣は『鉄扇』のカールに一度だけ貸したそうだ。俺が聞いて確認した。ナイフは俺の雇った情報屋が確認した。『尾無し』の舌を処理するのに孤児院の奴等に貸してたそうだ」
「ギンってば、なんてものをあの子達に貸してんのよ」
さっきまで驚いているか黙っているだけだったエレナが怒りだした。まあ気持ちは分かる。そんなもん持ってたなんて噂が立てば隣国から拉致されるかもしれねえしな。
「でもよ。やっぱりギンが火の国の勇者ってのは考えすぎじゃねえか?」
「勇者召喚のタイミングでこんなヤベえ事が勇者関係無く起こったと考える方がどうかと思うぜ。あとあいつに初めて会った時はあいつ何も分かってなかったぞ。薬草採取した事ない。魔物なんていねえ土地から来たからゴブリン殺すのに躊躇う。『生活魔法』も使えない。ただ、計算だけは商人並みに出来るってよく分かんねえ奴だった。今なら召喚された勇者って考えると納得できるんだけどな。」
「それなら何で火の国の勇者様がこんな所で冒険者やってるのよ。ウチの国の勇者様は城から出てこないで、王族並みの好待遇で過ごしてるって聞いてるわよ」
エレナの言う通りだ。どの国でも勇者は好待遇で迎えられているはずだ。何でギンだけが?ってなるよな。
「第1騎士団と『追跡』、『影魔法』を考えれば分かるさ。『影魔法』って歴史上最悪の人物達しか使えない魔法を使える奴が現れたんだ。そりゃあ、ビビるだろ、特に火の国は『影魔法』に因縁があるしな。当然ギンも国に災いを起こすとでも考えられた、だから殺そうとした。ただ、運よく逃げられたから第1騎士団に追われたんだろうよ。それで『追跡』も雇ってギンを殺そうとした結果ギンは『偽装』スキルで逃げ延びてこの街で冒険者始めたって所だろ。それを証明する訳じゃねえけど、ギンは火の国の事を嫌ってるからな。話題にすると途端に不機嫌になりやがる。腹芸は覚えろっていってんだけどな」
確かにガフの言う通りのような気がしてきた。っていうかこれ以上は頭がパンクしそうだ。今日は色々ヤベえ情報が多すぎる。ってのにガフは更に爆弾を落としていきやがる。
「あと、これは俺でもよく分かってねえが、ギンは自分の国の物を持ってこれるスキルを持ってるんじゃねえかと考えている。俺はカップラーメンとポテチって奴を食わしてもらったが、有り得ねえぐらい美味かった。あとターニャがハマってた「シャシン」の魔道具も多分ギンの国のもんだ。お前らだと『尾無し』の舌を食べた時にあった美味い黒い液体、あれも多分ギンの国のもんだな」
確かに黒い液体につけた肉を食った。ありえねえぐらい美味かった。あと「シャシン」。俺はどうも思わなかったが、クリスタとピエラがえらく欲しがっていたな。
「まあこれでギンの事が分かっただろ?だから俺がいなくなったら頼んだぜ。あとはまあ、『引退者のジンクス』だな。そん時はマジで頼む」
ガフの野郎マジでギンの事考えすぎだろ。
「『引退者のジンクス』って何?」
エレナは知らねえのか
「冒険者引退を考えてる奴は死ぬって話だ。引退後の事を考えて依頼に集中できないとか、引退前に少し稼いでおこうと考えて無茶な依頼を受けてとかで、死んじまうんだよ」
「カイルの言う通りだ。まあそうならねえように気を付けるが何があるか分からねえからな。俺が死んだ時は仲間に話してあるから、上手い事やってくれるだろう。問題は人が原因で俺らが全滅した時だ。多分貴族だろうが国王だろうが関係なくあいつは暴れると思う。そん時はエレナ、お前しかギンを止められねえから頼んだぞ」
「そんな事言われてもどうしたらいいのよ、力で止めるなんてできないわよ」
「分かってるさ。あいつが暴れたら「俺が死んでも暴れるんじゃねえぞ」って伝えてくれるだけでいい。多分エレナの言葉なら聞いてくれるだろ。そんで俺らの死に引きずられないようにこの街を離れさせた方がいいな。・・・まあ都がいいか。そこに1年ぐらいいろって言ってくれ」
「何で街を離れさせるのよ。死に引きずられるって何よ?」
「仲間や親しい奴が死ぬと、その事ばっかり考えて依頼に集中できなくて格下の魔物相手でもあっさり死ぬって話だ。同じ街だと思い出が多すぎて吹っ切るのに時間がかかるから敢えて他の街に移動するんだよ。他の街なら最初は慣れるまでに精一杯で思い出している暇なんてないからな」
「ああ、もう一つあった。俺らが万が一全滅したら家の物は全部ギンにあげてくれ」
エレナに鍵を渡しやがった。ホントにどこまで最悪の事態を想定してんだ。
「俺は何すればいいんだ?仲良くなりゃいいのか?」
「そうだな、理想は俺らぐらい懐かれてほしいが、無理に絡んで警戒されても困るから、訓練に付き合うぐらいでいい。その代わりギンが何かやらかした場合はお前の土魔法だって事にして、上手く誤魔化してくれ。みんな魔法何てよく知らねえから何とかなるだろ」
ならねえよ!!
心の中で俺はガフに向かって悪態をつく。この状況をどうやって誤魔化せばいいんだよ。黒いオブジェが立ち並ぶギルドを見渡しながら、俺は心の中で叫んでいる。声は出せねえ、出すと俺は殺される。どうしてこうなった。微動だにせずに俺はこうなってしまった事を思い起こす。
「カイル!『カークスの底』が全滅した」
パーティメンバーで装備や消耗品の補充をしながら街を歩いてると、慌てた様子で知り合いが走ってくるなりそう告げた。何を言われたのかすぐに理解できなかった。
「は?」
「だから『カークスの底』が全滅した。それで『最長』がギルドで暴れてる」
「おい!詳しい話を聞かせろ!どういうことだ?」
「だから今言った事が全てだ。取り合えずギルドに来てくれ」
軽く説明を受けながらギルドに行くと既に騒ぎは収まっていた。ギルマスであるレニーさんの足元にギンが倒れこんでいる、それを職員が装備を剥いでいるって所か。レニーさんの所に歩いて行き足元に転がるギンを見ながら、
「気絶させなくてもよかったんじゃねえか?」
「いや、直前に『尾無し』以上のヤバさがあったから、こうしないと多分私がやられていた。。カイル、ギンは一体何者だ?」
何者だって言われても正直に話して信じてもらえねえよ。
「さあ、唯のFランクだろ。そんなビビる程の事じゃねえと思うけど」
誤魔化そうとするが、多分レニーさんには俺が何か隠してる事バレてんな。はあ~。仕方ねえ。
「ギンは火の国の勇者で『影魔法』が使えるってガフから聞いた」
レニーさんにしか聞こえない程度で囁くと、レニーさんは驚いて俺の顔を見る。嘘かホントか判断してんだろう。
「・・・・ホントか・・・いや、それはどうでもいいか。ポーラスの処分が終わるまでギンを牢屋に閉じ込めておけ。ミーサ!お前も一緒に入って様子を見ておけ。鍵はお前が持ってていい。但し牢屋を開ける時は必ず私を呼べ」
俺の言葉を信じてるのか信じてないのか。職員に指示を出し始める。
「信じたのか?」
「いや、まだ信じてはないぞ。ただ、『常に最悪を想定して動け』私が最初に教えた言葉だぞ、忘れたか?お前からの情報で最悪を想定しているが、お前の話が本当なら多分止められないな。せめて『カークスの底』の誰かが生き残ってくれていたら止められる可能性があったんだろうが・・・仲の良いミーサに面倒見させるが、多分駄目だろうな」
そうだな、レニーさんが俺達に最初に教えてくれたな、それを想定して俺も動くか。
「レニーさん。ガフからこうなった時の事も指示されてるから、俺はエレナを呼びに行ってくる。エレナならギンを止められるってガフが言ってた」
「後で詳しく話を聞かせて貰うぞ」
レニーさんの言葉に頷いてから俺は『猫宿』に駆け出して行った。
「女将!エレナはいるか?」
「いるよ。呼んでくるから落ち着きな」
よっこいしょって声が聞こえてきそうな様子でゆっくり立ち上がると店に入っていき、すぐにエレナを連れてきてくれた。
「何?今仕事中なんだけど?」
「エレナ!『カークスの底』が全滅した!ギンを止めるのを手伝ってくれ!」
実際はもう牢屋に閉じ込められているが、ガフの話が本当ならエレナがギルドに来てくれないと、ギンが本気で暴れた時が怖いので切羽詰まった感じで頼む。
「女将!行ってくる!」
「ああ、分かった。スーティンに頼むから。あんたも上手い事やんな」
思った以上にあっさりエレナを連れ出せた。女将には前もって話してたのか?
2人で走ってギルドに向かう途中簡単に説明を済ませる。説明が終わったらエレナは更に加速してギルドに走っていく。早えええ。あいつ何であんな足早ええんだ。俺が追い付けないって相当だぞ。
「エレナ!先に行くなって・・・なんだ・・どう・・・なって・・ん・・・だ」
エレナの後を追って文句を言いながらギルドに飛び込んだ瞬間、ギルド内の異様な光景に言葉が詰まる。
『ギンが何かやらかした場合はお前の土魔法だって事にして、上手く誤魔化してくれ。みんな魔法何てよく知らねえから何とかなるだろ』
ガフの言葉を思い出すが、
ならねえよ!!
心の中で俺はガフに向かって悪態をつく。黒いオブジェが立ち並ぶギルド内のヤバさ、そしてそこにいる俺。ガフの言ってた首筋に剣先をいくつも突き付けられてるって感じが分かるぜ。これは駄目だ、俺はここで死ぬ。
そう、思ったが、意外にもエレナが普通にギンと会話を始めた。・・・俺は情けねえが、怖すぎて微動だに出来ねえ。ガフの言ってた事は本当だ、ギンの野郎『影魔法』使える。俺じゃどうしようもねえ。
頭でここからどう逃げ延びようかなんて情けない事を考えているが、エレナはギンに普段と変わる事無く対応している。・・・いや、膝が震えてるな。やっぱりエレナもこのヤバさに気付いてるのか。・・・それでもギンと普通に話してるなんてすごい女だ。
そうしてどうにかエレナがギンを治めてくれて二人でギルドから出て行った。しばらく待つと黒い影がスーッと離れていき、ギルドに色が戻り、辺りが騒がしくなった。
「お、動ける」、「今の何だったんだ?」、「ギンの野郎はどうした?」、「そ、そうだ!『最長』はどうした!」、「いねえぞ!クソ!すぐに探せ!」
騒がしいギルドに俺は大声で嘘の状況を説明する。
「落ち着け!面倒くさいから、俺の『土魔法』で全員拘束した!ギンの野郎はエレナに任せたから大丈夫だ!」
俺の説明で納得してくれたのか。騒ぎが収まるが・・・・まあギルマスとしては当然納得してくれねえよな。レニーさんから顎で合図されたので俺はギルマスの部屋に足を運ぶ。
「それで?詳しい説明は?」
入るなり不機嫌そうに言われる。新人の頃からレニーさんに世話になっている俺は正直に全てを打ち明ける。
「はあ~。また頭が痛くなるな。ギンの事何て報告すればいいんだよ」
ボヤくギルマスにガフからの知恵を授ける。
「ガフが言うには大騒ぎにするなだってよ。貴族が関わってギンの怒りに触れたらどうなるか分からねえし、ギンが暴れ出しても困るしな。そもそもギンはアレでもあんまり目立ちたくないらしいからな。幸い1年は街を離れるんだ、それまでにどうするか考えればいいだろ」
「ちょっと待て。何でギンが1年離れる事が確定してんだ」
「ガフからの命令だ。エレナが言ってくれるから多分その通りにしてくれるだろう」
「取り合えず了解した。明日は野盗の巣に向かう。丁度いいからお前もついてこい。二人なら馬使えばその日の内に帰ってこれるだろ」
そうして翌日レニーさんと野盗のアジトを探していたのだが、
「な、何だ、コレ?」
「さすがにコレは凄いな」
驚く俺とレニーさんの周りには30匹以上の狼の死骸がある。赤狼率いる群れだ。討伐ランクは俺と同じCランクだが、事前準備をしっかりして勝てるレベルだ。そんな赤狼と灰狼の群れが全頭首を一撃で切り落とされてるって有り得ねえだろ。他にも色々な魔物の死骸が転がっていたが、全て一太刀で首を切り落とされていた。野盗のアジトも外に首の無い死体が転がっていて中には何もなかった。
「影魔法」のヤバさを改めて認識しつつ俺はその日街に戻り、改めてギンと対峙した。対峙したギンは有り得ねえぐらい何時もと変わらなかった。しかも『影魔法』使ってエレナの服剥ぎ取って叩かれたって、腹が痛くなるぐらい笑った。何で伝説の魔法をそんなくだらねえ事に使ってんだよ。まあ、それはどうでもいいが、やっぱりギンはガフの命令通りこの街を離れるそうだ。




