51話 師匠の家でのBBQ
今日は9の鐘に孤児院でガジ達と待ち合わせてから師匠の家に行く約束なので、少しゆっくり起きてから準備を済ませて孤児院に向かう。孤児院に着くとすでにみんな準備を済ませて外でソワソワしながら待っていた。どんだけ楽しみにしてんだよ。みんなに挨拶をしてから出発するが結構な大人数で目立つな。
「ガジ、そういえば鉄板借りれたか?あれ無いと今日の肉はないからな」
「持って来てるよ。これの中にあるから大丈夫だよ」
そう言って子供の中でガジだけ背負っている鞄を見せてくる。どう考えても鉄板なんて入る大きさの鞄ではないが、これは俺がガジ達にあげた『魔法鞄』なので鉄板3枚入っていても当然容量には余裕がある。ただ今日は冒険者もたくさん来るんだよな。奪う奴等がいるとは限らないが口の軽い奴はいるかもしれない。
「ガジ、ちょっと鞄貸せ。・・・・こうやって取り出して。よし、ガジ、鉄板は俺の方に入れたからこれは孤児院に置いてこい。結構人が来るからバレる可能性高いからな」
孤児院から少し歩いてきた所なので、ガジは文句を言いつつも一度孤児院に走って戻り、再び追いついてくる。
「兄ちゃん、人が来るのに俺らも参加していいのか?ああ、エレナ姉ちゃん達?それなら大丈夫かな」
「うん?何言ってんだ?エレナも来るけど、今日はこの間の『尾無し』討伐メンバーが大半だぞ。師匠達、『大狼の牙』、『赤盾』がくるからな。顔を覚えて貰えば可愛がってくれるかもよ」
俺が参加メンバーを答えると、年長組はピタリと立ち止まった。ど・・・どうした?
「ちょっと待って!兄ちゃん!『大狼の牙』ってCランクだろ。何でそんな大物パーティが来てるの?しかも『赤盾』と兄ちゃんの師匠がいる『カークスの底』もDランクの中でも上位のパーティじゃん!そんな所に俺達が参加なんて出来ないよ」
泣きそうな顔でガジが言ってくるが、別にそのメンバーにはガジ達の参加許可は貰ってるんだよな。カイルなんてこいつらの為に樽で葡萄ジュース買ってくるって言ってるし。ウィート達は許可貰ってないけど、あいつらはタダ酒とタダ飯だから文句は言わないだろ。
「そんな心配すんな。その3パーティにはお前らの参加の許可貰ってるぞ。『大狼の牙』なんてお前らの為に葡萄ジュース樽で買ってくるって約束してくれたぞ」
俺が言うと年長組は更に固まりながらも、
「兄ちゃん、ホントに何者なの?なんでそんなランク高い人が俺らの為にジュース用意してくれるんだよ」
「お前らが下処理した竜タンを毒見で食わせたらえらい気にいってな。
『今日のBBQに参加させてもらうにはどうしたらいい』
『野菜とジュース持ってこい』
『ジュースは樽で行くわ』
みたいな流れかな?」
「う~ん。それなら納得できるのかなあ。いや、でも何で兄ちゃんが立場上なんだよ」
「それは俺が竜タンを無償提供するからです」
まだまだ何か言いたそうなガジだったが残念時間切れだ。師匠達の家に着いたので玄関をノックするとすぐにエステラさんが顔を出した。教会で治療を受けたので、ケガは既に治っている。
「おはよう、ギン。あら、結構大人数なのね。取り合えず庭の方に行って準備始めててもらえる?私はもう起きて着替えも終わってるけど、ケインとターニャがまだ裸で寝てるから家にはあげられないの、ごめんね」
・・・・昨日は3人でお愉しみだったみたいですね。エステラさんからどうでもいい情報を手にした俺はそのまま家に入る事なく庭に向かう。師匠達の家の庭は軽く訓練が出来るぐらいのスペースはあるのでそこに鉄板を3枚取り出して位置取りを確認する。確認が終わるとガジの指示で子供たちの仕事が割り振られる。昨日下処理をした4人は師匠達が買い戻した地竜の肉の処理をお願いする。チビ共には枯れ枝を拾いに行って貰い、少し大きい子はガジと竈作りの石を拾いに言って貰う。そして前俺と一緒に買い出しに行った子を二人残して貰った。その二人には俺の手持ちのレモン汁をまずは味見してもらう。
「酸っぱい」
「酸っっぱああああ。これレモンじゃん」
2人の反応だけでも口から唾が出てくる。
「さて、コレが何か分かるかってレモンって言ってたな。これがいくらで売ってるか分かるか?取り合えず20個は確保しときたいんだけど。大体いくらになりそう?買ってきてほしいんだけど」
「う~ん。確か1個鉄銭2枚ぐらいだったような」
「そうか、じゃあ、銅貨5枚あれば余裕だな。金と鞄渡すから買ってきてくれ」
2人にお使いを頼んで俺も枯れ枝を拾いに行き、ある程度集まった所でチビ達と戻ると、すでにガジ達が石で簡易竈を作っていた。すぐにガジ達が火を起こして鉄板を温めて、準備が完了した所で、エステラさんも家から出てきた。
「他の連中はすぐにくるから気にせず先に始めましょう。私、朝食べて無いからもうお腹ぺこぺこなの」
というエステラさんの指示に従い、昨日処理した竜タンを食べ始める。食べ始めるとみんな美味しいといいながらガツガツ食べてくれるので少しホッとした。
「お!なんかいい匂いすると思ったらもう始めてんのか。よし、俺も腹減ったから行くから待ってろ」
しばらく食べていると上から声が聞こえたので見上げると、上半身裸のケインさんが見えた、どうやら目が覚めたようだ。
「ん?何か美味しい匂いがする。お腹空いた」
続いてターニャが姿を見せたが、ターニャさんあなたのその格好、裸の上に毛布着てるだけだよね。胸は隠れてるけど、お腹が丸見えなんですけど。下から見上げているから壁で見えないけど下手したら二人とも下に何も穿いてないんじゃ・・・。
上を見ないようにして肉を食べているとケインさんとターニャが着替えて出てきた。あれ?そういえば師匠達は?
「師匠とギースさんはどうしたんですか?」
「ああ、あの二人なら『猫宿』よ。金が入るとすぐ無駄遣いするんだから」
エステラさんが呆れたように答えてくれる。そうか、師匠も俺を誘ってくれればいいのに・・・って二日連続はさすがにな。発見報酬貰ったって言っても節約はしとかないとな。
「よーす。来たぜ、こいつらとも途中で会ったから一緒に来たぞ。ってチビ共が思ったより多いな」
「まあ、大丈夫だろ。ほら、お前ら葡萄ジュースだ。勝手に飲んでいいぞ」
『赤盾』全員と『大狼の牙』のカイルとクリスタ、ピエラ、『鉄扇』のウィート、カール、サーリーがやってきた。しかもカイルとドルは樽を肩に抱えている。本当に樽で買ってきたみたいだ。早速子供達はジュースを大人はビールを飲み始める、今来た連中も竜タンを食べ始めその美味さに驚いている。そうしていると師匠、ギースさん、エレナ、サラ、ガウル、オールの珍しい組み合わせでやってきた。師匠とエレナが話をしているが師匠がものすごく面倒臭そうな顔をしているので、エレナから小言を言われているみたいだ。師匠は何したんだろ。
「よう。俺らが一番最後か。それにしては人が多いな。ギン肉は足りそうか?」
エレナの小言から逃げる為か師匠が俺に話を振ってくる。
「ええ、まだ全然ありますよ。これだと全員満足できるぐらいは量はあると思います。それにしては珍しい組み合わせで来ましたね」
「ああ、俺らは『猫宿』組だ。折角気持ち良く寝てたのに全員エレナに叩き起こされたんだよ。全く、泊っている客を時間が来てねえのに起こすなんてひでえ宿だ」
「何言ってんのよ。あんた達が昨日起こせって言ってきたんでしょ。それなのに何で文句言われなきゃいけないのよ。そもそもガフがギンを「ああ!分かった!もういい俺が悪かった。ったく昨日からずっと文句言われっぱなしだ、勘弁してくれよ」
珍しく師匠が自分の非を認めている。エレナはどんだけ師匠に小言を言ったんだ?っていうか何をそんなに文句言う事があったんだろ?
「ほら、あんた達も固まってないでさっさと食べなさい。今来たこいつら見た目と違ってそんなに怖くないから大丈夫よ。何かあったらエレナに言えば大丈夫だから」
師匠とギースさんの顔とギースさんとガウルとオールの背の高さにビビって箸が止まっているチビ達にエステラさんが優しく声を掛ける。エレナに言えば大丈夫って言葉が効いたのかチビ達は再び箸を動かし始める。
「ほら。野菜もたべなよ」
カイル達が持ってきた野菜を処理していたサーリー達が鉄板に野菜を乗せていく。こいつらにも後で話を聞かないといけないけど、まずは腹を膨らませる。ある程度食べて落ちつた所で、3人でイチャついているウィート達の元に向かい話を聞く。
「よう、腹は膨れたか?まあそれよりもお前らの事詳しく教えてくれよ」
「ああ、美味かったぞ。それより『カークスの底』だけじゃなくて『大狼の牙』と『赤盾』にも顔覚えてもらった。すげえよ、何で俺みたいな新人がこんな場所にいるんだよ」
「そりゃあ、俺が呼んだからだろ。まあ顔を覚えて貰って良かったじゃん。それよりお前らの事だ、どうなったんだ?」
「ああ、ギースさん達に採掘ばっかりはマズいって言われてからパーティ内で話し合ったんだよ。そうしたらやっぱり3人は冒険者は向いてないから引退する事になってな、田舎に帰っていった。サーリーも3人と同じ村出身の幼馴染だけど残って冒険者続けるってんで引き続きパーティ組んだんだよ。サーリーも採掘ばっかりは流石にマズいと思っていたみたいでこれからは採掘以外の依頼を受けていくつもりだ。って事でギンお前も新生『鉄扇』に入らないか?」
「いや、俺はしばらくソロで行くっていっただろ。まあ臨時のパーティ組んでたまに依頼こなすぐらいならいいけど。それよりまずそのパーティ名変えなかったのか?誰も『鉄扇』なんて持ってないじゃないか?」
最初に会って名乗られた時に気になっていたパーティ名について聞いてみる。『赤盾』みたいにパーティ内に赤い盾を持ってる人がいれば分かるんだけど、こいつらは誰も鉄扇を持っていない、別れたメンバーも持ってなかったはずだ。
「ああこれは建国王妃様に由来してんだよ。建国王妃様は『鉄扇』を装備していたらしいからな。俺らもそれぐらい強くなりたいって意味を込めてる。ドアールには俺らしかいないけどここより大きい街だと2~3ぐらいはあるパーティ名だな」
へえ。そんな由来が。それよりもパーティ名って同じでもいいんだ。同じだと分かりづらいと思うんだけどな。まあ俺には関係ないか。それよりも、
「で?お前らの関係だよ。何で恋人同士になってんだ?サーリーは田舎に帰った奴と付き合ってるって聞いてたぞ?」
「ハハハ、あれねえ、嘘。女冒険者ってナンパ凄いでしょ。だからあいつに彼氏の振りしてもらってたの」
サーリーが笑いながら答える。確かにケインさん達と初めて会った時に師匠がパーティメンバーなら嘘でも恋人の振りするみたいな事言ってたな。
「それは分かったけど、何でウィートとカール?また振りか!」
「違うわよ。今度はホントに恋人よ。3人で改めてパーティ組む事になった時、どっちが彼氏役するかってなってね。彼氏役じゃない方は周りから可哀そうに見られるね。じゃあ二人とも私の彼氏って事にしたの。それで『尾無し』の話があったでしょ?冒険者なんていつ死ぬか分からない事だし、それならいっそのことホントに彼氏になる?みたいな?」
やっぱりこの世界少し日本と考え方が違って結構軽いな。いや、死が日本より近いから後悔を残さないようにそういう考えになるのかな。
「ウィートとカールはそれでいいのかよ」
「まあ、本音を言えば最初はカールとなんて嫌だったけどよ。サーリーに俺もカールも説得されたよ。でもまあ今なら説得されて良かったと思ってるよ。案外3人でするのも楽しいしな」
「ちょっと!ウィート!」
顔を真っ赤にしたサーリーがウィートを叩くがウィートは笑いながら謝っている。うん、お前らも爆発しろ。
「ぎ、ぎ、ギンさん。ギンさん。ビール無くなったみたいです」
ウィート達に爆発しろと祝いの言葉をかけてその場から離れ、誰に絡みに行こうか悩んでいたらサラが目をキラキラさせて嬉しそうに話しかけてくる。何故サラが嬉しそうなのか俺は知っている。この間の酔い潰れた件でエレナからしこたま怒られ、今日は『赤盾』が持って来たビールがなくなるまでは俺のワインは我慢するように言われているのだ。その事を知っていた俺はさっきからチラチラとサラの様子を見ていたが、肉は食べまくっていたが、酒には手を出さずジュースをチビチビ飲んでいた事を知っている。この子はどんだけワイン気に入ったんだろう。
「あんまり飲みすぎるなよ」
溜め息を吐きつつサラにワインを1本渡すと、嬉しそうにワインを抱えて離れていった。文字通り俺からじゃなくて人から離れたので渡したワインを一人で飲むつもりなんだろう。ホントにあの子大丈夫かな?
「おい!酒無くなった!『赤盾』足りてねえぞ。もう1樽!・・・・は多いな。なんか微妙だな。少し飲み足りねえな、ガフの酒とかねえのか?」
サラの言う通りホントに酒が無くなったみたいで騒ぎ出す駄目な大人たち。っていうか樽で足りないってどんだけ飲んでんだよ。
「どうする?チビ達に金渡して買いに行かせるか?いや、美味い肉食ってんのにその待ち時間も勿体ねえな」
「ギース!家に何か無えのか?ガフの酒とか?」
「ある訳ないだろ。あればガフがあるだけ飲んでる」
ギースさんが否定すると何となく場が白けた空気が漂う。これはいけない、まだ竜タン余ってるし、主催者としてはもう少し楽しんで欲しい。それなら・・・
(師匠!師匠の酒って事にして俺の手持ちのワインを出してもいいですか?)
主催者としてはみんなに気分よく帰って言って貰いたいのでここは是が非でも師匠にOK貰いたい。若干1名既に気分よく酒を飲んでる子がいるがアレは無視だ。
(うん?お前本気で言ってんのか?それ1本いくらか知ってるよな?・・・・いや、価値観のおかしいお前がそれで良いってんならお前の好きにしろ)
(ありがとうございます、だけど師匠とギースさんは自分の手持ちからにして下さいよ)
師匠から許可が出たので大盤振る舞いしようと思う。但し師匠とギースさんの分までは出す気はない。
(ちっ!何でだよ。俺らの分も出せよ)
(弟子にたかるのは師匠として情けない)
俺らが『念話』しているのを感じ取ったターニャが会話に混ぜろ混ぜろと『念話』で言ってくるのに根負けして繋ぐと早速師匠に文句を言い始める。
(ターニャ??ターニャだろ今の!何でターニャがいるんだよ!)
ターニャにばらした事を師匠に言い忘れていたので、焦った様子の師匠の声がする。
(ギンに私の事話したから『探索』と『念話』持ちって教えて貰った。)
(おい!ギン!聞いてねえぞ!)
(すみません!『尾無し』のゴタゴタで報告忘れてました)
(お前・・・・まあ、ターニャなら良いか、それでターニャも元貴族って言ったんだな?言ってないなら俺から話すぞ。流石にギンのスキルはヤバすぎるから、少しでも保険が欲しいからな)
(大丈夫!ちゃんと『サンダーロッド』の家名持ち貴族って事、何でその貴族が冒険者になったか教えてる)
(それなら俺からは何も言わねえ。それよりターニャ、俺の馬鹿弟子が今からあの酒をタダで振舞うらしいぞ。早い物順だ、急げ)
師匠が言うなりターニャがダッシュで俺の前まで走ってきた。ターニャもサラと同じ感じなんだろうか・・・いや逆か、サラが成長するとターニャみたいになるのかな?
「ギン、『シャシン』もとりたいからアレ貸して」
サラと同じでキラキラした目で俺を見上げてくるターニャにワインを1本とスマホを渡すと、すぐにケインさん達の所に戻っていってワインを飲みだす。すぐにそれに気付いたケインさんとエステラさんが騒ぎ出し、ターニャが俺から貰った事を話すと俺の前に人の列が出来る。ターニャはワイン片手にスマホで写真撮影を始め出した。
「ほら、師匠の秘蔵酒だからな、大切に飲めよ」
軽く注意しながら並んだ奴等に1本ずつ封を開けて渡していく。封を開けるのはそのまま持ち帰り防止の為だ。
配り終わって飲み始めた奴らが、あまりの美味しさに、どこで手に入れたか聞いてきたが、全て師匠の秘蔵酒って事にしてやり過ごした。そうして大半の竜タンを処理し終わった後には、ウィート達、カイル達、それからシーラも『赤盾』メンバーに腰に手を回されて親しく笑顔で話をしている。ケインさんはエステラさんとターニャを連れて家に鍵掛けて閉じこもりやがった!他の女性冒険者も何だか頭に花畑が見える。何でだ?告白成功週間的なのか、文化祭カップル的なやつなのか?
「師匠、何かカップル多い気がするんですけど、何か先着何名様キャンペーンやってるんですかね?」
「ああ?そんなのやってる訳ねえだろ。カップルが多いのは『尾無し』戦の後だからだよ!命の危険があった、感じた奴らがそう言う気分になってるんだよ。レイドの後は大概こんな感じになるな」
ああ、そういう事か。しかしパーティメンバーから気が強いからって手を出されてなかったあのシーラでさえ恋愛脳になるのか。
「んじゃあ、そろそろ終わりにするか。チビ共片付け手伝え。余った肉と野菜は持って帰っていいぞ」
師匠の指示でチビ達が一斉に動き出しすぐに片付けは終わった。鉄板とかは熱いので後日師匠達で片付けてくれるみたいだ。広場までみんなで歩いて各自解散になった。ガジ達にはきちんとお礼を言われた。そうしてみんなと別れた俺はエレナと歩いている。俺は前と同じように酔いつぶれたサラを背負っている。
「しかしガウルがあんなに子供好きとは意外だな」
そうガウルは師匠の家でも子供達と遊んでいたので大人気だったのだ。今も寝てしまった小さい子2人を背中と前に抱えて孤児院に連れて行ってもらった。オールは余った葡萄ジュースを抱えて一緒に孤児院に向かっている
「ああ。ガウルは年の離れた弟、妹がいたのよ。だからじゃない」
ガウルについてエレナが教えてくれる、過去形なのが気になるが深く聞かない方がいいだろう。そうして話題を変える為に背中の荷物について文句を言う事にする。
「それよりエレナ、サラの教育どうなってんだ?また酔い潰れてるけど、大丈夫か?」
「注意したわよ。だから今日も最初は葡萄ジュースしか飲んでないの見て安心してたの。まさかビールが無くなって、ワインを貰えるのを狙ってたなんて思わないじゃない。しかもこの子ワイン貰ったらガジ達を盾にして私から見つからないようにしてたんだから、確信犯よ」
・・・サラ・・・こいつにはワインをあげない方がいいんだろうか。
「まあ、とにかくまたお説教頼むぞ」
「分かってるわよ、はあ、またこの子泊めないと駄目か」
大きなため息をついてエレナは自分の家に足を運ぶ。家に着くとこの前と同じようにエレナのベッドにサラを寝かせるように指示されるので、言われた通りサラを寝かせる。途中何度も緊張する場面があったが、今回も大丈夫だった。後はいつでも吐いてくれて構わない。
「また、何かろくでもない事考えてない?」
「考えて無いぞ。それより『また』って何だよ?そんなろくでもない事なんて考えてないぞ」
「ガフから聞いたわよ!『尾無し』戦、最初ギンはしれっと混じろうとしてたけどバレて止められたって」
師匠!何故それをエレナに言ったんですか。ああエレナが説教モードになってるよ。
「ほら、エレナ。サラも寝てるし、また今度な」
慌てて会話を遮り帰ろうとするが、背中から抱きしめられる。これは説教が終わるまで帰らせてもらえないんですね。
諦めてお説教を受けようとエレナの方を振り返ろうとするが、エレナが抱き着いて離れてくれない。
「エレナ?」
「またサラの匂いがする」
不思議に思って声を掛けると、エレナの返事に途端に焦りだす俺。アニメとかだと虹色やキラキラ風で描写される液体がいつの間にか俺にかけられていたんだろう。
「マジか?サラの奴、起きたらマジで説教しててくれよ。『洗浄』、『洗浄』、くそ。歩いてる時かな、大丈夫だと思ったんだけど・・・」
エレナに少し離れてもらい、『洗浄』を重ねがけして体と服をきれいにする。『洗浄』したけど帰ったらすぐに風呂に入ろう、そしてこの服は洗濯だな。
「どうだ?きれいになった?匂い消えた」
帰ってからやる事を頭で考えながらエレナに聞いてみると、すぐに俺の背中に頭をつけてクンクン匂いを嗅いでいる。
「うん、大丈夫。ギンの匂いしかしないわ」
「そうか?それならいいんだけど。それよりも今日は楽しかったか?」
そう言えばあんまり今日はエレナと話してなかったと思い今日の感想を聞いてみる。俺はウィート達とばっかり話していた気がする。まあエレナも色々知り合いと話してたのは見たから大丈夫だとは思うんだけど。
「美味しい料理、美味しいお酒にジュース、弟達も嬉しそうにしてたから私も楽しかったわよ。・・・・ホントにギンは新人なのに凄いわね。まだこの街に来て1月も経ってないぐらいなのに『カークスの底』、『大狼の牙』、『赤盾』を集めるなんて、ほんと信じられないわ」
「いやいや、俺が誘ったわけじゃないから、『大狼の牙』と『赤盾』は食い意地張って勝手に参加するって言ってきたんだよ。俺が誘ったのはウィート達とシーラぐらいだって」
俺がそう言うとエレナは呆れたように首を振る。
「ホントに何も分かってないわね。『カークスの底』、『大狼の牙』、『赤盾』ってのはこの街でトップ5に入るぐらい有名なパーティなの。あいつら別に仲が悪いわけじゃないけど特別良いって訳でもなかったの。偶にギルドで情報交換するぐらいの仲だったらしいわ。それが今日『カークスの底』の家で集まってパーティやってるって、この街だと大ニュースよ。しかもその中に孤児院の子と私達、『鉄扇』とか訳わかんないメンバーまでいるじゃない。しかも主催がギンってどんな集まりなのよ。明日からあなたも『鉄扇』も他の冒険者から色々聞かれると思うけど頑張ってね。特にギンは『尾無し』戦で今回誘わなかったパーティから文句言われると思うから覚悟しといた方がいいわよ」
エレナからかなり脅されるけど、多分そんな言う程の事はないだろう。だって、ただ肉食べただけだし、誘わなかったパーティに文句を言われたら余った竜タンを差し入れしよう。そもそも竜タン自体みんないらないっていうし、俺が貰うのに誰も文句言わないから貰ったのに今から文句を言われても困る。エレナは大げさに言いすぎだと思いながら、いつもの安宿に泊まった。師匠達は今日も『猫宿』らしい。




