第9話 あたし疑われてんの?
「なによ?あたし、疑われているわけ?」
派手な化粧でおっぱいがこぼれそうなドレスで、綺麗な足を組んだ女がすごむ。スリットの入ったスカートががばりとめくれて、まあ、刺激的?
おもむろに煙草を吸おうとしたので、にっこり笑って止める。
「あら、やだ。あんた、いい男ね?」
「どうもありがとう。この部屋は一応、禁煙なんですよ。」
そっと握った指先は、綺麗にマニュキュアが塗られている。
「それで?検察官て偉い人なんでしょ?何の用よ?」
「ああ、キャサリンさんで間違いないですね?お綺麗ですね。」
「うふっ、ありがとう。そうよ。」
「事件当日の事情聴取にご協力いただきありがとうございます。もちろん、どなたにも口外されていませんよね?」
「そりゃあね。商売柄、信用一番なのよ。誰にも何も言ってないわ。」
「賢明ですね。では、今日はマーカスさんのことを教えて頂けませんか?」
「マーカスのこと?調べつくしてあるんでしょ?例えば、どんなこと?」
「随分とお金が入用だったようですが、何に使っていたんでしょうかね?」
「ああ、お金ね。好きな女がいたみたいで…どっかの妾になったらしいんだけどね、生活に不自由が無いように、って。かなりつぎ込んだみたいよ。あんなんだけど本命には弱かったみたいで、手も出せなかったらしいけど。妹みたいに可愛がってたみたい。」
「へえ。なんだか聞いてきたマーカスさんのイメージとは違いますね?」
「そう、変なとこで一途だったのよね。よくうちの店で飲んでこぼしてたわ。」
「それで…あなたは、マーカスさんの恋人?」
「あら、調べてあるんでしょ?私は伯爵の愛人よ。うちの店も出してもらったしね。あの人からの連絡の中継ぎみたいなことをしてたわ。マーカスは結構危ない橋も渡らされたし。かわいそうな子よね?」
「・・・・・」
「事件現場の3階のVIPルームも、政治家同士のいろいろとやばい話や、高位貴族の方の秘密の情事や、聖職者のおえらいさんとか?まあ、ほら、変わった趣味の方もいるしね。そんなのに使うために作られてんの。今回の事件が解決したら、全面リニューアルしなくちゃだわ。」
「大変でしたね。」
「そうね、早く解決してほしいわ。新しくなったら、どう?あなたを誘ってあげてもいいわ。独身?恋人はいるのかしら?」
重ねられた手を、にっこり笑ってそっと外す。
「話は変わりますが、マーカスさんの元・妻だったエーデリンデさんについて何か知っていることはありますか?」
「ああ、元、妻ねえ…マーカスは喜んでたわ。お金が自由になると思ってたみたいね。男性経験もない、世間知らずのお嬢さまだったらしいし。誘惑して骨抜きにして、とか、バカなことを考えてたみたいよ。もう、あの家の資産は手に入れたつもりになってて、お金使ってたのね。」
「どなたかの紹介と聞きましたが、仲人をなさった大公家夫人に話を持って行ったのはどなたかご存じですか?」
「テオドールじゃない?王城勤務だから、社交界ネタには詳しいし。落ち着かない三男坊をどうにかしたいと思ってたみたいよ。あ、二番目の息子ね。」
ふーーん
「あ、最後に一つだけいいでしょうか?
事件前夜に最後に目撃された人物について聞いてもいいですか?」
「なによ、さんざんしゃべったわよ?大柄な女。金髪にコートのフードをすっぽりかぶってたわ。男かもしれないけどね。そういう趣味もあるらしいから。」
「そういう?」
「男色よ。今はマッチョ系の男の子が流行みたい。」
ああ。