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第10話 騙されたんです。その女に。

「検察官のエリックです。よろしくお願いいたします。」


「・・・ヘイノ子爵家のマリアと申します。」


蚊の泣くような声で自己紹介したご令嬢は、すっかり憔悴しているようだ。

ハンカチを取り出して涙を拭いている。年は18歳。


「お呼びしたのはマーカスさんの件です。」

「はい。」

「生前はお付き合いなさってたと、そう伺っておりますが?」

「はい。もう2年になります。16歳の私のデビューにお声を掛けて頂いて。」

「そうですか、では、マーカスさんの結婚話を聞いて驚かれたでしょう?」

「いえ。家同士の政略結婚で自分の意志ではないからと、何度も繰り返し…」

「ああ。恋人同士にはつらい現実でしたね。」

「貴族であれば仕方がないことだけど、君を愛していると言って下さいました。」


へえ。


「でも、あの結婚は間違いだった。君のもとに帰ってきた、そう言って下さっていたのに…」

「そうだったんですか。」

「子供のように素直で、素敵な方でした。前の奥様は…」

「ん?教えてくれますか?」


言い淀んだマリアさんに、首をかしげてにっこり笑う。


「前の奥様は、実は別の所に男の方を囲っていらして、筋骨隆々の日に焼けた大男だったり、インテリっぽい背の高い年下の男だったり、を侍らせていたらしいです。」

「へえ。そうだったんですね?」

「ええ。朝帰りもしょっちゅうで、家に寄り付かなかったと。とんでもない女だったんです。」

「そうですか!」

「ええ、それで妹さんはご自分の婚約者に肩身の狭い思いをしていたと、姉が遊んでばかりで真面目に結婚も考えないから困っていたみたいですわ。行き遅れの、あばずれの姉を持っていたりすると大変ですわよね?」

「ああ、そりゃあそうだよね?」

「マーカスも騙されたんです。その女に。」


誰かにいつか打ち明けようとずっと思っていたんだね?


「あなたは、次女の、エーデルガルトさんとご学友かなんかですか?」

「ええ、いいお友達です。侯爵令嬢なのに威張ったりしない、優しい方です。あの方にいいご縁談が来ないのも、あの姉のせいだったんです。お友達のフローレンス様は男爵家の出でしたのに、伯爵家に養女に出て、妃になられたというのに。」


そう。


「それで、話は少し戻りますが、マーカスさんはどうして殺されたんでしょうね?」

「わかりません。私と結婚するのにいろいろと準備があるからと、お父様が用立ててくれたまとまった結婚用の資金を渡したところでしたの。そのお金がらみで、誰かに狙われたんでしょうか?」


この子の家は子爵家だけど、貿易商をやっているから、確かに金には困らないか。


「確かに、マーカスさんは最後には一銭も持っておられませんでしたね。」

「わあああ…」


泣かれても困るが、泣いてくれる子もいたんだな。


しかし、手切れ金どころか、結婚資金の前払いまで受けていたとは。












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