王都の家と使用人たち
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「いやあ、驚いた。ジュリア嬢はなんだかものすごい力を持っているのだな。」
「俺も聞いた時は驚いた。そりゃあご両親が心配するように、身の危険があるほどにすごい。」
「あの美貌で、あの性格で、そしてあの力だもんな。そんな子をよくもまあ、虐げていたものだ。愚かな奴らばかりだな。」
「あと1ヶ月ここで勤めなければならんのが苦痛だ。」
「まあそう言うな。楽しめ。」
「ああ。お前には世話になってばかりだな。感謝している。」
「水臭い事言うなよ。俺もお前には散々世話になってきたから、お互い様だ。」
ジュリアが家に戻ると、叔父一家はいなかった。
使用人だけがのんびりと掃除や庭仕事をしていた。
「お嬢様!おかえりなさいませ。もうどなたもいらっしゃらないんですよ。ご心配には及びません。」
「ありがとう。それで残ってくれたのはこのみなさんだけ?」
「はい。他の者達はみんな出て行ってしまいました。」
「そうですか。それじゃあ最後のお給料を送らなくっちゃね。」
「いりませんよ。叔父上様が責められて、要求されて、というより脅されて、退職金を払ったんです。残った私達は叔父上様からお金をいただいて出ていくよりお嬢様にお会いしたくてお待ちしていたんです。お嬢様はこれからどうなさるんですか?」
「それなんですけど、ちょっとみなさんあつまっていただけますか?」
残ってくれたのはたった5人だった。
「まず、みなさんに心からお礼を言いたいです。みなさんが私をかばってくれていたから、私は幸せに生き延びました。ありがとうございました。」
そういうと、ジュリアは深々と頭を下げた。
「お嬢様、やめてください。私達はそんなすごいことしてません。お嬢様のことが好きだからって、それだけです。」
「そうじゃ。お嬢様と一緒に花の手入れをするのが嬉しかっただけじゃよ。」
「お嬢様と料理するのが楽しかっただけっすよ。」
「お掃除の時にお嬢様とおしゃべりするのが好きでした。それだけです。なにもしてません。」
「私もお嬢様と一緒に歌を歌いながらお洗濯するのが楽しくて、それでずっとここでお世話になっていただけです。」
「みなさんがいてくれて、私は本当に幸せ者です。」
ジュリアが涙を拭う。みんなも涙を拭っている。
「実は、叔父が脱税をしていて、今は刑務所に送られました。叔母は放逐され、キャシーは修道院に送られました。」
みんな驚いて息を呑んだ。
「お嬢様は?」
「私は叔父たちの所業とは無関係だということがわかっているので、それに関しては何も問われていません。殿下との婚約は解消となりました。これらの結果は私にとってはとても幸せなことです。」
「そうですか、よかったー。」
その場に安堵の声がした。
「それでも、国に対して負債はあるので、これから返していくことになります。残念ですが、この邸は売ろうと思います。そして私は領地にいきます。そこでみなさんに伺いたいのですが、私とともに領地に行ってくださる方はお願いします。でもいろいろご都合もあるでしょう。領地には行けないという方は残念ながら退職金を差し上げます。私はこれからまず自分の部屋を片付けますので、私を見つけてお返事ください。」
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「あの、それから、お恥ずかしいのですが、私は近く結婚します。」
その場に歓声が沸き起こった。
「おめでとうございます。お相手はどんな方ですか?」
「学園の先生で、ずっと私を支えてきてくださった方です。婚約しているのであきらめていましたが、婚約が解消されたので、こういうことになりました。」
「すばらしいです!お嬢様、おめでとうございます!」
「ありがとう。」
それからジュリアは部屋の片付けに行こうとしたのだが、5人が5人とも、領地についていきたいと言ってくれた。
ジュリアはそのことがとても嬉しくて、ひとりひとりに手紙を書くことにした。
調理場に行くと、料理長がいろいろ片付けをしていた。
「お嬢、いつ領地にたたれるんすか?」
「まだ明日明後日というわけではありません。学園が終わるのが今月末なので、その頃になるかと思います。」
「ああ、そうっすね。お相手は先生っすよね。お嬢はそれまでずっとそのお方のところにお泊りになるんで?」
「はい。でも、昼間はこちらに帰ってきて整理します。」
「あの、もしそのお方がここにいらっしゃって夜も一緒に召し上がりたいっておっしゃったら、俺、腕をふるいますんでおっしゃってくだせえ。」
「ありがとう。ぜひみなさんとご一緒したいわ。今夜話してみますね。」
「へい。じゃあお嬢、今夜はこれを持っていってくだせえ。この鶏は皮もつけたままグリルにするとうまいっすよ。」
「まあ、助かるわ。それじゃ、これ、いただきます。」
それからスノウに乗せてもらってへイエスの部屋に行き、夕食の支度をしていたら、しばらくしてフィルが帰ってきた。
「おかえりなさい!」とジュリアがにっこり笑うとへイエスは手で顔を抑えてぐっと黙ってしまった。
ジュリアが小首をかしげて
「フィル?」と訊くと、
「あ・・・すまない、あまり君が可愛くて、その君がおかえりなさいと言ってくれて、幸せすぎて言葉が出なかった。」
ジュリアがへイエスの近くに寄っていき、へイエスの顔をじっと見上げたら、へイエスが、こらえきれないように抱きしめキスをした。
「リア、リア、愛している。」
「フィル、私もとっても愛してます。」
「ねえフィル、いい匂いがすると思いませんか?」
「ああ、腹が減ったな。」
「おまちどうさま。」
「おお、美味そうだな。」
「ふふふ、きょうはね、料理長が鶏肉とそれの美味しい作り方を教えてくれて持たせてくれたんです。上手くできてたら良いんですけど。」
「楽しみだ。いただこう。」
「はい、あーん」
「え?」
ジュリアは鶏肉のひとかけをフォークにさしてへイエスに差し出している。
へイエスは戸惑ったが、有無を言わさぬジュリアの笑顔でへイエスは口を開けた。
「どうですか?」
「うん、美味い。」
「よかった。きょうはね、片付けようと思って家に帰ったんですけど、待ってくれてたみんなと話してて、ほとんどなにもできませんでしたの。」
「ああそうだろうな。叔母上もいなかったか?」
「いらっしゃいませんでした。叔父様たちについていた使用人たちはみんなやめてしまったそうです。なんでも、逮捕されるということを聞きつけた者が叔父様に交渉して、というか、脅して、退職金をたくさん取ってやめてしまったそうです。私をかばってくれていた5人だけが残ってくれてました。」
「そうか・・・それでも残ってくれていた5人は良い人たちだな。」
「はい。それでね、王都の邸は売ることになるので、領地に付いてきてくれる人がいるか訊いたら、全員付いて来てくれるって言ってくれて、とっても嬉しかったです。」
「それはよかったな。あの邸を売るのは良いのか?悲しくはないか?」
「別に悲しくないです。どこでもいいの。フィルと一緒なら。」
「・・・ッ リアはまたそういう可愛いいことを言う。また抱きたくなるじゃないか。」
「だって、ほんとですもの。」
「抱きたいのも本当だ。」
ジュリアは今度は人参をフォークにさして差し出した。
へイエスは素直に口を開けて食べる。
次にジュリアは小エビを差し出す。
へイエスはそれを食べる。
「こういうことができたら、どこに住んでもいいなって思うんです。」
ジュリアがそう言うので、へイエスはジュリアのそばまで行き、キスをして、
「こういうことができるなら、どこに住んでもいいな。」と言った。
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