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酔っ払い

お立ち寄りいただきありがとうございます。


 それからジュリアは家に戻り、大事なものを鞄に詰め込み、貯金箱も持って調理場に行き、美味しそうな食材をかごいっぱいに入れて、フェンリルに姿を消してもらって乗せてもらってへイエスのところに戻った。


 「へイエス先生、ただいま戻りました。スノウも一緒ですけど、よろしいでしょうか?」

「おお、入ってくれ。スノウ君もな。」

スノウはちょっと恥ずかしそうに姿を現した。

「おお、スノウ君か。へイエスだ。よろしく頼む。スノウ君は美しいなあ。」

きれいと言われてスノウは嬉しそう。

「では、お夕食作ります。調理場にあったいろいろなおいしそうな食材を持ってきました。がんばります。」

「いや、がんばらないでくれ。君も疲れているだろう。簡単なものでいいから、休んでほしい。」

「いいえ、先生に早く元気になっていただきたいですもの。それに、私もおなかすいちゃった。」と言ってうふふと笑う。


 へイエスがしばらくスノウと遊んでいると、ジュリアは夕食を運んで来てくれた。

「おまちどうさまー。今夜は牛のカツレツと小エビのサラダ、ポテトグラタンでーす。」

「おおっ、これは美味そうだな。」

「いっぱい召し上がって力をつけてくださいね。」

「ではいただこう。」

「あーーーっ、待って待って。」

「な、なんだ?」

「ワインも持ってきたんです。忘れてた。」

「これはなんだか高そうなワインだな。」

「叔父たちは贅沢してて、ワインとかもいろいろ高いの買ってるんです。私は良くわからないので、大事そうに置いてあるところから何本か持ってきました。あははは。はい、かんぱーい。」

「ああ、君の未来に乾杯。」

「うん、美味いな。君は料理が上手だな。プロ並みだ。」

「ほんとにそう思いますか?じゃあ平民になってもレストランに就職できるかしら?」


 「それだ、そのことを話さないといかんな。でも、食事が済んでからにしよう。」

「そうですね。お食事中は楽しい話題。先生、先生のこと伺ってもいいですか?」

「いいよ。なんだ?」

「先生はどうして先生になられたんですか?」

「そうだな。特に教員になろうと思っていたわけではないんだ。魔道具屋になろうかと思っていた。だが、急に魔道具の教師が辞めてしまって、代わりが居ないからしばらく来てくれと言われて来て、なんだかそのまま居付いてしまったんだ。」

「先生は平民になられたんですか?」

「私は、そうだな、平民になろうとした。でも、たぶんまだ貴族籍は残っているはずだ。戻ろうとは思っていないがな。前に言ったと思うが、私は貧乏伯爵家の3男なんだ。先々代が干魃になった時にかなり散財して、その時の借金が未だに残っている。私には兄が2人いるので、上の兄がすでにあとを継いでいて、その兄に何かあったら下の兄がスペアでいるから、私まで回ってくることはない。普通はそういう立場の者はどこかに養子に入るとか、騎士にでもなるか、というところが多いが、私は貴族社会がどうも好きではなくて、できれば離れたかったので、平民になると言ったのだ。それで魔道具屋になろうとしたが、ひょんなことから教師になっているが、おそらく実家はまだ私の貴族籍は抜いてないようだ。」


 「貴族ってほんっとめんどくさいですね。好きでもない人と子供の頃に無理矢理婚約して、それからずっと籠の鳥。だいたい、好きでもない人の子供を産まなきゃいけないんですよ。子供を生むって命がけでしょ。好きでもない人に命かけるって、なんだかおかしくないですか?」

「そうだな。たしかに女性にとって生きづらい世の中だなあ。」

「私ね、8歳の時に婚約したんです。王命でね。だから断れなくて、父も母も嘆いてました。王子様のこと、どうしても好きって感情が持てないで、挙句の果てにあれでしょ?婚約破棄で国外追放って言われたんですよ。それでもし結婚して子供ができなかったら側女とるんでしょ?信じられないわ。だから平民になって、好きな人と結婚したいんです。好きな人のためだったら10人でも20人でも子供産んじゃいますわ。あっははは。私、酔っ払ってますよね。」

「そ、そうだな。」

「でもね、いいんです。私、幸せです。きょうはごはんの時楽しかったし。」

「そうだな。とても美味しかったぞ。ありがとう。」

「ほらね、美味しかったとか、ありがとうなんて言ってくださるんだもの。私、幸せです。」

「そうか。」

「それに、先生がとっても優しくしてくださって、こんなに幸せなことってありませんよね。」

「そうでもないだろう。君はもっと幸せになれる。」

「そうかしら。これ以上の幸せなんてないと思います。ないですよぉー。うっふふふふ。先生ー、ありがとうございま・・・・・・」

「マクレガー君?ジュリア君?・・・・・・寝たのか?」


 ジュリアはすやすやと眠っている。

へイエスは苦笑した。

まったくこのお姫様は、なんて面白いんだ。

へイエスはジュリアを抱き上げてベッドに寝かせた。

食器を洗うとへイエスはまだ自分がとても疲れているのに気がついた。


 これは自分も寝たほうが良いな、と思い、床に転がって寝ようとしたところ、いきなりジュリアが泣き出した。

「どうした?大丈夫か?」

「いやー、いやー、先生ー、助けてー。」

「マクレガー君、私はここにいるぞ。大丈夫だ、ここは安全だ。」

「先生ー、怖いのー。助けてー。」

これはまだ半分夢の中だな。

泣きじゃくるジュリアを抱きしめて、へイエスは共にベッドに横になった。

それからジュリアはしばらく泣いていたが、やがて寝たようだ。

へイエスもそれで安心して、寝てしまった。


お読みいただきありがとうございます。

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