天然ボケ
アレからというもの、少しゲームにログインできなかった。
要するにトラウマ……。マジで怖かったから現実でリフレッシュしていた。
「ひやっはぁああああ! めちゃくちゃ気持ちいいぜェ!」
ゲーセンでシューティングゲームをしていた。
アレはマジ怖かった。恐怖しかなかった。アレトラウマになるぜ普通……。
「エンジョイしすぎ〜。こういうのじゃなくてもうちょっと可愛いのやりたい」
「文句言うな。オレが金出してんだからよォ」
シューティングを終え、外に出る。
すると、ポップコーンを片手に持つ大学生っぽい女性と目が合った。
その人は。
「お、ラズリ」
「ミヨシ、さん?」
「なに、知り合い?」
「なんや、知り合いか?」
まさかの現実でも遭遇。
「この前ゲームで一緒になった人だ。見た目にそぐわずいい子だぞ」
「おー、ミヨシが言ってたのはこの子かいな」
「あ、この前一緒にあの森から出て来てた人だ」
「そう。その人」
というかオレの紹介が見た目にそぐわずって。ひとこと多いなオイ。
それぐらいで怒るオレでもないが。
「こうして現実でも会うのは運命を感じるな……。改めて私は三吉 朱里だ」
「巽 司っス」
「紫電 小太郎でーす。よろしくおなしゃーす」
「うちは」
「ギャルと不良……」
「見たことそのまんま口に出すの癖なんすか?」
「む、すまない。嫌だっただろうか」
「いや、いいんすけど……」
「言われ慣れてます〜」
普段からそう言われてるしな。
「ちょいちょい! ウチの自己紹介する流れを堰き止めんなや!」
「む、すまない」
「こほん。えー、ウチは! 関西出身! 猫原 露青! よろしく頼むわ!」
「うっす、よろしく頼むっス」
猫原…‥。変わった名字だ。
オレの付近にゃいねェ。
「露青は変わった奴でな。変なことばかり言うんだ」
「変なことって……」
「ボケとるだけやないか! 関東人はユーモアが足りへんのや! だから普段ボケて笑かそう思てんのに、そんな変なことって一蹴されたら立つ背がないわ!」
「まァ、なんとなくわかるな」
笑いが足りないってのは理解できる。東京の人たちは皆黙って歩くし、知らない人とはあまり話さねェ。
知らない人でも漫才をできる大阪とは偉い違いだとは思う。大阪で出来たことでも東京じゃできないことだってあるしな。他人との漫才とか。
「東京人は冗談が通じへんねん! 前に邪魔するぞと言われたから邪魔すんなら帰ってや〜って言ったらコイツホンマに帰りよったんやで!?」
「だって邪魔するなら帰れと言うから……」
「文字通り受け取りすぎやねん! 声音とかで怒ってないかとか判断するやろ! 大体な! うちは基本ボケやねん! 東京に上京してボケまくって同じ大学の子笑わせたろ思っとったんのに、うち以上の天然ボケがおる! 必然的にツッコミに回ることになんねん!」
「天然ボケ……? ボケにも養殖があるのか……?」
「そういうところやぁ!」
うわぁ、関西の血は大変だな。
いや、まァ、この人が天然だというのはなんとなくわかっていたがここまでとは。逆に面白いぞ。
「関西の血が騒いでますねぇ!」
「関東の人にはそんな激しいツッコミは無理だな……」
「血にも種類があるのか……。関東の血は赤色だが関西の血は何色だろうか……」
「同じ色やねん! 血に地域柄も何もないわ! コイツの前で迂闊に例えツッコミ出来へんの! あんたらもそういう間に受けそうなこと言うのやめぇや! ツッコミを増やさせんなぁ!」
息を切らし、ツッコミ終えた猫原さん。
何がなんでもツッコむのは関西人の本能だろうか……。というか、ゲームだとものすごくカッコ良かったのに現実ではこうもボケ倒すって奇跡だな……。
「お疲れ様です」
「ほんなにな……。ちょい自販機で水買ってくるわ……」
「私のも頼む。オレンジジュースで」
「はいよ。なんなら全員分買って来たるから、そこのテーブルで待っとけ」
というのでオレらはテーブル席に座り待つことになった。
「今日はゲームしてないのか?」
「あー……その、あのバラト霊園のことが少しまだ怖くてやれてねっす……」
「あぁ……。あれは確かに怖かったな」
「ホラーがマジで怖かった……」
「幽霊とかダメなのか?」
「ダメではないんすけど、不意に来られるのが嫌なんスよね。不意打ちがマジで嫌っス」
「なるほど。幽霊を普通に見る分には大丈夫なのか」
「ゾンビとバリバリ戦ってたじゃないスか」
ホラーがダメならゾンビも基本無理だと思う。
グロ、ホラーはいける。マジで不意にいきなり来るのはビビる。
オレの弱点はマジで不意打ち。それ以外はそこまでない。
「買って来たで〜。オレンジジュースにィ、リンゴジュース、そしてウチの笑顔!」
「笑顔は飲みもんじゃねェ……」
「……初めてつっこまれた」
「これツッコミなんすか?」
「弱々しいツッコミやったけど……そのツッコミ、しかと受け取ったで! ウチの周りは天然ボケが多いからいつもつっこんでばっかで……。つっこまれるってこんな嬉しいことやったんやなって再確認できたわ……。ありがとうな……。お礼に飴ちゃんあげるわ……」
「飴はいらねっす。キャンディならいいんスけど」
「同じ意味やろがい! くぅ〜! ええなぁ! 巽さん、あんたほんまええ子やなぁ〜!」
オレがつっこんで少しボケてみたら感動して涙流してる。どれだけこういうやり取りしたかったんだよ。
いや、まぁ、そういうのが好きなのはわかった。周りに一番いるのがこの人ならまァ感動するのも当たり前、なのだろうか。




