ナンパ男
曲も順調にできてきたころ、海に入っていた三人が海から上がってきていた。
オレはパラソルの下で悠々と曲を作っていたので気づいてなかったがそろそろお昼らしい。お腹がすいたとあがってきたという。
「なんでつかさん海に入らないの」
「オレ泳げねェし、海行くなんて知らねェから水着もねェ」
「あ、それもそうだった」
「オレが海に来ても海見ること以外何もすることがねェんだよ。だから行きたくねェつったのに」
オレは文句を垂れる。
「ごめんごめん。海の家で焼きそば買ってくるよ」
「ラムネも追加でよろしくな」
「おけー」
コタローのいいところはまァ、フットワークが軽い。
金に物を言わせてやりたいことをしたり行きたい場所に行く。行動力は人一倍あるのがいいんだが、それもそれで時に厄介になるときがあるんだよな……。
コタローが人数分の焼きそばを買ってきて、割り箸をもらう。
「いただきま」
と、食べようとすると。
「君たち、友達同士で来たのー? 可愛いねぇ」
「あァ?」
コタローに話しかけてきた男がいた。
アロハシャツの金髪の男性グループ。ナンパか?
「ねぇねぇ、君たちだけじゃつまらないでしょ? 俺らとあっちでバーベキューしない?」
「しませんけど……」
「すまないが、彼女らは僕の連れだ。あまり着やすく声をかけないでもらえるか?」
「は? うざっ」
「ねぇねぇ、いいでしょ? 君可愛いし、おれ、彼氏の座狙っちゃおうかなぁー」
岩島が止めようとしたが「うざ」と一蹴されてしまった。
「つかさん……」
「おい」
オレはアロハシャツの男の胸ぐらをつかむ。
「オレの連れだよ。気安く触ってんじゃねェ」
「は? 何お前」
「ほら、いいでしょ!」
と、もう片方の男がコタローの腕を引っ張っていた。オレはとりあえず思い切り蹴飛ばした。コタローから手が離れ、男は砂浜に転ぶ。
「なにしやがるんだテメェ!」
と、男はオレに殴りかかってきた。
オレのみぞおちに拳がめり込んだ。オレは少しだけ呼吸困難になってしまう。マジで殴りやがった……。
だが、この程度の痛みなら昔から随分とやられたからな……。慣れっこだ。
「岩島くん! 助けてあげてよ!」
「わ、わかった! やめたまえ!」
と、岩島がオレと男たちを引き離そうとするが、岩島が力負けして突き飛ばされてしまう。こいつら力強い……!
オレごときの力じゃ抵抗しても敵わねェ……。
オレは砂浜に突き飛ばされ、男から何度も蹴りを食らう。
クソ、オレは情けねェ……。コタローを助けるためとはいえ、抵抗もできず殴られたままって情けねェ……。
オレが蹴りに耐えていると。
「俺の妹に何さらしとんじゃボケェ!」
と、聞きなれた声が聞こえた。
オレは顔を上げると、頭に白いタオルを巻いた兄さんが立っていた。
「大丈夫か? 司」
「兄貴……」
「よく耐えた。偉いぞ。喧嘩ならお兄ちゃんに任せておけ」
「んだテメェ……」
「あァ?」
兄貴は怒りの形相を浮かべ、男たちの首根っこをわしづかみしていた。つかまれた金髪の男は苦しそうにもがく。
ああ、やっぱり、兄貴は普段はああでもかっこいいな。男だな……。
「くるじ……」
「苦しいか? でもお前はこれ以上の痛みをうちの妹に与えたんだからな。俺の手を煩わせるなよ」
「ごめんなざ……」
「兄貴……なんでここに」
「海の家のバイトだよ。さっきコタローちゃんが買いに来てさー。ちょうど休憩になる時だったしふらっと寄ったらこれだよ」
「そ、そうなんだ……。とりあえず降ろしてやれよ。今の光景警察に見られたら兄貴が悪者だぞ」
「そうだな」
兄貴は男を解放すると、男は逃げようとしていた。が、兄貴はアロハシャツの襟をつかむ。
「逃がさねェよ。ここじゃ警察の目につくから別の場所に変えろって妹が言ってんだ」
「す、すいませんでした……」
「聞こえねェなァ。なんて言ってんだ? そんな弱っちい声じゃ何も聞こえねェよ」
兄貴は男を引きずっていく。
片割れの男はぽつんと立ち尽くしていた。
「まだやるか?」
「い、いえ……すいませんでした……」
と、片割れはあの男を見捨てて逃げていったのだった。
オレはとりあえず横になる。痛い。苦しい。ものすごく殴られまくったから……。口の中を切ったのか鉄分の味がものすごくする。
「大丈夫!?」
「とりあえず紫電さん、病院に……」
「そうだね! 黒服の人呼ぼう!」
「え、えと、とりあえず応急処置として患部を冷やしましょう! 海の家で氷買ってきます!」
外出たらこうなるんだ。マジでついてねェ。




