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黒猫は眠らない  作者: 鳩胸 ぽっぽ
トウキョウ・カントウエリア
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一宿一飯の恩義として

 オレは外行きの服に着替え、ピアスをつけて街に繰り出すことにした。

 買うものがあるからな。パソコンとか、ヘッドギアとか。オレのヘッドギアがそろそろ寿命を迎えそうだから買いに来た。

 新品であることに越したことはねェし。


 近くのショッピングモールに向かい、オレはとりあえず昼飯を食うことにした。

 フードコートにあるナクドナルドでチーズバーガーを頼み、貪り食う。チーズバーガー一個でもだいぶ腹が膨れるもんだ。

 

「さて、ちょっとトイレしてくっか」


 立ち上がり、オレはトイレに向かおうとすると。


「こら、走り回ったら……」

「うわっ!」


 目の前で幼女が転ぶ。

 幼女が持っていたアイスが宙を舞い、オレの頭に落ちてきたのだった。地面に落ちるわけでもなく、宙を舞ったアイスがオレの頭に……。

 なんでオレはこんな目に合うのだろうか……。


「うあああああ、すいませんすいません!」

「アイス……」

「こら、アイスの問題じゃないでしょ! このおね……」


 オレは頭からアイスを取り、謝ってきた女を見ると。


「……酒井?」

「ひっ……巽、さん……」

「おい、なんでそんなビビってんだよ。オレなにもしねェよ。ったく……」

「アイス……アイスがあああああ!」


 と、幼女はオレにつかみかかってきたのだった。


「や、やめなさい澪……」

「いてっ! 耳ひっぱんな! ピアスひっぱんじゃねェよ! いててててて」

「やめなさい!」

「アイスなら弁償してやっから! もう引っ張んな!」

「ほんとぉ……?」

「ああ、してやるから……。オレが悪人みてェじゃねェかよ……。ったく。そこのアイス屋で買ったんだろ? 何がいいんだよ」

「チョコミントとチョコ!」

「はいはい……」


 オレはとりあえずアイスを買うことになった。

 酒井に妹がいたか。


 酒井 美穂。クラスの同級生で、陽キャグループにいつもいいようにされている女だ。いじめこそないが、いじられていたりする。

 クラスカーストってのでも割と下位のほうだ。オレは割と上位。この見た目だから。


「ほら、もう走ってオレにぶつけんなよ」

「うんー! あ」


 と、またアイスがぶん投げられた。今度はオレの目に直撃。


「目がァああああ!」

「こ、こらあああああ!」

「アイスがああああああ!」


 目にアイス入った! なんでこの幼女はオレばかり攻撃してくんだ!


「テメェわざとやってんだろ! もろに目にあたって超痛ェぞ! 服にも髪にもアイスがついてべたべただぜ……」

「すいませんっ、すいませんっ!」

「アイスがああああああ!」


 最悪だ。オレの髪と服がべたべただ。

 オレはとりあえず場所を変えるという話をすると、近くに酒井の家があるから風呂入っていってということだった。

 とりあえず甘えさせてもらうことにした。



 酒井の家は団地だった。

 あまり裕福じゃないからお気に召す服とかないとか言われる。


「いいよ。オレあまりそういうの気にしねェし。怒鳴って悪かったな」

「い、いえ……」

「あまりビビんなよ。弁償しろとか言わねェから。妹はちゃんと見ておけとしか言わねェ」

「それははい……」


 オレはバスタオルで髪を拭く。


「んで、酒井はなに買いに行ってたんだよ。なんか必要なもんがあるんだろ?」

「あっ、いや……」

「服でも見てたのか? 服ならあそこじゃなくてムニクロとかのほうが安くてかわいい服あるぜ」

「いや……その、げ、ゲームを……」

「ゲームだァ? 買う余裕がないとか友達に話してなかったか?」

「そ、そうなんですけど……貯金がやっとたまりまして……。か、買って遊んでみようかなって」

「ふーん……」


 酒井の家はお世辞にも裕福とは言えないようだ。

 妹の服を見ると、少しほつれがあったりしている。


「あまり金がねェんなら買うのやめとけよ」

「そ、そうです、よね」


 少し落胆している。

 まァ、女子高生ともなると周りについていくためには流行のものとか知っておいたほうがいいし、ブームには乗っかっておきたいモンもわかる。

 が、無理して買うものじゃねェ……。でも、あれだな。やめとけっていった罪悪感が少しある。


「……買うんならオレが買ってやるから」

「え、そんな悪いよ……」

「もちろんタダじゃねェよ。欲しいんならオレが買ってやる。風呂とかはいらせてもらったしな」

「い、いやお風呂は妹が迷惑をかけたからで……」


 そう問答を続けていると電話がかかってきた。オレのスマホから。

 オレは出てみると兄からだった。


『あ、司ー。悪いんだけど今日はどっかに泊まっていってくれねェ? いつもの紫電さんとこでもいいから』

「んでだよ」

『うちの家にゴキが大増殖してるから俺がすべて討伐する! ほかのやつは邪魔だ!』

「あー、わかった」


 ゴキブリ増殖中か。


「じゃあ交換条件だ。オレを今日この家に泊めてくれたら買ってやる。それでどうだ?」

「えっ……」

「一宿一飯の恩義として、な?」

「ちょ、ちょっとお母さんに聞いてみる……」


 そういって酒井が電話をかけ始める。

 うん、うんと相槌を打ち、そして。


「いいって……」

「よし、決まりだな」

「で、でもいいの? ヘッドギアって高いし……割に合わない、よ?」

「気にすんなよ。オレもオレで稼いでるから。思い立ったが吉日。行こうぜ!」

「は、はいぃ!」


 酒井はパアッと笑顔でオレについてくる。


「こ、怖い人だと思ってましたけどいい人ですねっ!」

「お前……それオレじゃなかったら殴られてるからな」

「あ、ごめんなさい……。すぐ調子乗るんです……私って……」

「いや、オレに対してはいいよ」









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