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9 優しい夜

どうぞよろしくお願いします。

 台所ではリーナとシスターが片付けを終えて私の分までお茶を準備してくれていた。


「ありがとう、疲れているのに」


「ジーノこそ、一日中あちこち修理したり子どもたちの面倒をみたり、大変だったでしょう」


「いや、僕はあの家ではそれなりに剣の練習なんかもさせられたから体力はあるんだよね。それにとても楽しかったよ」


「…ジーノ、あなた、昨日までと随分と雰囲気が変わったわね、心境の変化でも?」


 さすがにシスターリカルダに質問されては黙っているわけにはいかないので、簡単に伝える。



「ええと…昨日の朝起きたらすごく具合が悪くて、本当にこのままどうにかなってしまうんじゃないかって思ったんです。そうしたら、死にたくない、もっと生きたいって、思って。


 それに生きるなら悔いのないようにしたいなって思って…だからこれまであの家で習ってきた全てを使ってここのみんなを幸せにしようって決心した。


 ううん、みんなだけじゃなく、自分も幸せになろうって思えたんです」


「ジーノ…」


「シスターリカルダ、これまで僕は何故自分がこんなことになったんだろうって思っていました。誰に頼んだわけでもないのに勝手に連れて行かれて、色々なことをさせられて、結局ここに戻された。


 この先、どう生きていけばいいのだろうと悩みもした。でも、具合が悪くなって生きたいと思ったんです。変ですよね、具合だって一晩たったら大して悪いわけでもなかったって思えるくらいだったのにそんなに大げさに生き死にについて考えるなんて。


 でもその時思ったのはここで生きていきたいっていうだけで、この教会のみんなの笑顔が見たいって思うだけで。だから、まずはその気持ちに正直になってみることにしました。その後のことはまた考えます。僕が変わったように見えるなら、僕の考え方が変わったっていうだけです。」


 ジーノの記憶とゆかりの記憶とが融合した「私」が自然とそう答える。


 ジーノは悩んでいたようだけれど、それはこの教会と孤児院が嫌だったからではないことは2日間でわかった。子どもたちは可愛いし、シスターとリーナの役に立ちたいとも思っていた。


 「私」になったことで子どもたちとの接し方や料理の仕方を覚えることができたら、きっとジーノはここで生きていける。それは今のジーノの希望でもあった。


「明日から、子どもたちには勉強を教えます。少しずつでも文字を読むことや書くこと、計算なんかができればきっとこの先生きていくのに役立つ。それをあの子たちに教えられるようになっただけでも、あの家に引き取られて勉強させてもらった甲斐があるってものです。


 ああ、そう考えるとこの11年間は僕の人生にとってそう悪い期間ではなかったように感じられる…うん、いいな」


 自分に言い聞かせるように話す私にリーナとシスターはちょっと驚いた顔をしていたが、おそらく私の顔が心の通りであれば穏やかだったからだろう、すぐに


「そう、ジーノはそう考えたのね。わかったわ、明日から子どもたちには文字や計算を教えてあげて。ここでそんな教育を受けさせることができるなら、そんなに素晴らしいことはないわ。楽しみよ!」


「本当に、すごいわ。私にもできることがある?何かしたいわ」


と言ってくれた。


 私はリーナに、布で文字表を作りたいので、自分と子どもたちに裁縫や刺繍を教えてほしいことを伝えた。


 笑顔で了承してくれたので、明日から時間がある時に習う。もちろん家庭科を教えていたこともあるので基本の裁縫はできるのだが、子どもたちだって上手な人にきちんと習うほうがいいのでお願いすることにした。これを機会に自分でもできるようになりたいものだと思って、今日を終えた。

お読みくださり、ありがとうございました。

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