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異世界派遣物語  作者: 青木薫


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40/40

40 契約満了

やっと完結です。

 ずるいと思ったのがなぜ伝わったのかわからないけれど、時間がないとはどういうことなのか。今ずっといると言ったのに?そしてその笑顔はやめてほしい。


「多田の改善はほぼ終わったからだよ。さっきはずっとここにいるなんて言ったけど、このままだと僕は本来なら数日で別なところに行くことになる。それは君がよくわかっているだろう」


「あ…、そうか…」


「まあ仕事だからね、仕方ない。でもできるだけ未練が残って仕事が生まれるように…この先ちょっとポカしてゆっくり解決して…いやそれとも直談判で…それなら…もう少し時間ができるか…」


 多田さんがなんだか良くないことを考えている気がする。でも返事がいつできるかは自分にも正直わからないので残ってくれるならありがたいかもと思った。…これ、ずるいのは私のほうだな、と考えていると、


「ああ、でも」


とマジメな顔で聞かれた。


「覚えてる?その世界に残ることもできるって話」


「え?あっ…」


「そう、その世界でパートナーになる人と結ばれて満たされたと見做されると残れる」


「でも、そんな課長さん。私…」


 結ばれるって…その…前の話では身体の関係がどうのって言っていたような?付き合う付き合わないの話の前なのにそんな話になってしまうのか?どうしたらいいのか。


 好きだと言われて嬉しくなくはないけれど、それはそれで自分のチョロさが嫌になるし、いろいろ考えて汗が出る。


「あー、多田さんで呼んでね。とにかく、残れるかどうかがかかってるから急いでる。今は君が押しに弱い上に混乱しているからそれに乗じてっていうのもあって、ごめんね。それから、あのさ、君もだよ?」


「え?」


 何だか途中で怪しい発言があった気がするけど、それよりも私もってなんのことだろうか。


「君もここに転生してきているから、改善が上手くいったって満足したら別なところに行くことになる」


「ええっ?どうしてですか?そんなの、私は本人なのに?」


 転生して自分の世界に戻ってきたのになぜまた転生?思わぬ内容に焦ってしまう。でも多田さんはなんということもない顔をして言った。


「一度出て行ったら、戻った時には『転生』だよ。帰還ならこれまでの仕事の記憶はないはずだったでしょう?


 それにここってさ、元の君の世界の本当に近くだけど、そのものじゃあない。人の行動によって世界は無限に分岐している。君があの日一度家を出て、倒れて、転生して、家に戻っただろう?あそこから『この世界』は始まっているから。


 ここでは概ね僕のせいだけど、『元の君の世界』というよりは、多田や佐々木がいた物語に重なってる部分に君が引っ張られて挟まってきたって感じ。不遇な多田の世界の物語、にだね。


 書かれていない時の人物も生活はしているから、たまたま多田の世界に重なってて会っちゃった。ここみたいに作者の想像が容易な現代では、書かれていない部分であっても、人物の行動やなんかが世界の設定同様しっかり構築されるのが顕著。


 これって中世とか異世界とか分からないで無理やり作った世界だともっとスカスカで裏ではみんなプログラムされたみたいな単純な生活してたりするんだけど、シリーズ化して世界観が固まってくると活気が生まれたり…あ、いや、まあ、だから君は僕(多田)にとっては本来は別の世界、物語の人なわけ。


 でもあの時君がこの世界で倒れた時から、いや正確にはその前からだけど世界は分岐していて、その一つに僕たちはいるんだ。ま、ちょっとズルして君を転生させたここに僕の座標も固定したんだけど。


 だからあのまま元の世界で苦しんでいる君もいるし、この世界で倒れて…酷い結果になった君もいるだろう。でもここではこの先は君の決断でまた良くも悪くも分かれていく。


 佐々木と出会ったのも僕のせいだけど、君の妹の主人公属性のせいで佐々木は妹を選ぶことになるだろう。


 それでも君が佐々木を選ぶならおそらくは悲惨なことになるだろうって予測できるけど…これから変えることはできる。特にここでの君は物語のメインの人でもないから強制力もそこまでではない…のはず…でも、そうでもなかったけどね」


 さっきの私の失恋騒ぎのことを言っているらしく目が冷ややかだ。思わずそっと目を逸らす。


「まあいいけど…とにかく、君はここで仕事をしているから、変化も移動も発生するんだ。


 君が『大丈夫、これでいいんだ』『ここでの相田ゆかりはこの先ずっとマシになる』そんな風に思えればね。本人と君が近すぎて転生の意識が薄いから難しいかもしれないけど。


 普通はこんな転生させないし…そのために転生にちょっと時間かかったんだよね…あーでも君、気付いてなかったよね、ここに来た時、二日酔いじゃなかったでしょ」


 そうだっけ?と思い起こすがあまり記憶がない。だって全部夢だったのかと驚いたのと仕事に行かなくてはならないのとでそれどころではなかった、と思う。多田さんは大きなため息とともに


「…とにかく、君もここではちょっとズレてる。だからこれまでの転生とは違ったところもあったけど、それでもずっとここにいられるわけではない。ここが終わったらまた別なところで仕事だよ。映画でもそんな話なかった?昨日観に行ったんでしょ?」


 ちょっとムッとしながら多田さんが言った。映画を観に行ったことを怒っているのかな。いや、今はそこじゃなくて、あの難しいマルチバースのことを考えなくては…と思っていたのに、


「だから、今、この世界にこの僕と留まることを決めてほしい」


ときた。


 え、人生かかってるくらいの話みたいな気がするのに、今?


「そんな…今ですか?しかも留まることが前提?」


 よくわからないのをいいことに考える間もなく返事を急かされている気がしないでもない。これはどうしたらいいのだろうか。お昼からの気持ちの変化が激しすぎる。でも、多田さんは畳み掛ける。


「こうしている間にも世界は変化していくから。いつ転生が起きるかわからないから」


 確かに、転生した時に既に終わっている話がどうして変えられるのかと思ったけれど、そういう理由もあるのか。


 もしかすると、そのまま不幸な世界で生きている人たちもいるのかもしれない。私が関われたのはほんの一筋の流れで出会った彼らなのかもしれない。それでもその世界で、そこから分かれていく幾ばくかの世界で、彼らが多少なりとも楽しくすごせるようになってくれたのなら頑張ったかいがあったなと思う。


「どうだろう、ゆかり、僕と一緒にここで生きていかないか」


 この先も世界は分かれていくのだろう。ここで彼の申し出を断ったとして、そうしたらこの人は?私は?私達は?この後お互いに転生して、また会うことがあるとして、それは本当に今の彼なのだろうか?


 ああ、難しくて無理、考えてもそれが正しいなんて到底思えない。


 でも、眼の前の、自信家の…多分だけど…、なのにちょっと不安そうな顔の多田さんを見ていたら決心できた。この人は私のことを心から心配してくれている。私の幸せを願ってくれているって感じる。これまでだって。


「…わかりました」


 その瞬間、多田さんの顔が明るく輝いた。


「や、名前で呼んでいいとは言ってませんし、気持ちがついていくかまだ心配ですが、そこは努力します」


 多田さんは頷きながら何か考えているようだ。あ、もしかして…


「あー、ただ、ええと…結ばれる云々っていうのは直ぐには…」


 ともごもご言いかけたところで、多田さんが、私を抱きしめた。


「ぎゃ!ちょっと?」


「ありがとう!嬉しい!!」


「いや、あの?」


「明日、佐々木のことフッてね」


「え?」


「もう決定だから。さっきの『わかりました』で決まったから」


「え?どういう?」


「パートナーと身体云々って嘘だから。簡単に辞められないようにハードルあげといただけで。今、君が決心したのがスイッチ。僕の気持ちは決まっていたから、僕たちはこの世界に留められたよ。さっき通知がきた」


「えー?」


 さっき何か考えていたのはそれか?それに、条件が嘘って?契約に問題があったのでは?いや、それより通知って何?


「身体のほうがよかった?」


「いや、そんなことはないですけど!」


「それはこれからゆっくり進もう」


「と、とりあえず離れてください!」


 その後、多田さんも午後休みをとって私を家に送ってくれたのだが、なんと、驚くべきことに、私を心配してお見舞いに来てくれた佐々木さんが家でちなみに会って心を奪われてしまっているところに出くわした。


 私に告白したことなんてすっかり何処かへいってしまったようで、『僕、相田さんの同僚で…』なんてこれまで頑なだった『自分』呼びをやめてちなみを口説いていて、物語の強制力に呆れた。


 書かれていなくてもズレた世界でも主人公の力は発揮されるのか、それってもう単に生きているってことなんではと思った。


 それにしても、別世界の多田さんだからなのか、多田さんにはその主人公力が働かないことにホッとした。だって考えてみたら、佐々木さんよりも優秀な多田さんのほうがドラマチックだと判断されてちなみの相手に判定される可能性だってあったかもしれないのだ。


 だけど多田さんは冷めた目つきで佐々木さんを見て笑顔を浮かべて『フらせるためにゆかりと二人きりにする必要もなくなったな』と呟いていた。いろいろ変わったし、この世界での多田さんへの嫌がらせもなくなっていくだろう。


 玄関先で頬を染めてちなみに話しかける佐々木さんを見ながら、多田さんが聞いてきた。


「ゆかり、佐々木のことだけど…」


「それがですね、胸は痛みません。多田さんの言う通りたった3日間のトキメキにすぎなかったってことですかね。それより妹の主人公力に驚いているのと、さっきの告白のせいで今の多田さんの心境のほうが気になってます。…チョロすぎですね、私」


 私としては名前呼びも指摘しなかったし、佐々木さんのことで辛くはないと伝えたつもりだったけれど、多田さんは


「3日間も…」


と別なところを気にしているようなので、もう少し説明しておこう。


「この先はずっと多田さんがトキメかせてくれると期待していますから。それに3日間と言っても告白されたのは昨日ですから、実質恋愛気分は1日、いや20時間ですよ。それだって今日の午後のあれこれで全て吹き飛ばされました」


「そうか…」


「そうですよ」


 微妙に嬉しそうな多田さんを見て『やっぱり可愛い』と思ってしまい、そして別な世界から来た人たちでも恋愛重視の世界観からは外れないのかもしれないと思った。


*****



 その後、年度末まで働いた私は、海外へ赴任する佐々木さんと、結婚したちなみのことを空港で見送った。もちろん多田さんと二人で。


 双子とその世話をする母親も一緒に行ったので、この先恋愛小説になるのか、海外でのドタバタ繁盛期になるのかやや心配だが、ここから先は妹が作っていく物語だ。


 元の物語世界の事は…考えても仕方がないし、ここまで進んでしまったら、作者が再開してもつながるのは遠いところにある世界なのではと思う。


 映画でも世界が遠くて性別の設定までもが変わってたのとかあったし、考えても難しくてわからないし…自分ができることを頑張っていこう。よくわからなくても自分が生きている実感はあるのだから。


 多田さんの話だとこの世界に留まることになった私達が、この先、別な世界で『仕事』をすることはないという。私の異世界での派遣も終了ということだ。


 半年やってみて役所での仕事はおもしろいから、この後は庁内のあちこちで短期の仕事を受けながら、次の採用試験を受けるつもり。いや、これまでの派遣の仕事も楽しかったと思っているけれど、自分の意志でこれまでとは違う働き方にチャレンジしてみたい、と思ったから。


「帰ろうか」


「うん」


 これから私は自分自身の物語を作っていく。

 破綻しないようにと四苦八苦したものの上手くいったかどうか…。考えているうちにSFっぽくなるのはSF者なので。マルチバースは難しいです。なんでも有りだと開き直ればいいのか。そしてヒューマンドラマで設定していますが、ジャンルはこれでいいんでしょうか…作品情報でキーワード等を少し変更しようと思います(もちろんSFとは書けませんが)。

 もっともっと書くべきことはありましたが、とりあえず完結です。完結させられて良かった…。この内容で完結させられなければ問題だったと思うので。お付き合いいただき、本当にありがとうございました。


追記:最初に書いた長い作品です。修正しつつ読み返すと反省も多いですが、自分が書きたいものが詰まってるな〜と思ってなんとなく可愛いなと思ってしまいます。改めて、お読みくださりありがとうございました。

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