国王夫妻、諦めの境地に達する
何がなんだか分からないけど、まずは話を整理しよう。そう仕切り直して、まずは国王が話を始めました。息子がエリミアと結婚したいと言っている。それを伝えただけでエリミアの両親は再び目を丸くしました。
「え? 殿下が? エリミアと?」
「国王としては謝罪などおいそれとしてはいけないのだが、父親として言わせて貰う。本当にすまない」
「いい? い、いえ。とんでもございません」
喜んで良いのか何なのか。エリミアの父親は混乱しました。殿下は一体どういうつもりなのでしょう。
それにも増して国王の様子が変です。そう言えば、殿下はどうして碌に外にも出ていないエリミアを見初めてくれたのでしょう? どこで?
「あの、殿下はどちらでエリミアを?」
「それがよく分からないんだが、多分初等学校で出会ったのではないかと思う」
「初等学校…」
それはエリミアが何年も前に卒業した学校です。初等学校を卒業する頃には大人だけではなく子どもたちにも噂の理解が進み、虐められることはなかったものの、その先の学校に進める状態ではなかった彼女は家庭学習の道に進みました。
「ということは、殿下とエリミアは長いこと会っていないという事ですよね…」
そのまどろっこしい摺り合わせに辟易した女神様は口を開きました。
「長いこと会っていないとかいうより前に、エリミアは王子の事なんて知らないよ」
「え?」
と、呟いたエリミアの両親の前で。
「げ」
薄々想像はしていたけれども知りたくなかった事実に悲鳴を漏らす国王夫妻。やっぱり完全な片思いだったのか。と、そこで改めて認識しました。それなのにあんなに暴走して。と、居たたまれなくて思わず頭を抱えます。
その様子を見て、女神様は大きなため息をつきました。仕方がない。可愛いエリミアの為。自分が一肌脱ぐとしよう。
「王子がエリミアを見初めたのは、国王の言う通り初等学校の頃だよ」
女神様は、そして全てを話しました。入学して間もなくエリミアが事故にあったこと。それがきっかけで自分がここにいる事も包み隠さず。
「ああ…」
そこで王妃は気付きました。そう言えば初等学校に入学してすぐの頃、王子の様子がおかしな時期があった。そのせいだったのか。と。
それは王子が結婚したいと言い始めるよりもずっと前の話。その時の王子は、塞ぎ込んでずっと泣きじゃくって手が着けられませんでした。こんな小さな子どもに何があればこんなになるのかと本気で疑問にすら思っていました。でも、理由が分かって納得しました。碌に会わずとも、その後十年以上思い続ける事になる相手の事故。相当なショックだったのでしょう。
「王子にエリミアの情報を横流ししていたのも私だよ。少しでもガス抜きしないとあの王子、本当にエリミアを攫ってしまいかねなかったから」
とはいえ、元気だとかこんな本を読んでいた程度の情報だけどね。と、女神様は呟きました。その言葉に今度は赤面の国王夫妻。もう威厳も何もなく顔を下げて耐えています。
「…女神様」
と、エリミアの父親は言いました。
「これから私達はどうすれば良いのでしょうか」
その言葉に、四人は女神様を見上げました。女神様は考える様子もなく、すんなりとこんな事を言います。
「それはここで決める話じゃないね」
私が決める話でもない。と、女神様は呟きました。
「あの二人が決めるしかないだろう」
それは、四人とも親として分かり切っていたことでした。けれど。
あの息子を会わせて良いのか。
あの娘を会わせて良いのか。
そんな葛藤が四人を包み込みます。でも、やはり。
「会わせるしかないか」
と、国王は呟きました。王子は、親の説得なんかではもう止まらないでしょう。あとは相手に決めて貰うしかない。
「…殿下は失望されないでしょうか」
エリミアの父親は、ぽつりとそう呟きました。彼は、王子にエリミアがどう見えるのか知りません。黒いものが見えて幻滅されないだろうか。そうしたら二人とも傷付く。
その言葉に国王夫妻は目を丸くしました。
「不思議なことを言う。何故そう思う? 息子はエリミアの事があんなに好きなのに」
「そうだよ」
と、女神様も言いました。
「選ぶ権利があるのはエリミアだ。そのエリミアを説得できるかは王子次第だ。王子は死に物狂いで頑張るしかないんだよ」
その言葉に安心した様子のエリミアの父親は小さく頷き、次に不思議そうにこう言いました。
「ところでお二方とも、殿下に対する評価が随分低いようですね。殿下は大変優秀な方と伺っておりますが?」
そう思っていた。でも。と、身内の恥を口にできない国王の代わりに女神様は言います。
「こと、エリミアの事になるとあの王子の知能なんて一以下だよ」
本当に馬鹿なんだから。と、呟いた女神様の一言に、全員がそれぞれの理解をしました。