七話
俺が借りた宿のいいところは厨房を貸し出していることだ。運良くこの宿が見つかったので、すぐに大部屋の予約を1週間分取った。
現在、宿の厨房にはとても食欲をそそるいい香りが漂っている。
もちろん、俺が料理をしているのだ。食材は自分で用意しているので、宿の主人に器具は自由に使って良いと言われた。
「ポポ草のサラダはこれで完成だな。マガフルーツの果汁とアイスソルトで作ったドレッシングは我ながら非常にいい出来だぞ」
口を動かしながらも俺の手が止まることは無い。
右手でボーンラビットの肉を焼きながら、左手でスープを作っている。
「今回のスープはさっぱりとしているから、仕上げにガラガラ茶の葉を細かく刻んだ物を入れて煮込めば完成だな」
俺は左手だけで素早く茶葉をみじん切りにするとすぐさま鍋に入れ、ふたをする。
そして空いた左手でボーンラビットのステーキにかけるソースを作る。
自分で言うのもなんだが、俺はソースには自信があるのだ。なんていったって一人で料理の研究をしていた頃はソースばかり作っていたものだ。
ボーンラビットのステーキに合うソースは既に分かっている。
「太陽トマトをベースにアプーの実を絞ったものを加え、色が変わるまでよく煮込む。そしてそこへ更にフレイムオリーブの油を加えて軽く混ぜる。これで出来上がりだ」
ちょうど右手の方で焼いていた3枚のステーキが焼きあがったようなので皿に盛り、ソースをかける。
「よし、運ぶか」
俺は右手、左手、頭に全ての皿を載せ、二人の奴隷が待っている部屋へと運ぶ。
時は少しさかのぼる。
リッチーの購入した奴隷たちの待つ部屋。
「うううぅぅ・・・。ぐすっ」
「そろそろ泣き止んで?」
泣き止まない蒼髪の美しい少女に声をかけたのは茶色い短髪の少女。どちらも先ほどリッチーが魔法で生成した下着を着用している。もちろん対魔・対物性能に優れた一級品であるため、実はこれだけで高性能のビキニアーマーのような役割を果たしている。
「だってぇぇぇ。ごっ・・ご主人様がぁぁああうわああああん」
「えっと・・・。ああまだ私たち名前付けて頂いてなかったわ。あの・・・ね」
「ぐすっ。うん?」
「私たち、ご主人様のおかげで元の姿に・・・いいえ、もっときれいになったの。それだけじゃなくて暖かいお部屋にふかふかのベッド、そして私たちに料理まで作ってくださる。こんなに素晴らしい方はほかにいらっしゃるかしら」
「いないわ」
「そうよ、奴隷である私たちにここまでしてくださるご主人様に私たちができることはただひとつ。この身をささげ、忠誠を誓い、命を懸けてお仕えすることよ」
「・・・そうね。実は私、元貴族なの。だけど周りの人間は他人を蹴落とすことしか考えていない連中だったわ。私も罪をなすりつけられて奴隷へと落とされた・・・」
「そう・・・だったの」
「ええ。でも・・・。でっでもおお、ごっ、ごしゅじんんしゃまがあああ」
蒼髪の少女が再び泣き始めた。
「泣かないで。今私たちがやるべきことは泣くことじゃない、そうでしょう?ほら、ご主人様の足音が聞こえるわ。とびっきりの笑顔でお迎えしなくちゃ!」
「ええ、そうね!」
そうして二人は自分たちの主への忠誠を誓った。
だが彼女たちは知らなかった。
実は彼が目的のためならば手段を選ばないような性格の持ち主であること、そして彼の正体がリッチーであるということを。