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比較不能 ―《比較解析》の少年と、正解のない世界  作者: たんぱくしつ
第四章 合同実習

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次の場所

水路の事故から、二週間ほどが過ぎた。


町は、ほとんどいつもの姿に戻っていた。


壊れた水路の支えは新しくなり、倉庫の前に積まれていた土袋も少しずつ片づけられている。


レオの右足も、普段歩く分には気にならなくなった。


《加速》も、祝紋院で確認しながら少しずつ使い始めている。


ただし。


 「一回」


レオが言う。


シオンが見る。


 「何が?」


 「今のところ、一回使ったら休む」


 「決めたんだ」


 「決めた」


少し得意そうだった。


 「どれくらい休むの?」


 「……そこまではまだ」


シオンは少し考える。


 「決まってないじゃん」


 「そこはこれから」


隣を歩いていたノアが小さく笑った。


 「前よりはまし」


 「何だよ」


 「前は何も決めてなかった」


レオが何か言い返そうとした時、祝紋院の建物が見えてきた。


今日は三人とも呼ばれていた。


     ◇


部屋に入ると、エルナが待っていた。


机の上には、一枚の紙と見慣れない地図が置かれている。


 「三人とも来たね」


 「何?」


レオがすぐに聞く。


 「また確認?」


 「今日は違うよ」


エルナが地図を広げる。


アルネアから少し離れた場所に、丸がついていた。


 「ここで、近隣の祝紋保持者を集めた合同実習があるの」


レオが身を乗り出す。


 「何するの?」


 「物を運んだり、決められた場所を通ったり、何人かで一つの課題をやったり」


シオンが地図を見る。


 「何人来るの?」


 「参加する子どもは、全部で十人」


エルナが答える。


 「アルネアから三人。学院から二人。残りは近くの地方院から」


ノアが顔を上げた。


 「学院の人も?」


 「うん」


レオが少し考える。


 「十人だけ?」


 「祝紋を持ってる子は、そんなに多くないからね」


シオンは地図を見る。


町をいくつもまたいで集めて、十人。


 「俺たちも行くの?」


レオが聞く。


 「最後の確認で問題がなければね」


レオが自分の右足を見る。


 「足?」


 「そこも見るよ。でも、今のところは問題なさそう」


 「じゃあ行ける?」


 「たぶんね」


レオは少しだけ笑った。


ノアは地図を見たまま聞く。


 「学院の人って、十二歳?」


 「一年ならね。学院は原則十二歳からだから」


ノアは小さく頷いた。


少し前なら、学院の話を聞いても気にしなかったかもしれない。


今は地図から目を離さなかった。


     ◇


エルナが紙を見る。


 「実習では、三つの班に分かれる予定」


 「何人ずつ?」


シオンが聞く。


 「三人、三人、四人」


レオが言う。


 「四人のとこだけ多い」


 「能力の性質や経験を見て調整するから」


 「俺たちは?」


 「三人とも同じ班。そこに学院生が一人入る予定」


ノアが少し顔を上げる。


 「どんな能力?」


 「それは向こうで本人に聞いて」


レオは少し不満そうだったが、それ以上は聞かなかった。


その時、扉が開いた。


ティアだった。


ガルドも一緒にいる。


今日はティアの定期確認の日だった。


 「兄ちゃん」


 「なに?」


ティアが机の地図を見る。


 「どっか行くの?」


 「たぶん」


 「どこ?」


エルナが答える。


 「町の外にある演習場」


ティアがすぐに聞く。


 「わたしも?」


 「今回は行かないよ」


ティアの眉が下がる。


 「なんで?」


 「ティアちゃんは、今の確認を続ける方が大事だから」


 「つまんない」


 「遊びに行くんじゃないよ」


レオが言う。


ティアがレオを見る。


 「レオは遊びそう」


 「遊ばない」


 「ほんと?」


 「……たぶん」


 「ほら」


ノアが少し笑った。


ガルドが地図を見る。


 「泊まりですか?」


 「予定では二泊です」


エルナが答える。


 「私も同行します」


レオがエルナを見る。


 「俺のせい?」


 「それも少し」


 「少しか」


 「仕事だからね」


ティアが言う。


 「エルナさんも行くの?」


 「うん」


 「じゃあ、わたしは?」


 「別の担当の人と確認」


ティアの顔がさらに嫌そうになる。


 「行きたい」


シオンが言う。


 「今回は無理」


 「次は?」


 「分からない」


 「またそれ」


レオが笑う。


 「シオンに聞くとだいたいそれだな」


 「分からないから」


 「知ってる」


     ◇


数日後。


参加が正式に決まった。


出発の日。


祝紋院の前には、荷車が二台止まっていた。


荷物と食料。


毛布。


実習で使う道具。


シオンたちはその間を歩く。


ティアとガルドも見送りに来ていた。


 「二泊だけだよね?」


ティアが聞く。


 「予定では」


 「予定では、いらない」


 「二泊」


 「うん」


ティアは満足そうに頷いた。


エルナが荷車の確認を終える。


 「そろそろ行くよ」


シオンたちは荷台へ乗った。


レオが一番奥。


ノアがその隣。


シオンも座る。


 「行ってらっしゃい」


ガルドが言う。


 「うん」


ティアが手を振る。


 「兄ちゃん!」


 「なに?」


 「変なことしないでね!」


シオンは少し考える。


 「変なこと?」


 「調べすぎるやつ」


レオが吹き出した。


 「それは無理だろ」


 「なんで」


ノアも少し笑う。


荷車が動き出した。


町の道を抜ける。


家が減り、畑が増える。


それから何度か休憩を挟みながら、さらに進んだ。


     ◇


演習場へ着いた頃には、空が少し赤くなり始めていた。


石の壁。


広い中庭。


その周りに、いくつかの建物が並んでいる。


新しく見える木造の建物もあれば、長く使われていそうな石造りの建物もあった。


広場には、すでに何人か集まっている。


シオンは人数を数えた。


自分たちを入れて、十人。


エルナの言った通りだった。


そのうち二人だけ、同じ形の服を着ている。


学院生だろう。


指導役らしい男が前へ出た。


 「まず、学院生を代表して挨拶してもらう」


その言葉に、一人の少女が前へ出る。


年はシオンたちより少し上。


姿勢がまっすぐで、前へ出る動きにも迷いがない。


 「学院一年、ミレイアです。《偏向》を使います」


一度、集まった全員を見る。


 「今回の実習では、学院で学んできたことを活かしながら、


 皆さんと協力して課題を達成したいと思います。


 よろしくお願いします」


きれいに頭を下げる。


レオが小さな声で言った。


 「ちゃんとしてるな」


ノアも小さく頷く。


ミレイアは元の位置へ戻った。


続いて、男が前へ出る。


 「ロディスだ。今回の実習を担当する」


年は三十代半ばくらいに見えた。


大柄ではないが、声はよく通る。


参加者たちを見回す。


 「まず、班を発表する」


名前が呼ばれていく。


三人。


三人。


最後。


 「ミレイア、シオン、レオ、ノア」


レオが小さく言う。


 「やっぱ四人だ」


ミレイアがこちらを見る。


シオン。


レオ。


ノア。


順番に視線が動く。


 「四人?」


 「そうだ」


ロディスが答える。


 「班ごとの能力の性質と経験を見て調整している」


ミレイアはそれ以上何も言わなかった。


     ◇


班ごとに集まる。


最初に口を開いたのはミレイアだった。


 「能力、聞いてもいい?」


レオが答える。


 「《加速》」


ノア。


 「《固定》」


ミレイアが二人を見る。


それからシオン。


 「あなたは?」


 「《比較解析》」


 「何ができるの?」


 「二つを比べる」


少し間があった。


 「……それだけ?」


 「今は」


ミレイアはシオンをもう一度見る。


それから、四人いる班を見る。


何も言わなかった。


でも。


シオンには、少しだけ分かった。


期待されてはいない。


別に嫌ではなかった。


まだ何もしていないから。


     ◇


その日の予定は、顔合わせと場所の確認だけだった。


寝泊まりする建物。


食事をする部屋。


明日使う中庭。


立ち入りを控える場所。


ロディスの説明を聞きながら、一通り演習場を回る。


夕食は大きな食堂で取った。


パン。


野菜の煮込み。


薄く切った肉。


レオは向かいに座ったミレイアを何度か見ていたが、話しかけることはなかった。


ノアも静かだった。


学院生が近くにいることを、少し意識しているように見える。


食事を終えると、明日に備えて早めに休むよう言われた。


シオンたちに割り当てられた部屋には、簡素な寝台が並んでいる。


レオが横になる。


 「明日、何やるんだろ」


ノアが隣の寝台へ座る。


 「能力見せるって言ってた」


 「ミレイアの《偏向》って何だと思う?」


 「知らない」


 「シオンは?」


二人が見る。


シオンは少し考える。


名前から想像はできる。


でも。


 「分からない」


レオが笑った。


 「やっぱそれか」


灯りが消される。


しばらくして、隣からレオの寝息が聞こえ始めた。


シオンは目を閉じる。


《加速》。


《固定》。


《偏向》。


《比較解析》。


四つ。


一緒に使えば、何ができるのか。


まだ分からない。


でも。


明日になれば、試せる。

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