第1話:『密室の追悼会(オフ会)』
「ねえ見てこれ! この前の復刻アクスタ、メルカリで粘ってやっと手に入れたの〜!」
「やだ、ユカちゃんすごーい! それ、速攻で完売した幻のやつじゃない!」
都内某所の高級レンタルスペース。
柔らかな日差しが差し込む室内には、色とりどりの推しカラーで装飾された祭壇と、華やかなお菓子や紅茶が並べられていた。
テーブルを囲むのは、ファンサイトを通じて集まった5人の女性たち。
1年前に急逝した天才2.5次元俳優・ライトの一周忌。
『ライトくんを偲ぶ会』という名のそのオフ会は、始終、和やかで温かい熱気に包まれていた。
「本当、ライトくんってば罪な男よね。いなくなって一年も経つのに、こんなに可愛い女の子たちを狂わせてるんだから」
主催者である麗華が、上品に紅茶を一口含みながら微笑む。
高級ブランドの服を上品に着こなす彼女は、ファンサイトの管理人であり、ライトの活動を陰から大金で支えてきた「聖人」のような太客だ。
「私、正直ここに来るまでちょっと怖かったんです……」
黒髪ボブの清楚な女子大生・ひまりが、胸の前でキュッと手を握りしめながら小さく呟いた。
「皆さん、ライトくんが売れる前からのすごいファンの方ばかりだし……新規の私が来ても、浮いちゃうんじゃないかって」
「なーに言っちゃってんの、ひまりちゃん! オタクに新規も古参も関係ナイナイ!」
金髪ギャルのユカが、ひまりの肩をバシバシと叩いて笑う。
派手なネイルを揺らしながら、自慢の「最古参アピール」を交えて場を盛り上げるムードメーカーだ。
「ライトを愛する気持ちがあればみーんな仲間! ね、アサミさんもそう思うでしょ?」
「……そうね。彼の残した作品を愛してくれるなら、ファン歴なんて関係ないわ」
タイトなスーツにメガネをかけた知的な美女・アサミも、珍しく目元を緩めて頷いた。
彼女はファンサイト内で、ライトの過去の出演データや発言を完璧に網羅・整理している「データベース職人」として一目置かれている。
部屋の隅で、黒のゴスロリ服を着たイチゴだけが黙ってカプチーノを飲んでいるが、それすらも「人見知りの子なのかな」程度に流されていた。
誰もが、ライトの思い出に胸を躍らせ、互いの「愛」を認め合っていた。
その時までは。
――カチャ。
静かな金属音が、部屋の和やかな会話を遮った。
麗華が立ち上がり、玄関のドアの重厚な鍵をゆっくりと施錠した音だった。
「麗華さん……? どうしたんですか、鍵なんてかけて」
ひまりが首を傾げる。
麗華は答えず、バッグから手のひらサイズの黒い機械を取り出すと、カチリとスイッチを入れた。
ブウン、と耳鳴りのような低い振動音が部屋満ちに広がる。
アサミが手元のスマホに目を落とし、眉をひそめた。
「アンテナが……消えた? 圏外? 麗華さん、それ……携帯の電波妨害装置?」
「ふふ。驚かせてごめんなさいね」
麗華は優雅な所作のまま、全員の顔を静かに見回した。
さっきまでの穏やかで優しいお姉さんの笑顔は、跡形もなく消え去っていた。
瞳の奥には、濁った冷酷な光だけが宿っている。
「でも、おままごとはここまでにしましょう。――あの子を殺した犯人と、じっくり話し合いたいから」
「……は? 殺した……?」
ユカが素の声を漏らす。
麗華はポケットから折りたたまれた一枚の紙を取り出し、テーブルの上に広げた。
破り取られたノートの切れ端。そこには、乱れた文字でこう書かれていた。
『キサラギに、すべてを奪われる』
「これは、ライトくんが転落死したあの夜、彼の部屋のデスクに残されていたメモよ」
麗華の声が、ゾッとするほど低く室内に響く。
「ライトくんは、自殺なんかじゃない。この中の誰かに追い詰められて……殺されたの」
静まり返る密室。
5人の『狂信者』たちの仮面が、今、静かに剥がれ始めようとしていた。




