念動者
あらすじ小説です。
きっかけはアメリカ大統領選だった。共和党の候補の背後には FBI が付き、民主党の候補の背後には CIA が付いて情報合戦が行われた。
結果、国内情報に強い FBI が情報合戦に勝利し、投票直前に民主党候補のスキャンダルを暴き、共和党のT氏が大統領となったのである。
この結果、アメリカ政府内での CIA の発言力が弱まり、国外の諜報活動にも支障がでてきたことを CIA 幹部は重視し、新たな戦略が模索された。その結果生まれたものの一つが、特殊能力者を集めた破壊工作組織であった。つまり超能力者を利用しての破壊工作の実践が真剣に検討されたのである。この荒唐無稽な考え方が受け入れられたのには理由がある。明白に超能力を持った人物が特定されており、その確保に成功していたからである。
その人物は十代の白人女性で、CIA 幹部の前で念動力を使い、人を、車を、そして戦車をも持ち上げたり、手も触れずにCIA が用意した人間の心臓を破壊して殺害してのけたのである。
そもそも念動力とは何か?念じることで物を動かす能力と一般的には認識されているが、物を動かす方法は色々ある。例えば目の前の鉄の塊を持ち上げるには、単純に腕力や機械による方法以外に、重力を制御して持ち上げるという方法も考えられる。念動力がどのような力なのかを特定することは困難といえる。
CIA には件の少女以外に、明確にではないが超能力者を自称しており、また目に見える形ではないが、測定器による調査ではわずかに念動力とおぼしき能力の発動が確認された人物が協力していた。そしてその人物は少女をひどく恐れたのである。
「少女の能力は桁違いだ。戦車を持ち上げるのがすごいという話ではない。人の殺し方が異常だ。もし私が少女のような能力を持っていたとしても、人の体に直接念動力を使うことは考えられない。殺すとしても物を介して殺す。たとえば重いものを落とすなどして。なぜなら念動者は力を加えている対象について手で触るよりも多くの情報を得ている。もし心臓を破壊するのであれば、手で心臓を握りつぶす以上の生々しい感触を脳が感じ取るはずだ。この少女は・・・それをあっさりやってのけた。精神に異常があるのではないか」
もちろん CIA の関係者も見つめるだけで人を殺せる少女の能力を危険視し、その制御方法を模索した。少女の能力について、発動条件、得手不得手、限界について調査したのである。
発動条件は、まず少女が対象を視認することである。これは直接目で見る必要があった。モニター越しではどうしても発動することができなかった。また視認する場合でも距離があり、はっきりと見えない場合は発動ができない場合があった。望遠鏡などではっきり見えれば遠くからでも発動できた。
また物理法則を無視している状況が多々あった。通常物理的な力を加えるには、てこの原理でもそうだが、支えとなる場所が必要である。しかし少女が念動を発揮する際に、少女の体になんの物理的な負荷がかかっていない。そうでなければ戦車など持ち上げられるはずもなかった。これが念動を発動する場合に、その支点も念動により生み出されているのかについては、当の少女にもわからなかった。
得手不得手については、固体を持ち上げるのは得意でも、液体そのものを持ち上げるのは苦手であった。また人を持ち上げる場合も、色々と結果が違った。ある人は腰の辺りを掴まれていると感じ、ある人はエレベータに乗っているような感じ方をしていた。また持ち上げられた際に苦しみだし、後で調べると首の間接が外れていた人もいた。まるで巨人が頭を持って持ち上げたようであった。
少女に問いただすと、イメージしているとの返事があった。念動を発揮する際にはすべてイメージを具現化しているという。例えば戦車を持ち上げる場合は、巨大なクレーンがそこにあるように想像し、そのクレーンからワイヤーが戦車につながっており、持ち上げているようにイメージする。実際戦車を確認するとワイヤーを付けたといっている部分に負荷がかかった形跡があった。人を持ち上げる場合も、クレーンから腰や頭にワイヤーをかけて持ち上げる、あるいはエレベータに乗っているイメージで能力を発動したという。少女によるとこのイメージをいかに具体的に持つかで、大きな、あるいは細かい力を発動できるという。
限界についてもそのイメージが大きく影響した。念動者の頭の中でどれだけリアルに力が作用した結果をイメージできるかがキーであった。例えば、核ミサイルが爆発したイメージを頭の中で描いても何も起こらない。記録映像や映画の CG といった画像しか知らないからだ。念動力を発揮した結果と同じ状況を実体験していることがもっとも効果的に力を発揮できる鍵であった。また実際に見ていても、その事象について理解していないとイメージが弱く念動の効果は低い。例えば男性の股間に打撃が加えられた場面を見ていても、同じ効果を念動で実現しようとしても効果が低かった。逆に経験していないことでも、普遍的イメージがあるものについては、念動を発揮できることができた。例えば人を殴るような、あるいは土に穴を掘るような念動を発動する場合などである。
ここまで調査が進んだ時に恐ろしい疑問につきあたった。少女は外見に傷一つつけず、心臓だけを破壊して人を殺している。心臓の外見や位置など知識として知っていても実際に見ていない限り念動での殺人は難しいはずであった。そのことを少女にといただした結果、回答は「見て、触って、握りつぶしたことがあるから」であった。
少女の殺人暦については調査部に任されたが、医療部からも少女のメンタルな面のケアが始まった。しかしその動きは上層部の意向により変更を余儀なくされた。CIA が求めているのは念動力を駆使した破壊工作員である。メンタルなアプローチをするのであれば、ケアではなく、洗脳に特化すべきであると。
念動者としての少女の優位性はそのイメージ力、言い換えれば妄想力にあった。いかに頭の中でリアルにイメージを再現できるかにかかっていたのである。
やがて世界の様々な国で、不可解な事件が勃発するようになった。一件関連性がないように見えるが、一つのキーワードで括ることができる事件である。すなわち「アメリカ、ひいては CIA の立場を強化するような結果を招く事件」である。
それは要人の急死(暗殺)であったり、テロリスト拠点の殲滅、敵性国家の設備破壊などである。いうまでもなく念動者の少女の仕業であった。CIA は少女を洗脳し、様々な経験をつませることで念動者としてのスキルを強化していた。
少女はコードネームで"アリシア"と呼ばれていたが、アリシアのケースで味をしめた CIA 上層部は、さらに念動者を確保すべく調査を進めた。その結果、同盟国である日本にいる同じく十代の少女が候補として上がったのである。理由は二つある。例の初期からの CIA の協力者の人物は念動力については非常に弱く役に立たないが、念動力を検知する能力は強かった。アリシアを見つけたのもこの人物の能力である。この人物はコードネームで"ふくろう"と呼ばれており、男女の性別すら CIA 内部にも公開されていなかった。ふくろうの能力で日本の少女が特定され、調査部の身辺調査の結果、彼女の母親が幼少期に超能力ブームに乗ってテレビ出演していた超能力少女という経歴を持っていることが確認されたのである。母親には既に力の片鱗は感じられなくなっていたが、ふくろうは少女にアリシアに匹敵する力があるのでは、と感じていた。少女がなんらかの超能力を持っていてそれを隠している可能性は高いと判断され、CIA 上層部は少女の確保に乗り出した。同盟国とはいえ他の主権国家での活動には制限があった。少女の家は一般的な家庭であり、借金などの付け入る隙は見つからない。結局「拉致して洗脳」という乱暴な方法が採択されたのである。
作戦当日、エージェントたちはアリシアを同行させた。スケジュール的に日本を経由して次の作戦地域にいくことが決定されていたためと、拉致する少女(アリシアの A に対して、B のベティというコードネームが付く予定)に念動を見せて仲間がいることを理解させようとしたのである。万一少女がまだ超能力に目覚めていなくとも、アリシアがいれば対処に幅ができるはずであった。
拉致そのものはあっさり完了した。日本は平和ぼけの国である。外国人が道案内を頼めば親切に同行してくれるし、人気がない場所にも付いてきてくれる。注意すべきは監視カメラと警察の巡回だが、夕刻の住宅街にはどちらも存在しなかった。むしろ脅威があるとすれば少女の能力である。そのため少女は眠らされて拉致された。目覚めた時にはすでに米軍基地の中である。通常の拉致であればこの時点で絶望を植え込む。つまり「絶対に逃げられない。親も、警察も、日本国も助けには来てくれない」ということを分からせるのである。しかし少女の能力発現状況がはっきりするまでは心理的に追い詰めることを避けるべきであった。
目覚めた少女の反応は、拉致に長けたエージェントにしても以外なものであった。何故か「自分が悪いからここに閉じ込められているのか?」という質問を繰り返すのである。多分に自虐的性向の人格であった。またしばらく放置しておくとカバンから小説を取り出して読みふけるありさまであった。危機感というものと無縁の態度である。またエージェントの一人が金髪碧眼の美男子だったのだが、そのエージェントを見てうっとりとして「エーリュシオン様」と話しかけるという、理解に苦しむ心理状態であった。
少女の両親を監視しているチームからは、深夜の時点で親から警察に捜索願が出ていることが確認されている。金曜日の夕刻から行方不明のため、警察の初動は鈍かった。友達と遊びほうけている可能性もあるためだが、両親は「あの子はそういうタイプではない。基本引きこもりだから」と警察に訴えているという。この両親が言うところの「引きこもり」の実態を CIA のエージェントたちは徐々に理解し始めていた。少女は家に引きこもっているということではない。事前調査では、学校には普通に登校している。友達は少ないがいないわけではない。部活にも所属せず、毎日学校から家にまっすぐ帰る。少女が引きこもっているのは、己の頭の中であった。そしてそれは一つの可能性を指す。少女が高い妄想力、ひいては高い念動力を持っていることを。
拉致翌日。さすがに「お家にかえりたい」と言い出した少女に対して、アリシアを面会させることにした。アリシアは、日本人の少女(コードネームはベティだが、本名は"かや"であった)に対して、自分の能力を披露した。目の前にあるテーブルやティーセットを持ち上げて見せたのである。念動を目の当たりにして少女が能力に目覚めているかを確認したかったのである。結果は予想どおりであった。ただし少女の表現は理解の外だったが。
「あなたも第六階梯の人間なのね」
少女はそういったのである。調べてみると、少女が読みふけっていた小説が超能力もののライトノベルであり、その中では超能力者がそのように呼ばれていた。美男子のエージェントを呼んでいた名前も、小説の中の容姿がにた登場人物のものであった。少女は自分の能力と小説の中の話を重ね合わせて、現実とフィクションの境目をさまよっているようであった。これは一種の精神的自衛手段かもしれないと、CIA の心理学者は分析した。
以外だったのはアリシアの反応である。かやの能力の程度を見たがり、同じことを念動で行うことを強要したのである。どうやら一種のライバル心のようなものがあったようだ。人種は違えど同じ 10 代の少女であったことと、もう一つ、アリシアのコンプレックスがあった。アリシアは同年代の女の子に比べて発育が遅かった。現在 18 歳であるが初潮も半年前にきたばかりである。決して醜い顔立ちではないが、子供っぽい体格と平凡な顔立ちが、超人類を自負する自分にふさわしい容姿ではないと考えていたようだ。
一方かやは、誰が見ても美少女とみなす容姿であった。15 歳であったが日本人離れしたスタイルの良さで、グラマーではないが、清楚な外見をしていた。以前行きたくもない原宿に友達に無理やり誘われて行った際には、地味な格好をしていたのにも関わらず、十メートルごとにスカウトに呼び止められたものである(その友達はかやを芸能界デビューさせようと企んでいた節がある)。この容姿の良さが両親をして「誘拐されたのではないか」と心配している理由であった。
アリシアの求めに応じてかやは同じように周りにあるものを持ち上げて見せた。さらに CIA エージェントたちも驚いたことに、かやは自分自身も持ち上げて見せたのである。これはアリシアにはできないことであった。どうしても自分自身が空を飛ぶ、という妄想を持ち得ないのがアリシアであった。かやはそのようなファンタジー的な妄想を普段からしているのであろう。これは CIA にとってはうれしい誤算であった。空を飛べる工作員がいれば、任務に様々な応用が効くからである。
しかしかやは空を飛べる能力を見せるべきではなかった。特にアリシアには。
アリシアの嫉妬の念は高まり、かやを念動を使っていじめだしたのである。鎖につなぐイメージで拘束し、卓球のラケットで頬を張るイメージで殴り、野球のバットで殴るイメージで痛めつけた。かやはこれまで自分を守るために念動を発揮したことがなかったため、この攻撃、そうまさに念動による攻撃に耐え切れず気絶寸前だった。しかし、防衛本能が働いたのであろう、鎖の拘束を斧による切断の妄想で切り、自分の周りに鋼鉄の檻があるイメージで攻撃を防いだのである。
そして「もう怒った。おうち帰る!」と叫んだのである。次の瞬間、アリシアの後ろの壁が粉々にくだけ、吹っ飛んだ。アリシア自身には何の影響もなかったが。
これはかやがアリシアの存在を無視して巨大な鉄球が飛んでくるイメージで破壊したのであるが、CIA エージェントたちはまたしても驚くしかなかった。アリシアが念動を発揮するには妄想が必要だが、その妄想を念動に変えるためには、妄想が収まるスペースが必要であった。つまりクレーンを使ってものを持ち上げる妄想をする場合でも、妄想のクレーンが入る空間がないと持ち上げられない。
それをかやは巨大な破砕機が必要と考えられる妄想を狭い部屋の中で発動したのである。しかも自身とアリシアにはその影響を与えずに。これはかやの妄想力が周囲の状況に影響されず、完全に頭の中だけで繰り広げられおり、それをダイレクトに念動につなげることができる可能性を示していた。念動のコントロールという一点でかやはアリシアの能力を大きく上回っていたのである。




