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テレポーター

あらすじ小説です。

超能力が便利すぎると面白くないので、能力に限定条件があれば面白いと思い考えてみました。

カツミと呼ばれる人物がいる。東京の裏社会にある程度以上足をつっこんでいる人物ならば一度は聞いたことがあるであろう名前だ。職業は「消し屋」である。例えば、あなたが死体を作ってしまったとする。その後のあなたの行為はおおむね3パターン考えられる。1.警察に自首する。2.死体を放置して逃げる。3.死体を処分する。1.と2.の場合カツミに出番はない。3.の選択肢の場合にあなたが金持ちであれば、自分で隠すよりカツミに頼んだ方が賢明と言えるだろう。ご存じだろうか?例え「人を殺しました」といって警察に自首しても、死体が発見されなければ、最終的には罪に問われる可能性は低い。死体無き殺人事件が有罪になった例は戦後1件のみ。それも最高裁まで争ってやっとだ。

あなたは一縷の望みをかけてどこかで手に入れたカツミの携帯メールアドレスにこう入力する。

「件名:消して欲しい。本文:一つ。」

そうするとカツミから返事のメールが帰ってくる。場所と時間の問い合わせだ。折り合いがつけばカツミはすぐやってくる。意外と働き者なのだ。あなたが招き入れたカツミの外見は20代後半、少し長身で、街中にあふれているありふれたファッションの男である。今時だが髪は染めていない。少し長めの頭髪を適度に乱れさせた柔和な表情にあなたはほっとするかもしれない。

カツミの仕事は手早い。例えばある広域指定暴力団の下部組織の若頭の自宅に招き入れられた時の話をしよう。その家のだだっ広い寝室にあるキングサイズのベッドの脇に、ホスト風の男が横たわっている。胸に2カ所拳大の大きな穴が開いており、既に血が固まりかけている。ベッドと床には盛大に赤い模様が飛び散っている。部屋の隅には頬を赤く張らした色っぽい女性がガウン姿でへたり込んでいる。こんな状況でなければ大きく開いた胸元から覗く豊満な胸に目を奪われることだろう。状況はカンタンに推測できる。若頭の女房が浮気相手とベッドで励んでいたところに若頭が帰ってきて男を射殺したのだろう。若頭はカツミに分厚い封筒を渡す。中身は500万円の現金だ。軽くうなずき金を受け取ったカツミはベッドの血の付いたシーツをはがし、死体に覆い被せる。そしてシーツの中に手を差し込んで死体にさわる。一瞬後シーツはふわりとエアコンのわずかな風にあおられてから床に落ちる。そこにはもう死体は無かった。カツミがシーツをベッドに戻すと、男の物言わぬ体はどこにも残っていない。文字通り消えてしまったのである。若頭はこれで2回目なので外見上は落ち着いているが、女房の方は目を丸くして、大きな乳房がガウンからまろびでているのにも気づかず、ベッドの下などを探している。カツミは黙ってうなずき、出ていこうとする。ここまでわずか5分。カツミは一言も喋ってはいなかった。その時若頭がカツミを呼び止めた。へたくそな広島弁でカツミに料金が高い、金を返せ、と要求する。手にはトカレフとおぼしきオートマチックの拳銃が握られていた。カツミは黙ってうなずき、懐の札束を若頭に投げて返した。その直後である。若頭は頭上から振ってきた何かの下敷きになって無様に床に倒れた。銃が暴発しなかったのは幸いと言える。若頭の頭上から落ちてきたのは先ほど消えたと思っていた、浮気相手の死体であった。そのことに気づいた若頭は黙って去ろうとするカツミに、待て、頼む、消してってくれと懇願することになる。カツミは振り返りもしないで出ていこうとする。若頭は銃で脅そうとしてカツミの足元を狙って撃とうとしたが、再び死体が頭上から落ちてきてその下敷きになってしまった。床に転がっていた男の死体がいつの間にか若頭の頭上に移動していたのだ。

カツミは立ち去り、若頭は自分で死体処理をする羽目になった。結局は組の若い衆と死体を車で搬送中に飲酒検問に引っかかって捕まってしまったのだが、自業自得といえるだろう。

カツミが行ったのはマジックでも何でもない。もしそうならカツミは表の世界で興業をうち、大成功を納める事が出来るだろうが、この場合は違った。

種も仕掛けもない。ようはカツミは超能力者なのである。彼の能力は瞬間移動、すなわちテレポーテーションである。ただしよくコミックで見かけるようなちょっと念じるとどこへでも一瞬で移動できるというような能力ではない。行ったこともない、見たこともない場所にどうやって瞬間移動するというのか。カツミの能力は限定されていた。まず自分自身の移動は目で見える範囲に限られている。見えないところへの移動はできない。テレビ画像で映っている場所への移動もできない。移動先は肉眼で直接見えている場所だけだ。身につけているものも、かなり意識しないと一緒には移動できない。自分以外の移動は無生物しか移動できない。生物の場合死骸などでないとダメだ。その代わり、自分以外のものの場合かなり遠くまで、知らないところでも移動させることができる。その場合、何キロ先の上空何メートル、といったことに思考を集中させてやる必要がある。その場所が例え山の中でも大丈夫だ。その場合移動させたものと同じ形の土塊がカツミの元に現れる。空間を交換しているということなのだろう。また一度移動させた物体は見えないところにあっても移動させることができた。先ほどは移動させた死体をまたこの部屋に移動させて若頭の頭上から落としたのである。

この能力を使って彼は消し屋を商っているのだ。

他にも限定される事はある。物理法則に縛られる場合があるということだ。例えば走っている電車に無賃乗車しようとテレポートで飛び込むと、あっという間に進行方向の逆方向にすっ飛んでいくことになる。慣性系が違う運動体に接触する時は注意しましょう、ということだ。もし月や火星など他の天体に移動できたとしても、慣性系の差異から、どうなるかわかったものではない。とんでもないスピードで吹き飛ばされるか、もしかすると地面にたたきつけられるかもしれない。

何にもぶつからなくとも、G で体がぺしゃんこになるかもしれないのだ。

長距離テレポートができないのも、本能的にこのような事態をさけているためなのかもしれない。

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