真実②
俺が人間だと?
俺はヒューマノイドだ。定期的に医者に行って成長プログラムを受けている。
「ありえない。惑わす気か?」
「惑わしてどうする? 心当たりがあるじゃろ? 人を殺せないはずなのに君は同僚を殺した。成長プログラムだって君は寝ている間に終わるのだろう? それはプログラムを書き換えるふりをして麻酔で寝かしていただけじゃ」
真実かどうかはどうでもいい。
「なぜそんなことをする意味がある」
「実験じゃよ。人間として生きているヒューマノイドを観察するのであれば、その逆もある。それが君じゃ」
俺が観察対象だというのか。
「信じない。俺はヒューマノイドだ」
「そう思わせるために小さい頃から言い聞かせていたからな」
確証がない。俺が人間なのか、ヒューマノイドなのか。
「さあどうする? 君にすべてをゆだねる」博士が俺の腰の銃を指さす。「それで決めるのじゃ。わしを殺してヒューマノイドを守るか、自分を撃ち人間に世界を任せるか」
俺は梅園博士に異常事態をどうにかするように説得するために来た。
どうにかしないようなら殺すつもりでもあった。
その時点で気が付くべきだった。俺に人を殺す意思があること。ヒューマノイドのプログラミングの制御を受けていないこと。
いいや、竹丘を殺したのだ。そこで気が付くべきだった。
梅園博士は嘘は言わない。真実のみを語る。
しかし俺が生きてきた二十七年間はヒューマノイドであるという自覚の元だ。今更人間だとは思えない。
人間だとしてもヒューマノイドとして生きたい。
だがヒューマノイドとして生きるのであれば、梅園博士は殺せない。竹丘を殺したことは正当防衛だ。プログラミングによる制御の範囲外かもしれない。
俺はホルスターから銃を出す。トリガーに指をかける。
ヒューマノイドを守るか、人間に世界を任せるか。
俺が選択する。この国の未来は俺の一発で決まる。
胸の鼓動がいつもより激しい気がする。
深呼吸を一つ。
梅園博士はにやにやとこちらを見ている。
俺はどんな表情をしているのだろうか。
狙いを定める。
トリガーを引く。
銃声が一つ、静かな東京に鳴り響いた。




