39.英雄の愛した娘
最終改稿日2015/04/12
「リザ。それからリィーテはいるか?」
「あら……?お兄さま。いらっしゃるなんて珍しいですわ。こちらです、リィーテも一緒にお茶を楽しんでいるところです」
「……ご無沙汰しております、サーレント様」
森王国シェルファの王都シンリーにある宮殿の庭にサーレントは直接訪れていた。兄妹の末である妹でありシェルファの女王のリザ・ソア・ダナンとその庇護下にあるリィーテ・オルテリーナ・アイラスに会う為だった。
「2人とも元気そうで何よりだ。こちらは特に変わりはないか?」
「そうですわね。シェルファは悠久の時の流れより隔絶されておりますから。不埒な人間がたまに森へ侵入しようとして……外界へ吐き出されているくらいですわ、お兄さま」
人口の殆どがエルフ族である森王国シェルファは国土の大半を迷いの大森林に覆われ、精霊王国コッタンに隣接する国境地帯に交易のため他種族が居住している。大森林を抜ける為にはエルフ族かハイエルフ族の案内が必須であり王都シンリーに近年入城した他種族は200年前以降は記録に残されていない。
「さてすまないが今回はあまり長居できなくてな。リィーテ。お前に少し尋ねたいことがある」
「……なんでしょう?」
「お前の義理の母、リン・エンシェについてだ」
「と、言いますと。何か問題でも起きたのですね?」
「ああ。……シルフィニアスが復活した」
リィーテは驚きのあまり特徴的な長い耳をピンッと伸ばし瞳を大きく見開いてサーレントを、まさか?との思いで見つめ返す。
「すると……サーレント様のお尋ねしたいことと言うのは、禁呪・代償魔法についてですね?」
「察しが早くて助かる。確認したいのは二つ。代償は他者のモノでも可能かどうか。そしてリィーテ、君がその封印魔術を使えるかどうか、だ」
「お兄さま、まさか!?」
「200年間の封印で充分弱体化していれば滅する事もできるかもしれないが、無理なら封印するしかない。で、どうなのだ。リィーテ……?」
「厳密に言えば代償は他者でも可能、です。ただ……安定性に不安が残ります。封印術については……母から教わっていますので使えます」
「わかった。一度私はウィシュメリアに戻らねばならん。次に来る時には封印術を教えてくれ、リィーテ。ではな」
「あっお兄さま!!」
瞬く間に掻き消えるサーレントにリザは不安を覚える。思い詰めてまた無理をするのでは、と。
「リザ様。いざとなれば私が封印します。その為に私は母から教わったのですから……」
「だめよ、リィーテ。貴女はまだ……安定していないわ。安定する前に欠損してはどんな影響がでるか分からないもの……」
その為に貴女をここ、外界から隔絶された場所に庇護しているのだから。リザはそうリィーテを諭し、兄を信じる事にした。
***
「陛下。諸侯各位、揃っております」
「ご苦労。控えよ、用があれば呼ぶ」
「御意」
転移陣を利用してシェルファより帰還したサーレントは諸侯の待つ謁見の間へと進み入る。
「良く集まってくれた。かなり困った事態が起きていることが発覚したのでまず状況を把握して貰いたい」
「陛下、その前に確認させて戴いてもよろしいでしょうか。此度の召集は『討伐』と考えてもよろしいでしょうか?」
「そうなるだろう。最悪は封印する事になる」
封印が必要になるレベルの大物と聞いて謁見の間に緊張がはしる。
「まず討伐対象についてだが、目下緊急性のある対象と調査の上討伐もしくは捕縛対象の二つになる」
「ユールシアの魔霧、吸血鬼卿シルフィニアス・セレニアスが200年ぶりに復活しすでに被害も発生した。よって、これを緊急討伐対象とする。現在ユールシアに確認を取っているが、復活を闇神アルカイトがわざわざ降臨し告知したことから確実だと判断する」
「次に調査及び討伐捕縛対象だが、緊急討伐対象の封印を意図的に解いたと見られる集団とする。調査担当となった者達は緊急時の使用権限を与えるので王城転移陣より賢者の学院ユールシア校マーサ支部へ準備を整え次第すぐに飛べ」
「また、本日より王都において夜間の、特に女性の外出を禁止する。急病など緊急時は神殿より直接派遣するなど配慮せよ。以上、早急に編成を組め。なお、ウィリアム・ウィンター伯爵。そなたには今一度確認したいことがある。ついて参れ」
***
「さて。ウィリアムよ。先日の地下図書館の件、報告書は読んだ。……あやつだと思うか?」
「……おそらくは。世界を跨ぐほどの術式を備えている可能性のある吸血鬼となればタイミング的に吸血鬼卿でしょう」
「件の娘はそなたの屋敷におるのだったな?」
「……はい」
「そなたの娘、ウィンテルだったか。何故あやつに無謀な戦いを挑んだのだ?実力差は明白であろうに……見ず知らずの娘に命を懸けるほど、愚かでは無い筈であろう?」
「…………」
「……言えぬか」
「盟約により多くを語ることは禁じられております故、申し訳御座いませぬ。ただ、我が娘は件の娘と同じ世界よりナーシャ神の加護を受けし転生者、とだけ申し上げまする」
「なんと……」
「加護を受けし者の周囲には寵愛受けし者が集う、との口伝。陛下で御座いますれば御存知かと」
「…………あやつは来ると思うか?」
「忌まわしき二つ名『蒐集家』持ちであれば必ず」
「なればそなたは編成には加わらず、我が麾下にて来るべき時に備えよ。……下がれ」
ウィリアムが去り、サーレントは一人、溜息を吐く。最近やたらと王都の精霊が落ち着かぬ理由がよもやこのような理由だとは思いもしなかった。
「加護を持ちての転生となれば……再来ということか。なればあの異世界の娘。導かれたのかもしれんな」
「……今しばらくは伯爵に預け様子を見る他ないか」
いろいろと考えるべき問題点や疑問はあるがそれは今するべき緊急性はまったくない。目の前の面倒ごとを排除してからでも十分だ。
「陛下。マーサより返答があり、確かかどうかは不明確なるも領民に十数名、不明者が出ているとの事」
「こちらから調査班を送る事は伝えたか?」
「はい。夕方までには転移陣にて向かう事を伝えてあります」
「分かった。討伐班は準備を整えつつ待機、それからウィリアムは編成から除外せよ。奴は私の指揮下に加える」
「御意」
報告に訪れた内政官に新たな指示を与え下がらせるとサーレントは短く溜息を吐いた。
「いずれにせよ、加護持ちへの対処を誤れば……洒落にならんことになるな。全く」




