表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/24

違和感

「シラヴィア様、お久しぶりです。……よく僕だって分かりましたね」


 どのくらい時間が経ったのか、落ち着きを取り戻したライオの第一声はそれであった。


 シラヴィアの見た目は10年前と何ら変わっていない美しい姿だ。しかし、ライオは違う。彼は今年で19歳である。ライオとシラヴィアが初めて出会った時とは、体格も顔つきも声も全然違う。


 それにライオは、泣き声も押し殺していたし、顔も腕を押し当てていたので見えなかったはずだ。


(どうしてすぐに僕だと分かったのだろう?)


 回復魔法が発動してからライオが泣くまでの間に1度顔を見ていたならば分かるかもしれないが、シラヴィアの口ぶりからしてそれはない。彼女は、ライオが泣いていることにも、その時に気づいたようだったし。


(──それに、シラヴィア様は、おそらく……)


 ライオが周囲を見ると、戦いが起こったなんて信じられない程、綺麗に整頓されてゴミ1つない部屋があった。場所は間違いなく魔王と戦った部屋で間違いない。回復魔法が正常に働き、部屋へのダメージが全てなかった事にされたのだ。室内の豪華な調度品の配置は、魔王と戦う前のものとほぼ同じように思える。天災魔法なので回復魔法の効果範囲を絞れなかったとは言え、随分広範囲になってしまったものだ。


 ──だからこそ、違和感がある訳だが。


 そんなライオの思考はともかくとして、シラヴィアはあっけらかんと答えた。


「なに。そう難しい事でもない。我には『その者の才能を輝きとして視る』力があるんじゃ。童と初めて会った時もあの魔法の才能の光が見えたから、助けるだけでなく才能を開花させようとしたのじゃよ。あの時の光と童は一緒じゃったからな。顔が見えなくてもすぐ分かったぞ」


「なるほど……。それは……っ、ゴホッ、くふっ」


 ライオは続けようとしたが、突然喉が痛み、咳が出た。泣きはらしたせいか彼の声はだいぶ掠れていて、声にも何か違和感がある。


 咳を出したライオに、シラヴィアが近づき背中を摩る。


「ふむ。大丈夫か? 話すのは後でも良いぞ。……時間はいくらでもあるからの」


「いえ……」


 ライオは回復魔法を喉に掛ける。死ぬ前に使い切った魔力は、時間経過でそこそこ回復していた。


「これで治りました……?あれ?」


「上手い魔法じゃのう……ん? どうかしたか?」


 明らかにライオの声がいつもよりも高い。まるで声変わりの前のように。


「いえ、ちょっと声が……っ!?」


 その事に引っ掛かりを覚えて、ライオが目を泳がせていると……、


 ──調度品の1つ、大きな鏡が目に入り、


「それは童の時間魔法の影響じゃろうよ。この規模は中々無いが、随分と派手に戻したようじゃのう」


 ──鏡の中には、小さなライオ──まるで10年前の自分──が立っていた。


「……え?」


 ライオは非常に混乱した。彼女の言葉に、そして今の自分の姿に。


(時間魔法なんて聞いたことがない。第一、僕の得意な魔法は回復魔法だ)


「時間魔法とは……?」


 ライオは、半ば呆然としながらシラヴィアに尋ねる。


「ん? 童が使っている魔法じゃよ? 知らぬのか?」


「……僕が使っていたのは回復魔法じゃないんですか?」


「回復魔法……? ……なるほどの。確かに開花した時の魔法が……」


 シラヴィアが小声で何事か思案し、納得したように呟く。


「シラヴィア様?」


「ああ。悪いのう。把握したぞ。童は魔法の種類を勘違いしておったのじゃ」


「種類を?」


「うむ。童が使っていた魔法は回復魔法なんぞではない」


 そう言うとシラヴィアはおもむろに指で円を描く。時計の針を回すように。


「童が使う魔法は、『時間魔法』じゃ。遥か昔、人類の大英雄『無手の勇者』ルークが得意としていた魔法の1つじゃよ」


「っ!?」


 ──そう、とんでもない事を口にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ