転機
瘴気で魔力の代用ができるかも、狙った魔法陣を形成するように瘴気が分布してくれるかも、瘴気が魔法陣を形成したとて瘴気で天災魔法が発動するかも、不安定な天災魔法が暴走しないかも、全てが未知数だった。
もはや賭けですらない、ただの妄想が当たっていたことに心底安堵する。死ななくて良かったと、心の中が安心でいっぱいになった。
そう感じると、ライオの瞳から、一筋の涙が零れる。
別に泣きたい訳じゃないのに、涙が止まらない。
この感情はなんなのか。
生きていた事に対する安堵か。
仲間だった彼らの裏切りに対する怒りか。
自分の非力さを呪う悲しみか。
多分、それらすべてだろう。
「──うっ……、ううっ、うぅ………………」
ライオは、床に仰向けになったまま腕で目を覆い泣き始めた。誰に聞かれる訳でもないが、声を押し殺してすすり泣いた。
人生最悪の日。ここまで心が荒んだのは初めてだ。
──だから、今日に人生最大の転機が訪れるなんて思ってもいなくて。
「久しぶりじゃのう。童。本当に再会できるとは思ってもみなかったが──ってどうしたのじゃ? 泣いておるのか?」
──その声に驚かされる。
「……え? ………………シラヴィア様?」
涙で濡れた目を開けると、そこにはあの頃と同じ、黒色のローブを纏ったシラヴィアが立っていた。
彼女を見て、ライオの頭の中は完全に真っ白になった。
まさかシラヴィア様にまた会える日が来るなんて思わなくて。
でも、どうしていいのか、どうしたいのかも分からなくて。
メンタルもぐちゃぐちゃで。
ライオにはどうすることもできなくて。
「……っ」
気が付けば、ライオはシラヴィアに抱きすくめられていた。彼女の温かい体温が、ライオに伝わる。
「何があったかは我には分からん。じゃが、大変な事があったようじゃな。……時には泣く事も大事じゃ。我は誰にも言わんし、我慢する必要もないぞ。童」
彼女にそう言われた瞬間、堰を切ったようにライオの目から涙が溢れて止まらない。さっきまで押し殺していた泣き声も吐き出して、子供のように泣きじゃくった。
「つらかった……痛かったよ…………悔し……かったっ……」
「……うむ」
「うあ……あ……ぁ……ああ……」
嗚咽を漏らし、泣き続けたライオの背中をシラヴィアは静かにずっと摩っていた。




